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文化祭が終わると次は修学旅行の時期になる。稲荷崎高校の修学旅行は沖縄らしく、俺も楽しみだった。活動班はもちろんいつものメンバー。ホテルも2人一部屋のしっかりとしたホテルに泊まるらしい。
初日はクラス行動で美ら海水族館と首里城。2日目の午前は選択行動でマリンスポーツと郷土体験を選択でき、俺らはマリンスポーツを選択した。午後は活動班で自由行動、3日目は学年で平和祈念館に行ってから帰るスケジュールだった。
「うちとりあえず国際通り行きたい」
「ええやん。お土産買わなあかんし、せっかくやから私ら4人のお揃いの物とか買いたい」
なまえと結城さんを筆頭に話が進んでいく。正直俺らは彼女と行動できるだけで楽しいから何でもいい。必死にガイドブックを見て悩んでるなまえを写真に収めておいた。
「倫太郎と治くんは?何かやりたい事とかあらへんの?」
「俺は美味いメシが食えればなんでもええわ」
「俺はなまえが楽しそうなら何でもいい」
「角名くんは要望無しってことね」
性格を知ってる者同士だからか、他の班よりもスムーズにスケジュールが進んでいてとても助かる。あっさりとスケジュールが完成したため、俺らは時間が終わるまで話している事にした。
「ホテルって男女でフロア分かれてるんだよね?」
「おん。先生が見張ってるって言うてたで。何?なまえの部屋行こうとしたん?」
「当たり前じゃん。修学旅行だよ?」
「さすがに怒られるんちゃう?秩序が乱れる言うて」
「どうせ見張りも主任とかやろ。あいつむっちゃ厳しいし絶対無理やで」
なまえとホテルの部屋で過ごしたかったな〜と思いながらも、他で楽しい思い出を残した方が良いだろうと野暮な考えはやめた。
***
あっという間に修学旅行の日を迎え、出発当日は兵庫も沖縄もいい天気で、幸先の良い旅行となった。
「沖縄やー!」
「空むっちゃ綺麗やな」
「私沖縄初めて来たわ」
飛行機を降りてからは全員が浮かれていて、かく言う私も浮かれていた。初日から倫太郎と写真をたくさん撮ったりと修学旅行を存分に楽しみ、ホテルに着く頃には初日とは思えないほどグッタリしていた。
「3階のホールには自販機があるでそこだけは共有フロアやけど、21時以降は使用禁止やからそれまでに飲み物を買い足す人は済ませておけー」
担任からそう言われて3階のマップを見ると、自販機の他に軽食やお土産が売ってる売店と、海が見える広いテラスもあるようだった。
「夜時間あったら3階のテラスで会おうよ」
「うん、私も思っとった」
「風呂上がったら連絡する」
夜ご飯を食べ部屋ごとに風呂やシャワーを済ます。私もシャワーを浴びた後、スマホを見ると5分前に倫太郎から「治とジュース飲んでるね」と連絡があった。絵麻にも伝えて2人で3階に向かうと、いつもよりオフ状態の髪をした倫太郎と治くんがいた。
「ごめん、お待たせ。2人とも髪ぺたんこやね」
「なまえ達もじゃん。2人ともジュース飲む?」
「せっかくやしそうするわ。ちょっと買ってくる」
絵麻と2人で自販機に向かうと、同じ学校の子達が数人いた。
「あ、みょうじさんと結城さんやん」
「佐藤くんと井上くんやん」
「うわー、風呂上がりのみょうじさん達に会えてラッキーやな。ええ匂いやし」
「な、いつも化粧濃い感じやないけど、今のツヤツヤしたすっぴん感むっちゃええな。肌むっちゃ綺麗やし、なんかエロない?」
下から舐めるように見られ、挙句、下衆な事を目の前で言われて不快だった。私達に彼氏いる事分かってるはずなのに、すごい精神やなと軽蔑をした。
「ごめん、治達待たせてるでジュース買ってもええ?」
「あぁ、治達もおるんや」
「ほんなら俺ら部屋戻るわ」
そういってそそくさとこの場から去っていった。
「治達の名前出したら一瞬やったな」
「ほんまに露骨やったね。いっそ清々しいわ」
お互いにジュースを買って戻ると、倫太郎と治くんが隣のクラスの女子から声を掛けられていた。
「治くんと角名くん、よかったら写真撮ってくれへん?」
「一年の頃からうちら2人の事かっこええなって思っとって」
「せっかくの修学旅行やし、思い出作らせてくれへんかな?」
