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次の日からしばらく新実さんは学校に来なかった。元々あまり友達がいるような子でもなくて、どちらかと言うとひっそりしてるような子だったから、誰も休んでる理由を知らなさそうだった。たぶん俺にいろいろバレて来にくくなったんだろうと思ったけど、久しぶりに今日新実さんは登校してきた。
クラスメイトからは心配の声を掛けられていたようだけど、もちろん俺の方を向く訳もなく、俺ももう関与する気はなかった。今後なまえに何もしなければもう別にいい。この前の件も誰にも告げ口していないから、彼女の本性がバレる事も恐らくないだろう。
優しいなまえも新実さんに声を掛けていた。新実さんは困惑したようになまえに返事をしていた。なまえにした事を悪いと思ってくれてるなら、もうそれでいい。
そして、季節は過ぎてあっという間にインターハイ予選の時期になった。俺もなまえも部活が忙しくてなかなかゆっくりと遊んだりする時間がない。チア部もインハイの応援や大会の練習で遅くまで部活をしているらしい。
「あー、なんか毎日目まぐるしくて今日が何曜日なんか分かれへん」
「アホか、今日は水曜日や」
「いや、金曜日だよ」
体力お化けのバレー部でさえみんなヘトヘトになっていた。予選が通れば少しだけ休めるようだから、それまでは何とか頑張らないといけない。眠い、なまえに会いたい、触れたい、ヤりたい。最近昼休みも眠たくて寝ててなまえとあんまり一緒にいない事もあり、バレーをしてない時以外はこんな事ばっかり考えてた。
いつものメンバーで正門を出るとそこには愛しの彼女が花壇に腰をかけて待っていた。
「お!倫太郎もみんなも遅くまでお疲れ様〜」
「え、なまえ?」
「なまえちゃんや!」
「チア部も少し前に終わったから少し待ってみたんやけど、迷惑やったかな?」
「全然迷惑ちゃうで!」
「どう考えてもツムやなくて角名に言うてるやろ、アホか」
「誰がアホじゃ!表出ぇ!」
双子が騒ぎ出したのをなまえはニコニコと笑いつつも、すぐに俺に視線を向けた。
「迷惑な訳ないじゃん。めっちゃ嬉しい」
「ほんま?良かったら一緒に帰ってもええ?」
「もちろんええで!俺も嬉しいわ!」
「だからツムに言うとらへんって」
騒がしいくてむさ苦しいメンツに華が混じると、何故だか空気が綺麗に感じた。なまえは特段に高価な華だし余計にそう感じる。
「チア部も大変だね、こんな遅くまで。これからもこんなに遅くなるなら一緒に帰ろうよ。夜道危ないから」
「ほんまに?倫太郎と一緒におれるなら嬉しいしそうしよかな。たぶん大会までやから今月はこんな感じになりそうやし」
「了解。俺なまえの家まで送るから」
「疲れてるやろうしそこまではええよ。せめて駅までとか」
「いや、夜道危ないって言ったじゃん。大丈夫だよ、なまえの家から俺の家まで20分くらいだし」
そう言うとなまえは渋々了承した。なまえと一緒にいれる時間があると思うと部活も頑張れる。中学生かよってくらい恋愛に一喜一憂してるのは、たぶんなまえが相手だからだろう。
「あかん。完全に2人の世界に入っとる」
「まぁええやん。バカップルやし」
「割り込むと怖い彼氏にキレられるでやめときや」
「ねぇ、全部聞こえてるよ」
▽
倫太郎と一緒に帰るようになって1週間ほど経った頃、いつものように正門で待っているとたまたま新実さんと鉢合わせた。新実さんは同じクラスで吹奏楽部の子、そして倫太郎の事を狙っていた子だ。その事もあり少しだけ話しにくいと思っているけど、けど何かされたわけでもないため嫌いではない。人を好きになることは悪いことやないし。
あまり話したことないけど無視するのもアレやし、と思い声を掛けた。
「新実さんやん。こんな遅いんやね。気を付けて帰ってね」
「あ、うん。なまえちゃんは角名くん待ち?」
「あー、まぁ、うん。そうやね」
純粋に思った。新実さんは倫太郎の事もう好きやないのかなって。なんだか吹っ切れたように感じたのは、勘違いなんだろうか。
「あんな、なまえちゃんに謝らなあかん事あって」
「え?」
新実さんは俯き加減で私にそう言う。
「篠宮くんとなまえちゃんの事仕組んだん、うちなんよ。写真を角名くんに送ったのもうちが仕組んだ。角名くんとなまえちゃんに別れて欲しくてやった。今はほんまに反省してるし、自分勝手で嫌な奴やなって自分でも思うわ」
矢継ぎ早に新実さんが言葉を並べた。私はボーッとその言葉を耳に入れて、何も反応ができなかった。むしろ少し他人事のように思ってしまうほどだった。きっとそれは、今無事に復縁できて新実さんが素直に謝ってくれたから、怒りの感情が生まれなかったんだろうなと思う。
