45
連絡を取ることもないまま2日が経つ。自然消滅なんて事あらへんよね?と不安に思いつつ、いつもと同じ生活を過ごしていた。
部活を終えて校門に向かおうとチア部の友達と歩いていると、前方からチア部の別の友達の声で、「あ、来たんちゃう?」と私達の方を指す声が聞こえた。少し歩くと見覚えしかない愛しい人の姿も一緒にいるのが見えた。
「なまえ〜、角名くんがなまえの事待ってたんやって」
そう言われて倫太郎の顔を見ると、いつも学校で見せる無気力そうな顔で私を見ていた。
一緒に帰ろうとしていた友達に断りを入れて先に帰ってもらった。
「なまえ、今日一緒に帰ろ。なまえの家まで送ってく」
「あ、うん。バレー部もう終わってたんやね」
「今日途中から自主練だったから早く切り上げて待ってた」
「そうやったんや」
いつも通りのように感じるけど、何か違和感があった。なんとなく、嫌な予感がずっと心にあった。
家の最寄り駅に着いて家までの道のりを歩く。途中にある小さめの公園に寄って話そうと言われたため、大人しく倫太郎に着いて行った。子供達はすでに帰っているため、公園は静かで私たち二人だけの世界のようで、なんだか心がくすぐったかった。その静寂を終わらせたのは倫太郎だった。
「この二日間、ずっと考えてた。今後の事とか、俺らの事とか」
倫太郎は薄暗くなっている空を見つめて小さく言葉を発する。
「なまえと、別れたい」
何となく察してた。今日で私たちは終わるのかなって。
「理由聞いてもええ?」
「俺が、耐えれなくて。もう、辛い」
理由は全然話してくれないし、何が耐えられないのか、何が辛いのかわからなかったけど、倫太郎の表情を見るとそれ以上聞けなかった。でも全然納得出来ないし別れたくない気持ちもある。
「…私は嫌やし、納得できへん。わがまま言ってごめんけど、私は別れたない」
「…ごめん」
「私の事嫌いになったん?」
その答えに倫太郎は何も言わなかった。
「…もう、頑張ってもあかん?もう、元に戻れへん?」
「…ごめん」
倫太郎が泣きそうな声色で一言そう言った。その一言で私はもう戻れないという事を察して、自然と涙が溢れて来た。
倫太郎は私の涙を拭ってくれない。もう、彼の中では終わった相手だから当たり前だ。自分の今までの甘い行動に嫌気をさしたのだから仕方ない。
「私はまだ倫太郎が好きやし、諦めれへん。そこだけは許してほしい。これからも倫太郎に片想いさせて。それでええなら…別れる」
「わかった」
「他に好きな子出来たとかやない?」
「うん、違う」
「そっか、よかった」
家まで近いという事もあって公園からは1人で帰ると言い、私は薄暗い夜道を歩く。
「絵麻、今電話平気?」
「なまえやん、どうした?」
1人だと涙が止まらなくて、誰かに話を聞いて欲しくて絵麻に電話をする。
「あんな、倫太郎と別れた」
「…はっ!?」
「何やねん、絵麻」
隣に治くんがいたようだった。絵麻が「なまえと角名くん別れたんやって」と伝えると、治くんまで大きな声で驚いていた。今のタイミングは良く無かったと少し後悔するが、もう話してしまったものは仕方ない。
先ほどの話を軽く伝えて、私の気持ちも一緒に伝える。絵麻はスピーカーにしていたらしく、治くんにも会話は聞こえていた。
「ハァーーーーー。アイツはほんま何考えてんねん…ほんまアホやな」
「角名くんもなまえの事ベタ惚れやったのに」
「バレンタインあげる予定やったのになー。あげたら断られるんかな」
「何でなまえはそんなあっけらかんとしとんねん」
「なんか2人に話したらちょっと元気でたわ」
「なんでやねん」
2人の時間を邪魔するのも良くないと思い、その後少しだけ話して早めに電話を切った。
絵麻からは「もうすぐ治帰るから電話できるで」と連絡があったけど、さっき絵麻達に話したら割と心は落ち着いたから「また明日話そ、ありがとね」と返しておいた。
別れたけど片想いは許してもらえたし、私の事嫌いになったわけやないならまだチャンスはある。振られたはずなのになぜかやる気を出してしまっているあたり、なんだかハイになっているようだった。バレンタインは流石に断られるんかな、と思いつつ作る予定やったしダメ元で渡すと決意した。
▽
なまえと別れた翌日、朝練のためいつも通り早くに学校へ行くと侑に「ちょっと来い」と呼ばれた。何の話かはもうわかる。
「何でなまえちゃんと別れたんや」
「俺なんかじゃなまえを幸せにできないんだよ」
「何舐めた事言うてんねん。お前やから幸せやったんやろ、なまえちゃんは。お前はなまえちゃんの何を見てたん?ほんまに好きやったんか?何も分かってへんやん」
侑は矢継ぎ早に俺に鋭い言葉を向ける。
「逃げんなや、角名。何も別れる事あらへんやろ。せめて距離置くとかすればよかったやん」
「それも失礼かなって。でも、今の俺は本当になまえと向き合う事すらキツくて。俺が言うとキモいかもだしあんまり言いたく無かったんだけど、本当に愛が重いんだよ、俺。もっと依存する前に、今のうちならまだ遅くないかなって。これ以上なまえに依存したら本当に自分が何するか分かんないから」
「はっ、お前自分の事しか考えてへんな。今までそんな男に負けとったんか、俺。ほんま腹立つわ」
侑はそう言うと部室に向かって足を踏み出した。