他の女の子から声を掛けられてるところを見るのは、やっぱりいつ見ても良い気はしない。
「自分の彼氏が好意ある子から声掛けられてるの見かけるの嫌やな」
「絵麻も思ったん?私も全く同じ事思ってたわ」
「こうゆう時どうすればええんかな」
彼女達は隣のクラスで顔は知ってるため、割り込んで行くのは印象悪すぎるかなと考えてしまい、なかなか2人の元へ行けなかった。倫太郎達はどうするんかなって思いながら見ていると、先に倫太郎が口を開いた。
「ごめん、俺彼女に嫌な思いして欲しくなくて」
「え?あ、あの、みょうじさんから角名くん奪おうとかはほんまに思ってへんくて…」
「写真だけでもあかんかな?連絡先交換とかは別にええねんけど…」
「あー、ごめん。俺が単純に彼女が他の男と写真撮るのとか嫌で。自分がされて嫌な事はしたくないだけ」
倫太郎がハッキリと彼女達のお願いを断った。隣のクラスの子達は気まずそうに「わかった、こっちこそごめんね」と言い、足早にその場から帰って行った。
「ほんまええ彼氏と付き合ったな、なまえ」
「ほんまにね。好きが増して困るわ」
私達は2人の元へ足を進めた。
「モテモテのお2人さん、お待たせしました」
「え、見てたん?」
「角名くんええ彼氏やなって話してた」
「俺の言いたい事を角名が代弁してくれただけやから」
「何言うてんの。ほら、うちらあっち行くで。なまえ、また部屋でな〜」
絵麻が早々に治くんを連れてテラスの端へ歩いていった。
「俺らも時間ないし行こ」
自然の流れで指を絡めて手を繋ぎ、広いテラスへ足を進める。見覚えのあるカップルが何組か話していて、友達の前を通ると「稲高名物の美男美女バカップルや」と揶揄われた。
「ここなら人少ないし話しやすいかな」
「そうやね。海も見えるしええところやね」
「ね。次は2人で旅行しに来たいね」
「うん!倫太郎と旅行行きたいわ〜。私東の方とか行ったことないし、国内旅行も行きたいところいっぱいあんねん。東京観光もディズニーも行きたいし、仙台とか北海道も行ってみたい」
「いいね、じゃあ卒業してからいっぱい行こ」
テラスは少し冷えるのもあって、繋いでいる手だけが温かい。すると、倫太郎が後ろから温めてくれるように抱きしめ、手をお腹に回して握りしめてくれた。
「ふふっ、倫太郎あったかい」
「でしょ。ここ冷えるから」
「うん、寒いなって思ってた」
「さっきの話に戻るんだけどさ、なまえは新婚旅行どこ行きたい?」
当たり前のように未来の話をしてる倫太郎に、口元は勝手に緩んでいた。
「んー、綺麗な海のリゾート地でのんびりするのもええし、アメリカの観光地とかもええし、ヨーロッパもええなぁ。倫太郎は?」
「ん?なまえが行きたいところ」
「えー、新婚旅行は一緒に決めたいやん」
「じゃあ、どちらかというとのんびりしたいかも」
「ならリゾート地がええかな〜。モルディブとかタヒチ行ってみたい」
「せっかくだしリゾート地でウェディングフォトとかも撮りたいね」
「ふふふっ、ええね」
気が早いと思いつつも、こうやって未来の話をするのは楽しかった。
「倫太郎、さっきのむっちゃ嬉しかった」
「さっき?」
「写真断ってたやろ?倫太郎が女の子に声掛けられてるの見るの、やっぱり良い気はせえへんかったから。倫太郎がハッキリ断ってくれたの、むっちゃ嬉しかった」
「あぁ、あれね。あれはただなまえにされたく無い事を自分がしたくなかったのもあったから。ま、もしなまえが見てたら嫌だろうなってのも分かってたし」
「ふふっ、ほんま倫太郎はええ彼氏やなって好きが増したわ」
そう言って後ろを向いて倫太郎を見上げると、どちらともなく口付けを交わした。
「なまえが近くにいるのに一緒に寝れないのが嫌すぎる」
「修学旅行終わったらまた倫太郎の部屋行く遊びに行くな」
「うん、来て」
見張りの先生から「もうすぐ21時やぞ」と声を掛けられたため、おとなしくお互いの部屋へ帰った。部屋に着くと同時に倫太郎からメッセージがきていた。
『なまえの風呂上がりエロかったから気を付けてね』
自販機の前の子達といい、男の子はなんでこうもエロに走んねんと思いながら、何言うてんの、と一言送り絵麻と寝る準備を始めた。
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