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初戦は危なげなく突破した。倫太郎もかなり活躍してチームに貢献していた。倫太郎を褒める言葉もチラホラと聞こえてきて、「私の彼氏かっこええやろ」と鼻が高くなりつつも、「あんま見んといて」とワガママで真逆な事も考えてしまう。私も随分と欲張りな彼女になってきたなと少し自嘲した。
終わってすぐに倫太郎に労いのメッセージを送った。きっとミーティングや明日の準備でなかなかスマホを見ないし、返信は遅くなるだろうと思いながらスマホをしまった。
3時間後に倫太郎から返信があった。
『なまえが近くにいたから頑張れた』
『今日の髪型めちゃくちゃ可愛かったね』
『一緒に写真撮りたかったー』
倫太郎とは試合中何度か目が合ったような気がしてた。なんとなくの場所は伝えてたから、倫太郎も探してくれたのだろう。
『ほんま?嬉しい』
『倫太郎もむっちゃかっこよかったよ』
『女の子が褒めてて複雑やった』
倫太郎は恥ずかしい事を割とストレートに伝えてくれるから、私も伝えられるようになってきた。以前は全くそんな事ないタイプだったのに、人は変わるもんやなと他人事のように考えていた。
『俺だって相手校のやつがなまえの事可愛いとか声掛けに行こうって言ってたからちょっと視線送っといた』
『他校生に声掛けられても相手しなくていいからね』
『ずっと俺だけ見て俺の事考えてて』
私以上に恥ずかしい事をサラッと言う倫太郎。付き合って長く経つけど今だにキュンとする。言われなくても倫太郎の事ばかり考えてるけど、ちゃんと言葉にして伝えられると嬉しくなる。
『倫太郎の事ばっかり考えてるよ』
『明日も倫太郎の事応援してるね』
『大好き』
こんなに甘ったるいメッセージを送り合うのはあまりないからむず痒くなる。
『めっちゃちゅーしたい』
『明日試合後会場で会えたら会お』
会場ではなかなか会えないと思っていたから、明日会えるかもと思うと急にテンションが上がった。
『もちろんええよ』
『会えるなら嬉しい』
『会えそうやったら連絡して』
そう約束して翌日に備えるため「おやすみ」と伝えてスマホを閉じた。明日も倫太郎が活躍できますようにと祈願しながら布団に入り目を閉じた。
朝を迎え同じように準備をして会場に向かう。昨日の稲荷崎の圧倒的な試合は、他校生からも目を引くものがあったようで、稲荷崎のチア衣装を着ているだけで「強豪校は応援もレベルが違う」等と声が聞こえてきた。治くんは今回体の不調のため出場しないようだから仕方ないものの、いつもと変わらず侑くんの名前が上がることが多いように感じた。けど今日は倫太郎の名前もよく聞こえた。
「角名くんもすっごいかっこよかったよね!アタック超強かったし!」
「宮ツインズに隠れてたけど、角名くん見た目もかっこいいよね!私今大会の最推しかも!」
「会場ですれ違ったら声掛けてもいいかな?」
「連絡先聞きたいよねー!」
小柄な可愛い女の子達がキャッキャと楽しそうに倫太郎の事を話していた。元々侑くんと治くんの存在もあり、稲荷崎高校は女の子達から注目を浴びていた。そして今回のIHで倫太郎の活躍が脚光を浴びて、倫太郎の存在も目立ってきたようだった。
「おーい、彼女さん。かわええ顔が台無しやで」
「なまえも嫉妬するんやな」
「…あの子ら倫太郎と連絡先交換するんかな」
「まぁ、見掛けたら声は掛けるんちゃう?すなりんの事やから交換はせえへんと思うけど」
「すなりんもなまえ一筋やからね。なまえが心配せんでも大丈夫やって」
私も倫太郎が交換するとは思っていない。倫太郎の事だからきっと私にして欲しくない事は自分もやらないだろうし、いつもあれだけの愛の言葉をくれるから信用はしてる。けど、目の前で彼氏を逆ナンしようとしてる子を見ると、胸がキュッとなり黒い感情が芽生えてしまう。もういっそ“角名倫太郎の彼女”タスキを着けるのは得策なのでは?とぶっ飛んだ考えまで脳裏をよぎる。
そして二回戦目も稲荷崎はストレート勝ちで次の試合へ進んでいった。今日も倫太郎は大活躍で、侑くんに比べると劣るものの黄色い声援は確実に昨日よりも大きくなっていた。
試合が終わり少しするとスマホが震えた。倫太郎から『北口の自販機前に来て』と一言。時間も限られてるため、了解のスタンプを押して急いで向かう。
北口に着くと、倫太郎とスマホを片手に持った女の子2人の姿が見えた。今朝見かけた他校の女の子のようだった。倫太郎は面倒そうな表情で彼女達と話をしていたけど、彼女達はかっこいいと思ってる人と話せている嬉しさが表情から滲み出ていた。
倫太郎は連絡先を交換するつもりは全く無いと分かりつつも、やはりモヤモヤするし嫌な気持ちでしか無かった。人もあまりいない事もあって、彼女達の声はわずかに耳に入ってきた。
