体育館を出禁になってから早5日。今日は3対3の試合の日である。この試合に勝てば、バレー部になんの問題もなく入部、負ければ影山は3年が引退するまでセッターはやらせてもらえない、という条件付きだ。
影山の溢れんばかりのセッター愛を目の当たりにしたので、私としては何がなんでも勝たせてあげたい。マネージャーの私に出来ることなんてほとんどないけど。
そんな私は、昨日の反省を全く活かしきれていなかった。運命は残酷だ。
私は現在、第二体育館の前で昨日口論になったツッキーとまたしても正面衝突していた。自分でもびっくりである!決してわざとではないのに、信じて貰えないこのもどかしさは言葉では言い表せない。
「君さ、昨日も言ったけど本当に何なの?狙ってやってるデショ」
少女漫画でよくある曲がり角で異性とぶつかって恋に発展なんて嘘だと思う。少なくとも3回目になるとぶつかられた方は、恋ならぬ故意を疑うようだ。うわ、うまいこと言っちゃった、私!…口に出したが最後、明日の朝日は拝めないだろう。
ツッキーの冷たい目が恐ろしく相手が女子だろうが小動物だろうが射殺しそうだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!ホントにホントにわざとじゃないんです!」
「君の目は節穴?昨日も言ったけど、僕に近づくためとかじゃないわけ?」
「違います全く。ツッキーに興味ないです、ごめんなさい」
「その言い方僕が振られたみたいで不愉快なんだけど。あと、勝手にその呼び方やめてくれる?」
でも名前知らないし、ちょっと呼びやすいし。ここまでぶつかるなんて私達、何か縁があるのかも?と思ったけど言えないので心の中で思う。
ツッキーの後ろではそばかすの男の子が青い顔をしてツッキーを見つめていた。いつも一緒に居るなら、何とかしてくれないだろうかと淡い期待を込めてみる。しかし一度も私の方を向かなかったので、その願いは空しく散った。
「そもそも何で土曜日に学校に居るわけ?やっぱり僕のストーカー?」
「違いますけど?!私は…」
「あ、ななし野ちゃん!月島に山口も。こんなとこで何してんの?早く入んな」
ツッキーの言い方にカチンと来て、若干声が低くなってしまった。誰がストーカーなんてするもんか!ここまで言われて下手に出るほど私は寛容ではない。若干怯みつつも入り口付近でツッキーと睨みあっていると、丁度体育館に入ろうとやってきたスガさんがにこやかに声を掛けてきた。
ずっとツッキーの怒り顔を見ていた私にとってスガさんの笑顔が菩薩のように感じられた。
スガさんナイスタイミング!若干、収拾のつかない事態になりかけていたので助かった。それにしても、私がスガさんに声を掛けられるのも分かるけど、目の前にいた二人も体育館へ入れるのは何故なんだろう?目の前のツッキーも同じような顔をしていた。
「あれ?ななし野ちゃんと月島たち、もしかして初対面?」
「しょ、初対面、というか…そうじゃないというか」
「ん?よく分かんないけど、月島と山口は今日対戦する新入部員2人で、ななし野ちゃんはマネ志望の1年生」
「「はぁ!?」」
「え、何?どうしたの、二人とも」
スガさんは訝しげな顔をしている私達を初対面だと思って、お互いに紹介してくれた。厳密には入学式の日に対面しているので初対面ではない。その後も2度ほど会話をしている。全部私の謝罪だけど。
「今日から同じ部活の仲間だべ」
スガさんが私とツッキーの肩を叩きながら言った言葉に、ズガァーンと稲妻的なものが駆け巡った。1年生だと!?しかも、バレー部で仲間だと!?ツッキーも私を見て心底嫌そうな顔をしている。そして何かに気がついたように意地悪な笑みを浮かべた。
「ふーん、じゃあ噂の"王様の召使い"って君のことなんだ?ふっ」
