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早いもので私たちは2年になった。そして奇跡が起きた。
「なまえとまた同じクラスやん〜!ほんま嬉しい!治も一緒やし今年最高すぎる」
「修学旅行もあるし絵麻と同じクラスでほんまよかったわ。今年も楽しそうで嬉しい」
「な、しかも角名くんも一緒やん」
「ふふ、うん。アピール頑張るわ」
私は1組で、絵麻、治くん、そして倫太郎と同じクラスになった。チア部の友達も数人いてとても楽しい一年になりそうだ。
1組の一軍女子達も去年同様とてもいい子たちで安心した。彼女達からは「なまえちゃんと絵麻ちゃんと同クラとかうちのクラス最強すぎやろ」「治くんと角名くんもおるでもっと最強やん」「え、怖すぎるやろ、顔面偏差値どうなってんねん」と過剰に褒められたけど、なんだか仲良くなれそうだった。
2年になって月日が経った。クラスメイトとも徐々に仲良くなって、女の子達からは呼び捨てで呼ばれる仲となっていた。そして、もう二つの出来事。一つ目は
「角名くん。今日もバレー部見学行くね」
「あぁ。うん」
「へへっ。今日も頑張ってね!」
同じクラスの新実さん。去年から倫太郎と同じクラスだったようで小柄で可愛らしい子で、おそらく倫太郎の事が好きなんだろうなと伝わる。倫太郎はあまりいい反応ではなさそうだけど、あんなに好き好きアピールされたらいつかは気持ちも傾くのではないかと不安を抱えている。そして二つ目。
「なまえちゃん。今度練習試合すんねんけど、来れそう?来週土曜日」
「あー、部活あるで行けても途中からなら」
「来れそうやったら来てや。俺なまえちゃんにかっこええところ見せたいねん」
侑くんが私に絡む事がとても増えた。隣のクラスという事もあり、銀島くんと一緒に1組に来てバレー部と話しつつ私に絡んで帰って行く。絡み方も他の女の子よりもかなり好意的なため、一時期付き合ってると噂がされた程だったが、あまりにも侑くんの一方的な絡みのため最近は侑くんの一方通行だと定着してきた。
そして悲しいことに倫太郎とはあまり進展がない。私がなかなか積極的になれないのが原因と分かってはいる。これでは新実さんに負けてしまうと焦りつつも、どうすればいいのかと頭を抱えた。
チア部にも可愛い後輩が出来た。いい子達ばかりで、ありがたい事にとても懐いてくれてる。
チア部の一年生はよく男子バレー部の話をする。やはりバレー強豪校という事もあって、バレー部はうちの学校でも花形の部活だ。彼らは何もしなくても入部してるだけで目立ってしまう。
「侑先輩ほんまかっこええ〜!」
「うち治先輩派やねんけど!」
「あたし最近角名先輩も色気あってええなって思ってるねんけど!」
「むっちゃわかる!侑先輩と角名先輩は彼女おらへんのやろ?頑張ったら彼女になれるんかな!」
宮兄弟は変わらずだけど、倫太郎は2年に上がると去年とは比にならないくらいモテるようになった。後輩からすると倫太郎は落ち着いているところが大人っぽく見えて色気を感じるそうだ。そしてあの切れ長の綺麗な瞳、整った綺麗な顔、低く澄んだ声、モテる要素は詰まっている。
倫太郎とは同じクラスになってからあまり話せていないけど、何度かは目が合ったりする。絵麻と治くんがいるおかげで近くに行ける事はあっても、前のように話に行けずで上手くいかない。
▽
今日は山田くんと私が日直の日だった。放課後、ゴミ捨てと日誌を出して仕事が終わる。私も部活があるし山田くんも確かテニス部だったから部活があるはず。早く終わらせて部活に行きたいと思ったため、山田くんに「私日誌出しとくで、山田くんゴミ捨てお願いしてもええ?そのまま部活行ってもええから」と提案をすると、何故か山田くんは「いや、みょうじさん終わるまで待ってるでええよ」と言葉を返された。効率を考えると先に行ってくれた方がいいと思ったけど、まぁ彼がいいならいいやと思い、わかったと応える。
私が日誌を書いていると目の前の席に座る山田くん。視線を彼に向けると私の手元を見て微笑んでいた。思ったよりも近い距離に少しだけ身を引きつつ、「どうしたん?」と一言声を掛ける。
「ん?みょうじさんって手も字綺麗やし、ええ匂いするなーって。みょうじさんって今彼氏おらへんの?」
