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夏も本格的になってきて、あっという間にインターハイ本戦の時期に差し掛かる。バレー部の練習はいつもに増してピリピリしてくる時期でもある。北さんの視線もいつも以上に鋭くて、上手くサボろうとしてもすぐに怒られる。
なまえもチア部の大会が終わって、本格的にインターハイの応援の練習をしているらしい。チアの大会が終わった後からは、帰る時間も多少早くなったから一緒にいる時間は少なくなったけど、それでも教室では基本一緒にいるし帰ってからも毎日帰りに電話やメッセージで連絡は取り合ってる。それだけが俺の生き甲斐と言っても過言では無い。
「倫太郎おはよ。…顔色悪ない?大丈夫?」
「…朝練から動き過ぎてしんどい」
「ほんまお疲れ様やね。治くんも机に項垂れてるやん」
「…俺以外の事見なくていいよ」
「疲れ過ぎて角名くん頭おかしくなったんちゃう?」
「いや、角名は教室で言わへんだけで部室ではいつもこんなんやで」
「治も一緒だよ」
「お前よりまだ落ち着いとるわ」
そう言って治はムクリと起き上がりカバンからおにぎりを取り出して食べ始めた。
「倫太郎、部室で何言うてんの?変な事言うてへん?」
「んー、今日のなまえのこんな所が可愛かったとか、なまえと駅前のおしゃれなカフェ行きたいなーとか。ほんまいつもなまえの名前口にしとるから、もうなんか記憶にもあらへんわ」
「えー、ちゃんと聞いててよ」
「回数が多すぎんねん。シュッとまとめてや」
治が俺の事を伝えると、なまえが少し恥ずかしそうにはにかんでいた。なまえのこの表情は喜んでる顔だろう。
「なまえニヤけすぎ。可愛い」
「自分の知らない所で話してくれてるの嬉しいやん。そりゃニヤけるで」
まじで俺の脳内は大半がなまえと少しだけバレーの事しか考えていないから、どうしても自然となまえの話をしてしまう。それを喜んでくれる彼女でよかった。きっとこうゆう考えは重いと思う人も世の中にはたくさんいるだろうし、最悪気持ち悪いと思われても仕方ないと思う。
「インターハイ、2人とも応援来るやんな?」
「もちろん!うち今年前の方で吹いとるから!」
「私も今年は1番前やからコートが近くて嬉しい」
「…絵麻もなまえ も顔がええからテレビに映るように前の方なんやろな」
「そんなんちゃうって」
「えー、なまえ指輪着けてきてね。彼氏いるって見せないと危ない」
「応援中はアクセサリーあかんけど、試合終わったら着ける予定。部長に試合以外は指輪着けといてやって言われてるし」
「去年散々なまえはナンパされとったからな」
「いや、絵麻もやろ」
大きな大会の時は他校生が桁違いに多く、チアの衣装を見に纏うなまえはいつもより格段と視線を向けられる事が多くなる。俺は一緒に行動出来ないから正直不安。
「大丈夫やって。他の人に声掛けられても興味ないし。もし声掛けられても無視するかちゃんと断るから。指輪ももちろんちゃんと着けとく」
「角名倫太郎の彼女って書いたタスキは?」
「お前ほんま疲れ過ぎて頭のネジ紛失したんか?」
そうしてるうちに担任が教室に入ってきて、会話は一旦お開きとなった。
▽
インターハイ本戦前日、私はチア部と吹奏楽部合同のバスで本戦地へ向かう。ギリギリまでずっと言われていた指輪ももちろん忘れずに。
長旅を終えて宿に着くとみんな何だか疲れていた。バスの中で軽く寝たけど、あまり深くは眠れなかったのもあって少しだけ体が重たく感じたため明日に向けて今日はしっかり睡眠を取った。
