07
約束のバーベキューの日。部活が終わり部室で軽くメイクをし、汗拭きシートとヘアコロンで汗の臭いを抹殺した。今日は暑いから髪の毛は軽くアレンジをした低めのお団子にした。
バーベキューは学校近くの川でやるらしく、部活終わったら来てとの事だった。校門で絵麻と待ち合わせて一緒に向かう。
「なまえむっちゃいい匂いする」
「ヘアコロンかな?使う?」
「助かる」
10分ほど歩くと目的の場所に着いた。角名くんもいつもより制服を着崩してお肉を食べていた。
「お2人ともお疲れ」
「治もお疲れさま。一応部長さんに挨拶した方がええよな?」
「おん。連れてくわ」
3年の部長さんと顧問の先生に挨拶をしたら、むっちゃ歓迎された。部長さんには「うわっ、本物や」と何故か感激された。
「なまえちゃーん!待っとったで!絵麻ちゃんも!こっちに肉いっぱいあんで!」
「うん!ありがとう。お腹ぺこぺこや」
「みょうじさんお疲れ。お茶かジュースあるけどいる?」
角名くんや侑くんがいるテーブルは主に1年生の島になってて、私ら的にもここが1番楽やし何より角名くんもおるし。
「角名くんありがと。お茶貰ってもええ?」
「緑茶でいい?」
「うん、ありがとう。お肉いっぱい食べた?」
「まだ始めてそんなに経ってないから5枚くらいしか食べてないよ」
来て早々角名くんの隣を確保できたのは上出来すぎる。絵麻も治くんの隣を確保できてて良かった。
「おい角名。お前またなまえちゃんを独占するつもりか?」
「独占しようとしても侑がいつも邪魔するじゃん」
「どっ…!?」
「おまっ、何独占しようとしとんねん!しばくぞ!」
「ツムうるさい」
「あぁん!?」
もうええわ、米貰ってくる!と大きな声で言いながら先輩のテーブルへ向かう侑くん。角名くんと私は取り残されたが、角名くんが「独占しようとしても」なんて言うから、坂道ダッシュしたんかってくらい心臓に負担がかかった。待って、顔赤くなってへんよな!?
「みょうじさん、お肉いる?何枚か焼けてるけど」
「あ、ほ、欲しい、です」
「ははっ、みょうじさん耳まで真っ赤じゃん」
私の顔を見て少し笑いながら顔が赤い事を揶揄う角名くん。この肉の焼き加減いい感じ、と上機嫌でわたしのお皿へお肉を入れてくれる。
「てか今日の髪型いつもと違っていいね。似合ってる。可愛い」
「え、あの、あ、ありがと」
角名くんとこんな会話をした事あらへんし、角名くんの口から可愛いだなんて言葉が出てくる事にも驚きつつ、何よりも嬉しさが勝って口元が緩んでしまう。
「角名くんおるかなって思ってアレンジ頑張ってみた」
「え?」
角名くんは私を見て驚いた表情をしていた。私がこんな事言うと思ってもなかったようで、言葉を詰まらせている。私にしてはかなり頑張って言葉にしてみた。
「それ、俺期待しちゃうよ」
「うん、期待してもええよ」
だいぶ盛り上がってきたから周りも声が大きくなってて、私らの声はお互いにしか聞こえていないようだった。どうにでもなれ精神になっているのか、自分でも信じられないくらい攻めた発言をしている気がする。
何が「片想いでもええ」や。むっちゃ角名くんを求めとるやないか。ただ、ほんまに迷惑を掛ける事は避けたいのも事実で、私がアピールする事で彼の生活に少しでも悪影響があるならば、私は喜んで身を引く。
「みょうじさん、帰り一緒に帰らない?」
「他の子達はええの?」
「バレないうちにちょっと早く抜けよう」
絵麻と帰る予定やったけどきっと絵麻も許してくれると思うし、すぐに頷いてしまった。
「じゃあまた声掛けるね」
そう言って他のテーブルに移っていった角名くん。その後は絵麻や侑くん達、少ししてから角名くんも戻ってきていつものメンバーで話したりしていた。
「なぁ、みょうじさん!俺らとも話そうや」
「あ、はい。えーっと、」
「近藤なんやねん。邪魔すんなやー」
「いつもお前らばっかやんけ。少しはええやろ」
「近藤くん?初めましてやんな?」
「1組の近藤彰人。前からみょうじさんと話したいって思っとったんやけど、侑達が囲んどるで話せんかったんよな」
「誰が邪魔もんや」
「そこまで言うてへん」
正直角名くん達以外のバレー部はあまり知らない。申し訳ないけど、近藤くんも今日初めて見た。あんまり交流広げるつもりあらへんし、そんなに仲良くなりたいとも思わへんかった。なんとなく近藤くんは視線が怖いし、私には角名くんがおるし。