「彼氏はおらへんけど、好きな人はおるよ」
「え、まさか角名やないよな?」
「え、そうやけど」
そうはっきり言うと山田くんは驚きつつも余裕そうに笑っていた。
「諦めれへん?」
「うん、なかなか諦めれへんよ」
「ほんなら俺と付き合わへん?もしかしたら忘れられるかもしれへんし。俺好きな子にはかなり大事にするで。みょうじさんの事、一年の頃から気になっとってさ、今日日直一緒でラッキーって思っててん」
なんだか軽い告白で私は心底うんざりした。
「ごめんな。ほんまに好きな人としか付き合いたいと思えへんくて。中途半端な気持ちで付き合うのも山田くんにも失礼やし、ごめん」
そう私が断ると、山田くんは少し冷めた瞳で見つめてきた。基本的には告白を断るとみんなサッパリ諦めてくれる事が多いけど、たまに振られた腹いせで嫌な事をされた事もある。この人もこのパターンかなと思うと、少し面倒くさいなと気持ちが下がってしまった。
「そんなんやから角名にも振られたんやろ。みょうじさん顔ええから高飛車っぽいし、角名も疲れて振ったんやろな。ま、でも顔はええから選びたい放題やし、すぐ新しい彼氏もできるんちゃう?ほんま羨ましいわ〜」
嫌な笑顔で憎たらしく嫌味を並べられ、もう私に用事はないようでゴミを持って後ろの扉からそそくさと教室を出て行こうとしていた。言い逃げとかダサ過ぎやろ、と呆れていると前の扉に誰か人の気配を感じた。
「振られた腹いせになまえに暴言吐いてんのダッサ。なまえの事何にも知らないくせに勝手に語らないでくれない?俺の事もなんか言ってたけど意味わかんないから」
倫太郎が練習着の姿で立っていた。今の会話を聞いていたのだろう。私から見ると、彼は相当頭にきているようだった。
「あ?角名が振ったんやろ?しかも誰が言ってんねん。お前もう新実といい感じやんか。もうみょうじさんなんか捨てとるくせに彼氏面すんなや」
「新実さんと?あれがいい感じに見えてんなら随分お花畑な脳みそしてんね。ほんと安直な考え」
倫太郎は明らかに山田くんを煽っていて、冷たい空気が流れていた。
「みょうじさんと付き合ってたからって調子乗んなや。みんな言うとるで?宮ツインズやなくて角名で付き合えるんやったら自分でもいけるんちゃうかって」
明らかに倫太郎を侮辱する事をヘラヘラと笑いながら言い出す。倫太郎は澄んだ顔をして山田くんを見つめていたが、私は許せずに彼を睨みつけた。
「いけるわけないやろ。倫太郎以外興味ないねん。バカにしてるんやったら許さへんよ」
私が強気で口にすると、山田くんも倫太郎も驚いて私を見ていた。けど私は何も間違った事言うてへんし訂正するつもりもなかった。
山田くんは私と倫太郎をジロリと睨み付けて教室を去っていった。久しぶりに倫太郎と2人きりになるので、少しだけ緊張してしまう。
「り、倫太郎部活は?」
私が倫太郎に視線を向けそう言うと、倫太郎は何も言わずに私を見つめていた。そして小さな声でポツリと一言溢した。
「新実さんとは何にもないから」
「え、えっと、そうなんやね。仲はええなとは私も思っとった」
「本当に何もないよ。…なまえこそ侑と仲良いよね」
「あー、えっと、何かよう絡まれてんねんけど、私らも何もあらへんよ」
「…侑の事好きなの?」
倫太郎からこんな事を聞かれて、勝手に舞い上がってしまった。自惚れてしまうような事を聞いてくる倫太郎は、ズルい。
「私の気持ち、まだ変わってへんよ。まだ、倫太郎の事忘れられへん」
私がそう言うと、倫太郎は急にハッと我に帰ったように目を少しだけ見開いた。私がここまで言うと思っていなかったのか、倫太郎は気まずそうに目を逸らし視線を下げた。
「俺…」
「お前らまだおったんか。部活はええんか?」
倫太郎が何か言いかけた時、担任が忘れ物を取りに来たようで話が遮られてしまった。倫太郎は急いで「体育館戻ります」と足早に言ってしまい、残された私も「もう書き終わるのでそろそろ教室出ます」と日誌に目を向けた。倫太郎は何を言いかけたのか心残りがあるまま、いつものように部活に励んだ。
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