翌日、稲荷崎の初戦のためチア部も吹奏楽部もどちらも身なりの準備に気合が入っていた。チア部の皆んなは巻き髪に高めのポニーテールで統一した。指輪も忘れずに指に嵌め、試合中は外しても失くさないように小さなケースをポケットに入れておく。
「なまえは今日もほんまかわええな〜。すなりんが不安になるのも分かるわ」
「な。すなりんから会場でなまえの護衛任された時はビックリしたわ」
「え、倫太郎そんな事言うてたん?」
「指輪だけだと効力が弱いからって。ほんま愛されてて羨ましいわ〜。うちは北先輩派やけど」
「なまえと付き合ってから角名くんリアコ勢ちゃんと滅んだの、ほんまなまえって強いよな。たぶんうちが彼女やったらそうはならへんもん」
会場に着いてからはチア部の中でも仲良しの子2人と行動をしていた。稲荷崎の初戦は次の試合のため、それまではロビーで待機をしていた。近くを通る他校生からは、「やっぱり稲荷崎のチア部ってレベル高いな」と言われる声がチラホラと聞こえてきた。衣装の可愛さも相俟って、前から稲荷崎のチア部は評判が高かった。
先にお手洗いを済ませるため友達とお手洗いに向かう途中、見覚えのある赤ジャージの男の人に声を掛けられた。
「あ、なまえちゃんじゃないの」
「あっ、えっと、トサカ先ぱ…えっと…佐々木…?高田…?」
「…黒尾ね。てっちゃんでもいいヨ」
「黒尾さん」
「相変わらず釣れないな〜。彼氏とはまだ仲良いの?」
「はい。変わらず、いや前よりも増して仲良いです」
「ぶはっ、めっちゃ警戒されてる」
友達は私と黒尾さんの会話を見ながら目をうっとりさせていた。あ、この子のタイプなんやなと察した。
「じゃあ連絡先はまた今度かな」
「あはは、まぁ別れる予定はありませんけどね」
「てっちゃんも結構優良物件よ?」
「ほぇ〜、そうなんですね」
「わぁ、全然興味なさそう」
さっさとこの場から離れたい気持ちが前のめりになったのか、思ったよりも適当な返事をしてしまった。
「彼氏くんにバレたらまた怒られちゃうし、今日はこの辺で。変な男に声掛けられないようにね」
「黒尾さんみたいな?」
「ふはっ、やっぱりなまえちゃんいいね〜」
お隣のお友達もじゃあね、と言って黒尾さんは離れて行った。
「…待って!?誰!?すなりんという彼氏がおりながらあんなかっこええ人とも仲ええの!?」
「今のやり取り見てよく仲ええと思えたな。名前しか知らへんよ。連絡先も知らへんし」
「あの余裕そうな感じめっちゃええな〜!流し目の意地悪そうな目も好みやわ〜」
「次また会ったら連絡先聞いたらええやん」
「あんなになまえしか見えてへん男に?無理すぎるやろ。難易度えぐいて」
「意外と女の子にチヤホヤされたらコロっといくタイプかもしれへんやん」
「いや、あの目は獣の目に近かったで。狙った獲物は離さへんタイプや。気ぃ付けてや、なまえ」
「さっきの対応以上に何すればええの…もう無視か刺すしかあらへんやん」
「なまえの脳みそどうなってんねん。極端すぎやろ」
気に入られてるのは何となく感じてるけど、たぶんおちょくってるだけやろなとしか思わなかった。それこそ余裕のある表情をしていたし、あのコミュ力は女の子にモテるタイプだろう。きっと校内の女の子に飽きて他校生を食い物にしようとしてるに違いない。
「大会でしか会えへん人やからほんまにこの先何もないよ。しかも連絡先も知らへんから偶然会う以外ありえへんし。今日やって名前忘れとったくらいやったから」
「その釣れへん感じがなまえにハマる要因なんやけどね」
「あの人見かけによらずドMやん」
「この場におらへん人の悪口言うのはやめぇや」
そんな事を言いケラケラ笑いながらお手洗いに向かった。
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