「もう、角名くんに関わるつもりもあらへんし、2人を邪魔する気もほんまにない。それだけは安心して欲しい。謝って済む事やないし、きっとうちの事嫌いになってもおかしくないのもわかる。けどなまえちゃんに謝りたかった。ほんまにごめんなさい」
声を震わせながらそう言って頭を少し下げる新実さん。
「顔上げてや。私怒っとらんし、新実さんのこと嫌いやないよ。倫太郎の事好きなのも悪い事やないから。でも、もうこれからはやめてな?」
できるだけ優しい声で彼女に伝える。新実さんは少し安心したように私を見つめた。
「新実さんからしたら私邪魔な存在やったよね。でも私も倫太郎が好きやから、そこは譲れへんけど…けど新実さんが良ければ普通に仲良くしてくれへんかな?」
「…ええの?うちほんま嫌な女やで?」
「まぁ、その件は良くはあらへんけどもう終わった事やし。せっかくクラス一緒やのに気まずいのも嫌やん?」
私があっけらかんと言葉にすると、新実さんは苦笑いに近いような微妙な表情をしていた。
「はぁ、最初から勝ち目なんてあらへんかったわ。何か自分の行動がアホらしくて泣きそうや」
「ちょ、泣かんといてな!?」
普通のクラスメイトのように話が出来て、なんだか嬉しくなった。恋は盲目というのはあながち間違えではないと思うし、彼女は頑張り方を間違えただけなんだろう。根はいい子だろうし容姿も整ってるから、きっと次はいい恋が出来るんだろうなと思った。
そうしているうちにぞろぞろとバレー部が出てきた。
「あれ、なまえちゃんと…お友達か?」
「あ、新実やん。珍しいな、なまえとおるなんて」
「えっ、新実さん?」
侑くんが最初に見つけてくれて、治くんが物珍しそうに見ている後ろで、倫太郎が私ら2人を見て視線を鋭くした。
「みんなお疲れ様。新実さんとは待ってたらたまたま会っただけで」
「新実さん、なまえに何か用あった?」
私が説明しようとしたら倫太郎が食い気味に新実さんに詰め寄る。倫太郎がこんなに必死になるのは珍しく感じたし、他の皆んなも少し驚いているようだった。
「ちょ、倫太郎?」
「角名くんの思っとるような事は何もしてへんよ。…角名くんはええ子選んだんやね」
「…まぁね」
新実さんの言葉に倫太郎が安心したように返すと、新実さんは何も言わずに1人で歩いて行った。
「…え、今のやりとり何なん!?角名、お前なんか隠し事してるんちゃうか!?なまえちゃんって子がおりながらお前は何してるんや!」
「角名…お前浮気はほんまにあかんぞ」
「何なのこの双子。何でそうなるの」
浮気はしてないにしろ、今のやりとりは何だかモヤモヤする。2人だけが分かってるような空気があって少し嫌だった。
「浮気やないにしろ、今のやりとりはなまえ的にも嫌やろ。別な女の子と目の前で自分が分からん話をされて喜ぶ彼女なんかおらんで」
治くんが私を気にかけて倫太郎に伝えてくれた。倫太郎は私を見て少し眉毛を下げていた。そこまで深くは考えてへんかったけど、理由が聞けるなら聞きたい気持ちもある。
「…今日なまえと2人で帰るね」
そう言って倫太郎は私の手を握り、皆んなを置いて歩き出した。侑くんが後ろから何か叫んでいるけど、私は倫太郎から何が言われるのか分からなくて困惑していた。
皆んなと距離ができたため、歩くペースを落としつつも手は離さずにいた。
「新実さんとはまじで何もないよ」
「それは分かってる」
「…ちなみに新実さんと何の話をしてたの?」
倫太郎から逆質問をされて、少し考えてしまった。篠宮くんの写真の事を伝えてもいいのか。伝えた場合、倫太郎は怒ったりしないだろうかと。
「…謝罪、かな」
「…もしかして篠宮のやつ?」
「………え!?知ってたん!?」
倫太郎から話を聞くと、既に倫太郎はその話を知っていて、私が傷付くと思い隠していたようだった。まさか新実さんが私に謝りに行くと思っていなかったようで、さっきは警戒してしまったと言っていた。
「新実さん、根は良い子なんやろなって思ったし、このまま気まずいのも嫌やから許したよ」
「そうなんだね、だから最後俺にあんな事言ってきたんだ」
倫太郎は「俺は許してないし今後あんまり関わる気はないけど」と案の定怒っていた。
「俺、本気でなまえ以外興味ないから。なかなか証明する事が出来ないのが悔しいけど、まじでなまえだけだから」
「ふふっ、ちゃんと分かってる。ありがとうね」
そう言うと、静かな夜道で二人の影が重なった。
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