意図せぬ形で影山に見つかり、観念してオレンジ頭の男の子と一緒に影山の前に出る。
こうなったら仕方ない。なりゆきに任せよう。
影山は何してたんだ?という視線を送ってきているけど、隣のオレンジ頭の男の子を見て意識はそちらに向いたようだった。様子を見てましたなんて言えなかったし、ホッとして私も同じ方向を見る。
「お前、去年の…」
「腹痛男子!」
影山の名前を呼んだ、オレンジ頭の彼。影山の言葉を聞き、私も思い出した。一年程前の総体で腹痛に悩まされていたにも関わらず、試合ではもの凄いアタックを決めたガッツのある男の子、略して腹痛男子。名前は知らない。
「ふ、腹痛男子?!って、おれのこと!?」
「うん!君のこと!」
「お前のことはよく覚えてる…クソ下手くそな奴!」
慌てたり悔しがったり赤くなったり青くなったり、表情がくるくる変わる。うむ、彼は面白いな!
影山にビビりながらも強気に言い返す姿を笑いながらと見ていると、影山がそんな私をじっと見ていた。予想外に凝視され、とても気まずい…。私だけがそう感じているようだ。
一人、そわそわとしている私を救うように腹痛男子が影山に「バカにすんなよ!」と反論する。強烈な視線から解放された私は少しホッとした。
腹痛男子はビビりなのか度胸があるのかよく分からないけど、私も気になっていたことを躊躇いなく影山に聞く姿を見て間違いなく度胸はあると思った。
「今は他にもっと"強豪!"って学校があるだろ!なんでソッチに行ってないんだよ!?」
「た、確かに!受験のとき居なかったのに、何でいるの?」
躊躇ったものの、影山に話しかけるチャンスは今しかない!と思いきって便乗する。あれだけ悩んでいたくせに、一年ぶりの会話が「何でいるの?」だなんて…。
影山は一瞬驚いた顔で私を見て、それからぶっきらぼうに口を開いた。
「…県内一の強豪校には落ちた」
「落ちた!?」
「まさかの受験失敗!でも何で烏野?」
「…第二志望はここだったからな。烏養監督が復帰したって聞いたし、お前も…」
まさか、そんな事情が…落ちたなら仕方がない…白鳥沢は普通に受験するには難易度が高すぎる。もし推薦でダメだったら猛勉強しなければならないし、どうみても影山がそこまで勉強に打ち込んだようにも見えない。受験よりもきっとバレー優先だろう。
少し落ち込んだようにみえる影山に、ドンマイと声を掛けると小さくうるせぇと返ってきた。
一度会話してしまえば昔のように自然と話が出来ている。こんなことならもっと早く仲直りすれば良かった。
「落ちた!?"コート上の王様"なのに!?」
「…オイ、その呼び方…ヤメロ」
「!?」
「影山顔コワイって!」
腹痛男子の言葉に影山の顔に影が差す。悪人面は健在のようで、久々に見た影山の怒り顔は私のめくるめく過去の記憶を呼び覚ました。その顔にビビって後ずさっている腹痛男子の隣で、私も怯む。久々に向けられる尖った視線に、慣れるのはまだ先になりそうだ。
しかしこの雰囲気を打破できるのは私しか居ない。
「ま、まあまあ!二人とも落ち着いて!これも何かの縁だよね、私ななし野ごんべ子。マネージャー志望です!君は?」
「お、おれは日向!日向翔陽!」
ピョコピョコと跳び跳ねながら、日向と名乗った腹痛男子。思ったよりも元気だ。そしてよく跳ぶ。人懐っこい笑顔も良い感じだし、何だか日向とは仲良くなれそうな気がした。今度はあの凄いプレーを堂々と応援出来るのかと思うとワクワクした。
「ななし野さんは、王様のカノジョ、だよね??おれ、ずっと聞きたいことが…」
「おい、その呼び方…」
「え、ちょっと影山黙って!誰が誰のカノジョって?」
「えっと、ななし野さんが王様のカノジョ!中学の時、噂で聞いたんだ!コート上の王様のカノジョはマネージャーだって」
そういえば、日向が現れた時に聞きそびれたその言葉を思い出す。王様の方に反応した影山を静止し、日向に問えば思いもよらない返答。
なんてこった!そんな噂一体どこの誰が?慌てて影山を見ると、彼も目を丸くして固まっている。彼も初耳のようだ。確かに、仲もそれなりに良かったし、付き合ってるの?とよく聞かれていたけれど私と影山が付き合ってるという事実はない。
日向は頭上にハテナマークを浮かべて違うの?と首を傾げている。
「私と影山は…と、友達…でいいんでしょうか、影山さん」
「…何で敬語なんだよ」
果たして私は影山の友達を名乗っていいものだろうか。ついさっきまで影山を避けるようなことをしていたのに。
恐る恐る影山に尋ねると、影山はその件に関してはノーコメントだった。やっぱり、もう友達とは見てくれないよね…自業自得だけど。
「??ふーん、それはいいんだけど!おれ、あの時のことで聞きたいことがあって!」
密かに落ち込む私に気付いたのか気付いていないのか、日向は然程興味もなさげだ。むしろ、本当に聞きたかったのは私と影山の関係ではないらしい。
「一年前、ななし野さんが"小さな巨人"みたいだっておれに言ったんだ!ななし野さん、"小さな巨人"を知ってるの!?」
「私、そんなこと言ったっけ?日向に一方的に話しかけたことしか思い出せないけど、"小さな巨人"は知ってるよ!日向も?」
「おれ、小さな巨人に憧れてここに来たんだ!!」
「私もー!同志だー!」
「ホァッ?!!」
"小さな巨人"、私の憧れの人である。烏野に行く理由を話すと、周りにはそんな理由で…とか、男子なら分かるけどと、中々理解して貰えなかった。
一時的なブームにはなったけれど今はもう昔の話。散々、その話題で盛り上がっていた友達は、すっかり別のアイドルに夢中になっていた。
そんな飢えた私は、日向の手を握りぶんぶん振って喜びを表現する。日向はびっくりしたのか変な声であたふたしていて面白かった。
「日向ー!君に会えてよかった!」
「エッ、えへっ、そ、お、おれも、」
「ななし野何言ってんだボゲェ!」
「うわー、影山顔コワイ!」
ポンッと顔を真っ赤にした日向と鬼の形相で私と日向の手を引き剥がす影山。同志に出会えたことと、影山とまた普通に話すことが出来ている喜びに私は震えた。
憧れの烏野にて再会
(もう一度、影山との友情を取り戻したい)
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