「てかみょうじさんって彼氏おるん?」
「彼氏はおらへんよ」
「そうなんや。こんなかわええのに」
「あはは。ありがとう。けど、好きな人としか付き合いたいと思わへんから」
「はっ!残念やったな!近藤!」
「侑うるさいねん!お前も一緒やろが!!」
「誰が一緒じゃボケ!」
侑くんがいつもの調子で間に入ってくれるのが唯一の助け舟やった。この空気はあまり得意やない。好きな人以外から向けられる、熱烈で真っ直ぐな好意はいつまで経っても困惑してしまう。
「みょうじさん彼氏おらんのやったら、俺頑張ろかな」
「…へ?」
「はー?お前なんか相手にされるわけないやろ」
「近藤くんも侑くんも、そろそろなまえ困らせるのやめてくれへん〜?」
何て返せばええか分からんかったところを、次は絵麻が助けてくれた。
「困らせるつもりはなかったんやけど、これで意識してくれたらええなとは思っとるよ」
「あー、うん。でも近藤くんの事ほんまに何も知らへんから…うん、なんていうか…」
「これから少しづつ知ってくれればええよ。あ、今日一緒に帰らへん?」
「いや…んー、っと。今日は」
「近藤、みょうじさん困ってるじゃん」
久しぶりにここまでグイグイに攻めてくる人にアプローチされ、ここで嫌な空気にするのも微妙やしな…と考えていると、輪の中で静かに傍聴してた角名くんが会話を止めてくれた。
「そ、そんな困ってへんやろ」
「いや、お前がそれを決めるのはおかしいやろ」
「なまえ、どう見ても困ってるやん」
侑くんと治くんが近藤くんに言い返してくれ、なんとか勢いは収まったものの何とも微妙な空気になった。
「近藤くんごめんな。今日の帰りはほんまに約束あって。あと、あんま慣れてない男の子といきなり2人きりになるのはなるべく避けてんねん。生意気言ってほんまごめん」
「そ、そうなんや。…なんかみょうじさんむっちゃしっかりしとるんやな。普通に今のポイント高いわ」
「ホレみぃ!なまえちゃんをそこらのビッチと一緒にすんなや!高貴な方なんやぞ!」
「高貴かはわからんけどほんまいい子やな。…もう俺決めたわ。本気で狙いにいくわ」
「え」
「は?」
「へ?」
「あぁん゛!?」
テーブルにいるみんなが各々に間抜けな声を出した。侑くんに至っては噛みついとったけど。
厄介な人に気に入られてしまった。好きな人がいるとカミングアウトすれば「誰や!」ともなるしな、と少し悩んでしまった。ま、これで2人きりになる事は当分ないと思うしええか。
今日はこのへんにしとくわ〜、と言い他のテーブルへ移動してった近藤くん。なんやあの人、場内荒らしやないか。
「なまえちゃん、あんなん無視してええからな!」
「無視…は分からんけど、期待させないようにはしないとあかんかなって思っとるよ。思わせぶりな態度とかしたら厄介な事になりそうやし」
「うちほんまなまえのそうゆうとこ好きや」
「だって勘違いされたら嫌やん。向こうにも悪いし」
「なまえちゃんほんまええ子やな…」
そんな話をしていると、先輩方から「暗くなってきたし、そろそろ花火やろか!」と声が聞こえた。
「花火なん用意してたん?」
「一応懇親会やし、締めくくりにやりたいってツムが言い出してん」
「早めの花火開きってやつや!」
「ええやん!手持ち花火なんて久しぶりやから楽しみ」
いくつかの花火の袋が置かれ、カラフルな手持ち花火を選んで手に持った。部員の子達は早速火を付けてはしゃいでる。
「みょうじさん、火いる?」
「あ、うん。欲しい」
「俺の花火の火あげるよ。もうちょっと近付けれる?」
角名くんが自分の花火の火をわたしの花火に付けようとしてくれてるけど、それがなかなか上手く付かない。
「あれ…付かへんね。あ…」
「あ、ごめん。火消えちゃった」
火が移る前に角名くんの手に持っていた花火が消えてしまった。2人で顔を見合わせ、何だか可笑しくなって笑ってしまった。
「ねぇみょうじさん、花火盛り上がってる今なら抜けられそうなんだけど、どう?」
角名くんは私の目を見つめたまま、少しだけ距離を詰めて小さな声でそう聞いてきた。その表情はいつもの角名くんとは何だか違う人かのような色気があって、思わず息を呑んでしまった。