「お前やったらなまえちゃん幸せなんやろなって思っとったわ。勘違いやったんやな」
侑の一言が凄く胸に響いた。あの侑が俺に期待してくれてたと思うと驚くけど、侑は普段そんな事思わないタイプだ。
そして、なまえと別れて数日が経つ。どこから話が漏れたのか分からないけど、俺となまえが別れたことは既にみんな知っていた。そして、なまえはまた呼び出される事が増えたらしい。さっそく狙っていた男子達がこぞって声を掛けてるが、なまえは見向きもしていないと聞いた。告白には「まだ諦められてへんから」と言っていると噂で耳にしたが、本人から聞いたわけではないしどこまでが本当かは分からない。
そして、俺も告白まではされていないけどアピールされる事は増えた。
「角名くんってほんまになまえちゃんと別れたん?」
「あー、まぁ」
「角名くんから振ったって聞いたんやけど、ほんまなん?」
そんな事まで知られてんのかよ。まぁ、なまえが告白の返事で「諦められてない」と言っているから、そう考えるのが妥当だろう。俺が振ったって言われるのも何かちょっと嫌な気がするけど。まぁ嘘ではないから何とも言えない。
「なまえちゃんかわええのに中身微妙なんやな〜」
随分勝手な事を言ってくれるもんだ。そんな訳ねぇだろと心の中でキレつつ、目の前のこの女の子には何も言葉を返さない。微妙な空気を察して欲しくて、目線を下げた。しかし全く気付いていないようで、ニコニコしながら俺に視線を向けてくる。
「角名くんどんなタイプが好きなん?」
「分かんない。好きになった人がタイプってやつ」
「えー、見た目とかは?」
「見た目も別にタイプとかないよ」
正直になまえがタイプと言いたいところだけど、じゃあなんでお前が振ったんだとなるだろうから言えなかった。
そんな事が増えつつ、変わらず日々を過ごしていた。そして今日はバレンタイン。本当ならなまえから貰えたのかなと自惚れつつ朝練をした後授業を受ける。
昼休みにバレンタインのチョコを渡したいと2人から呼び出されたけど、なまえに気持ちがまだある中でチョコを受け取る気にもなれず断った。部活に向かう時に下駄箱を見ると一つだけバレンタインのお菓子な入っていた。そのままにするのも腐ってしまうため持ち帰るが、申し訳ないけど食べる気にはならなかった。
「角名、お前チョコ受け取るの断ったらしいな。女の子が泣いとったの見たで」
治が部室で俺にそう言ってきた。
「あー、まぁ。好きでもないのに受け取るのもなって」
「お前冷たいな〜。頑張って作ったんやで?」
「でも気持ち返せないのに期待させるのも酷じゃない?」
「角名ってまだなまえの事好きやろ」
「当たり前じゃん」
俺がすんなり認めると治は頭を抱えた。ため息をついて俺を憐れんだような目で見てくる。
「お前拗らせすぎやろ。そんなんやと後悔すんで」
「…マジでどうすればいいか訳わかんないんだよ。本当に人を好きになったの初めてで、俺も自分で困惑してんの。別れても頭から離れないし」
「せめて別れる前に相談せぇや。もう手遅れやん。今さらやっぱり別れるの無しなんて言えへんやろ」
治に呆れられつつ、俺らは準備を進める。部員が続々と来たところで俺らはなまえの話題に終止符を打った。いつも通りに部活をやり、いつも通りの時間に終わって学校を出る。バレー部の仲良いメンツで寮に向かうのは俺だけで、1人駅を降りるとそこには見慣れた愛しい姿があった。
「あ、倫太郎。部活お疲れ様」
「…は?なまえ?なんでここに?てかずっと待ってたの?」
「部活終わってからやから30分くらいやけど。すぐ済ますから少しだけ時間くれへん?」
そう言ったなまえに頷き駅の外のベンチに座る。別に俺は鈍感じゃないから何となく察して期待してしまう。
「あの、今日バレンタインやん?倫太郎に渡したくて待ってた。迷惑かもしれへんけど良かったら受け取ってくれへんかな?」
俺は迷っていた。受け取りたい気持ちが強いけど、俺が振っておいた割に受け取ってもいいのかと。
「…噂で聞いたけど、ほんまに受け取らんのやね。誰も受け取って貰えへんかったって聞いたから」
「気持ち返せないのに受け取るのも良くないかなって思って」
「それは、私にも同じように思ってるん?」
また治に呆れられそうだなと、自分の意気地なさに肩を落とす。俺は何て返せばいいか分からず黙ってしまった。
「これで物を渡すのは最後にする。もう倫太郎を困らせへんから、これだけ受け取って欲しい」
「…わかった。何作ってくれたの?」
俺が話を膨らませると、なまえは少しだけ驚いていた。
「えっと、マカロンとプチケーキ。甘さは少し控えめにしたつもりやけど、口に合わへんかったらごめんな」
「いや、なまえのなら大丈夫」
俺なりの少しだけアピールをしてみた。この程度で十分だ。前みたいに積極的になれないところは少しもどかしいけど、でもこれでいい。
「家まで1人で帰るの?送るよ」
「平気。たまにこの時間に帰る事もあるし」
「…そっか。気を付けてね」
俺はあまり後追いせずなまえと別れ寮に向かった。部屋に着いてなまえからもらった紙袋を開けると、お菓子の入ったおしゃれな箱と小さなメッセージカードが入っていた。
『今までもこれからも倫太郎が大好きです。バレー頑張ってね。なまえ』
「…こんなん、忘れられねぇよ」
BACK
TOP