「ちょっと、何で鼻で笑うの!その召使いって何!噂って何!?」
「まあまあ、落ち着いてななし野ちゃん!ほら、月島と山口は早く試合の準備!」
「はいっ!」
スガさんの言葉にツッキーたちは大人しく従って体育館の中に入って行った。最後に聞き捨てならないことを言われたけど、スガさんに止められ聞くことは出来ず…。気になる、とても。
ここにスガさんがいなければ今すぐツッキーのとこに行って問い質すだろう。
「ななし野ちゃんと月島、…もしかして仲悪い…?」
「そうですね…悪いというか、相性が悪いというか…いや、むしろ良いのかもしれません」
「え?そ、そうなんだ?」
余計なことをしたかな…と、心配そうなスガさんが控えめに声を掛けてくれた。あれだけ無意識でぶつかるなんて、きっとただ事ではない。だって私は人にぶつかることなんて滅多にないのだから。むしろ、ツッキーがぶつかってきているのでは?と思ったけど、言ったらまた言葉でボコボコにされそうなので心の奥底に閉まっておいた。的を射ない私の返答に、スガさんは苦笑いしながら体育館に入って行く。私も後に続き、体育館に足を踏み入れた。
「あ!ななし野さん、おはよー!」
「おはよ、日向。影山も」
「おう」
既にみんな揃っていてアップを始めていた。日向なんてぴょんぴょん跳ねまくって明らかにソワソワしている。そしてある一点を見つめて影山に話しかけるも無視されていた。影山は昨日の夜から様子がおかしかったけど、それは今日も継続中らしい。聞いても何も言わないし、原因も分からないのでどうしようもない。そっぽを向いてアップを取り始めた影山の背中が遠かった。
「なぁなぁ、ななし野さん、あの美女はマネージャーかな!?」
「え?……なっ!」
「ななし野さん?」
影山に聞いてもらえなかった日向が今度は私に問い掛ける。日向の視線の先を辿ると、とんでもない美女を発見して思わず目を覆った。心配する日向に大丈夫だと伝えると、アップに戻っていく。
一方私は、もう一度美女の姿を確かめようと指の間から盗み見る。艶やかな黒髪とスラリと長い手足、遠目で見てもドキッとした。あんな美女が居るなんて聞いていない。眩しいくらいに清楚で、クールビューティー!バレー部関係の方だろうか?目を覆いながらうち震えていると、田中先輩が近寄ってきた。
「おい、ななし野…な、泣いてんのか?どうした?」
「た、田中先輩……あの、あの美女は一体どちら様ですか!?眩しくて見れません」
「…!!わはは!あのお方はなぁ、烏野高校男子バレー部マネージャーの清水潔子さんだ!!どうだ、美しかろう!女のお前にも分かるか、あの美しさ!」
私の肩をバシバシと叩きながら喚く田中先輩はどこか必死だった。清水潔子さんに興味を示した私を同士だと認識したのか、妙に友好的だ。アップ中だということも忘れ、私に潔子さんの魅力を詳細に語る。
「た、田中先輩…ど、どうやってお近づきになれば…!?」
「それはな…俺が聞きてぇーー!!」
「田中うるさい!」
体育館中に響き渡る大声で叫ぶ田中先輩にビックリする。その背後に大地さんが恐い顔で立っていたので私は更に驚くことになった。大地さんの威圧的な笑みを見た田中先輩は大人しくアップに戻って行く。
「潔子さんかぁ」
先輩マネージャーさんとうまくやっていけるかな。と、緊張しつつ見ていると目が合ったので思わず目を逸らしてしまった。ビックリした!急に振り向くなんて思わなかった。こんな態度ではいけないと分かっているけど、美人を前にするとどうしても緊張してしまう。
なんとかしなければ…最後にもう一度目をやると、テキパキと仕事を始めている。手際の良さに目を奪われつつ、後でちゃんと挨拶しに行こうと決めて私も試合の準備に取り掛かった。
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