「…行く」
「ん、じゃあ荷物俺がまとめて持っていくから先に水場の前に行ってて」
そう言うと角名くんは私の頭を2回優しく撫でて、静かに歩き出した。わたしも周りにバレないように、何食わぬ顔で少しだけ早歩きをして水場に向かった。探されると困るため、絵麻にだけ「ごめん、先に帰ってる。詳しくはまた話すわ!」とメッセージを送っておいた。
少ししたら角名くんが私の荷物を持って歩いてきた。
「角名くん、荷物ありがとう」
「全然大丈夫。待たせてごめんね。他の人に気付かれなかった?」
「みんな花火に夢中だったから全く気付かれへんかったよ」
「良かった。気付かれたら絶対着いてこられそうだからさ。コソコソさせちゃってごめんね」
「全然平気やで。それに…私も角名くんと2人で話してみたかった、から」
絵麻と「今日頑張る」と意気込んできた事を思い出して、角名くんに素直になろうと思った。けどやっぱり恥ずかしくて、どうしても目線は夜空に向いてしまう。
「ねぇ、俺とは2人きりなっても良かった?」
近藤くんに伝えた事を指してるんやと察した。正直、あえて角名くんがいるところで言うたのもある。角名くんにはわかって欲しかった。誰でも誘いに乗るわけやないってこと。
「角名くんは、ええの」
「そっか。良かった」
角名くんは少し微笑んで喜んでくれた。
「でも近藤には気を付けてね。すっげぇガッついてたし」
「そう、やね。クラスも離れてるしあんまり関わる事無さそうやけど。でも、あんまり距離近くならんように気を付けるつもり」
「何か困った事あったら聞くから」
「ありがとう」
角名くんはクールそうなイメージがあったけど、接してみるとすごく優しくて温かい人。この優しさが私だけに向けばええのに、と柄にもなく思った。
「あ、あの、いつでも連絡出来るようにLINE交換、してくれへん?」
私は勇気を出して角名くんに連絡先を聞いた。角名くんは切れ長の綺麗な目を丸くさせ驚いてるようだった。しかし、その後すぐに目を細め可笑しそうに声を出して笑った。
「え、ど、どうしたん?」
「いや、そんな顔真っ赤にしてすっげぇ可愛い事言うから」
耳まで真っ赤だよ、と優しい笑顔で私の顔を覗き込む角名くん。
「男の子の連絡先聞くの初めてやから…!」
「俺、みょうじさんの初めて貰ったの?うわ、嬉しい」
そう言いながらポケットに手を突っ込みスマホを取り出した。
「本当は俺も連絡先聞きたかったんだ。みょうじ さんが顔真っ赤にして聞いてくれるとは思わなかったけど」
「もう!揶揄わんといてや〜」
「動画撮っておきたいくらい可愛かったよ」
「もうええってば!」
角名くんにイジられながらも私達は連絡先を交換した。
「角名くんのアイコンなに?キツネ?」
「チベットスナギツネ。似てるって言われたからアイコンにした」
「名前にもスナって入ってるしもう運命やん」
「嬉しくはない」
いつの間にか角名くんと自然に話せるようになっていた。まだまだ緊張はするけど、少しだけ距離を縮めてこれたんかなって嬉しくなった。
「俺からも一ついい?」
「なに?」
「名前で呼んでもいい?」
今日は何だか夢のような日だと、本気でそう感じた。本当は前から、名字やなくて名前で呼んで欲しいと思っていた。侑くん達はいつの間にか名前で呼んでいたから、角名くんも呼んでくれるんかなと期待してたものの、いつまで経ってもみょうじさん呼びやった。最初は興味ないんかなって落ち込んだ事もあったけど、きっと彼は律儀なんかなって無理矢理ポジティブに考え、その考えはあながち間違いやなさそうやった。
「全然ええよ。あの、むしろ嬉しい、です」
「そう?嬉しいならもっと前から呼べば良かったな」
「あの、嫌じゃなければ私も名前で呼んでもええかな?」
また私の顔が真っ赤になっているからか、角名くんは笑いを堪えた様子で目を細めた。
「むしろ呼んでくれないかなって思ってたよ」
角名くんの色っぽくて綺麗な声で、私が舞い上がるような台詞を吐く。
「倫太郎くんはイジワルやね」
「なまえだからだよ」
きっと倫太郎くんは私の気持ちに気付いている。けど、私はまだ気持ちを伝えるほどの勇気は持ち合わせてない。
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