「角名さんって彼女さんいるんですか?」
「うん、いるよ」
「…あの、私彼女さんいてもいいので連絡先交換したいです」
上目遣いで倫太郎にアピールをしているのが見えて、どす黒い感情が膨らむ。自分の彼氏に色目を使われるのが、こんなにも苦痛で嫌悪感のあるものだと思わなかった。
「ごめん。俺彼女以外ほんと興味なくて」
「今はそれでもいいです。少しづつ私の事知ってくれれば…」
「私の彼氏唆すのやめてくれへん?」
引き下がらずに倫太郎の腕を掴もうと手を伸ばす女の子に耐えられず、倫太郎達の目の前に出ていってしまう。倫太郎も女の子も驚いているけど、黒い感情のアドレナリンが出ているからか勢いは止まらなかった。
「倫太郎は私の彼氏やから。ほんま触らんといて。申し訳ないですけど、逆ナンなら他当たってください」
「いきなり何この人?嫉妬深すぎる重い女っていつか愛想つかれますよ〜。しかも角名くんも驚いてるんですけど」
女の子は倫太郎を巻き込んで私に嫌味を言ってくる。この子は倫太郎の事何も分かってないのに何を言うてるん、と心底呆れてしまう。
「ん?あー、うん。俺の大好きで会いたかった彼女が急に目の前に現れて、あんな嬉しい事言ってくれて驚いた」
そう言って倫太郎は私の事を抱き締めた。女の子は少し引いたような目で私達を見てるのが視界の端に映る。
「しかもこの程度で嫉妬深すぎる重い女なの?じゃあ君は俺と合わないよ。俺からしたら全然まだ重たくないし。むしろ俺の方が重いかも」
「えっ、あ、いや…角名くんが重いのは…」
「なまえごめんね。不安にならなくて大丈夫だから。なまえが来てなくても連絡先交換するつもりなかったし。ほんとなまえ以外興味ないから」
倫太郎は女の子の存在を消しているかのように私に甘い言葉を掛けてきた。倫太郎は見せ付けようとしているのか、耳元で甘ったるい声で話してくるおかげで私まで気分が乗ってきてしまいそうになる。
「まじで昨日会えなくてしんどかったー。今日のなまえも可愛すぎるし…ねぇ、キスしていい?」
「ちょ、え、キスは、えっと…」
「…あー、君達まだいたの?いつまでいるの?俺早くなまえとイチャつきたいんだけど」
倫太郎が冷めた瞳でそう言うと、女の子達は何が起きているのか分かってないのかアワアワしながらこの場を離れて行った。
「やっと2人きりになれた。ごめんね、お邪魔虫に捕まっちゃって」
「今朝あの子達が倫太郎に声掛けよとか連絡先交換しよって話してるの見掛けちゃってほんまに嫌やった。倫太郎かっこええって女の子達が話してるのを見るのもほんまにモヤモヤする。私の倫太郎やのに」
私が倫太郎の胸元に頭を預けてそう言葉にすると、倫太郎はおもむろに口付けを交わしてくれた。甘く蕩ける口付けは、私の脳を麻痺させるような感覚に陥る。
「ねぇ、ほんとズルすぎだから。そんな可愛い事言ってさ。早くなまえ抱きたくなっちゃう」
さっきの怖い表情はどこにいったのかと思うほど、溶けそうなほど甘い顔をした倫太郎が熱い吐息で言い寄ってくる。倫太郎が下半身をわざと私の太ももに押し付けてきてるのも気付きつつも敢えて触れていないと、それに対抗してきているのかグリグリとさらに押し付けてきた。最初に比べ下半身が反応してきて膨らんできているのを感じる。
「ここではさすがにできへんよ?」
「…残念。IH終わったらデートしようね」
「もちろん。IHお疲れ様会やね」
「いいね。たっぷり労ってもらわないと」
思ったより時間が経っていたようで、友達から連絡がきてしまった。
「そろそろ戻らなあかんかも。友達から連絡来た」
「じゃあロビーまで一緒に行くよ」
自然と指を絡ませるように手を繋ぎ歩き出す。ロビーに近付くにつれ人の数が増えてくため、どうしても視線は私達に集まる。そりゃ高身長とチア衣装の2人は目立って当たり前だろう。
途中何人かに「角名くん彼女いるんだ」「角名くんの彼女めっちゃ可愛い」「角名くんと彼女さんお似合いだね」と声が聞こえて嬉しくなった。倫太郎も嬉しそうにして歩いてたから、同じ気持ちなのかなと思うと胸が温かくなる。
「俺となまえお似合いだって」
「ふふ、ね。嬉しい」
「チューでもしとく?」
「コラ、調子乗らない」
そう言いながら繋いでいた手に力を込めた。そしてロビーでみんなと合流した。みんな倫太郎に向かって労いと激励の言葉を掛けていて、倫太郎は少し照れたようにバレー部の元へ戻って行った。
「明日も倫太郎がたくさん活躍できますように」
誰にも聞こえない小さな声で、倫太郎の背中に投げかけた。
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