青城に辿り着いた頃には、日向もなんとか落ち着きを取り戻していた。相変わらず青い顔には違いないけど…。
私がトイレから日向を連れて帰った時は、もっと蒼白な顔でミスダメゼッタイ!と呪文のように呟いていたので、その時に比べれば大分マシだ。スガさんに「何したの!?日向大丈夫なの!?」と詰め寄られて、私も謝るしかなかった。本当に申し訳ないことをしてしまったと反省している。
でも大丈夫、何とかなる…ハズだ!日向もいくらプレッシャーに押し潰されているからといって試合になればきっと集中してプレイするだろう。何より練習試合だから最悪負けても反省して次の試合に活かすことも出来る。今日負ければバレー部が廃部とかいう危機的状況なら、私も日向のようなグロッキー状態になるかもしれないな。
とりあえず、田中先輩に謝り倒している日向はそのまま先輩に任せるとして、私は一足先に武ちゃん先生と第三体育館に足を運んだ。
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「うわぁ、強豪校ともなるとやっぱり迫力が違いますねぇ」
「そうですねー、武ちゃん先生、もしかしてビビってます?」
「ぅえっ?!ま、まぁビビってないといったら嘘になりますが…でも、僕は負けるとは思ってないですよ」
「うひょー!武ちゃん先生カッコいいっ!」
「なっ、ななし野さん、先生を誉めても何も出ませんよっ!」
体育館を覗くと、流石強豪校というだけあり練習も気合いに満ちていた。うちの練習風景とはあまりに違うので、武ちゃん先生は若干怯んでいる。顧問も未経験で、試合も初めてなら仕方ないのかも。私も中学の時、初めて練習試合で他校に行った時は正直ビビっていたことを思い出した。
そして真っ赤な顔をして相手校の監督に挨拶に行くという武ちゃん先生と別れて、私は見知った人物の所へ一直線に向かう。
「岩ちゃん!あっ、国見も久しぶりー!」
「おーごんべ子」
「ななし野じゃん」
幼なじみの岩ちゃんと、元チームメイトの国見英だ。国見とは中学の卒業式以来だけれど、考えてみれば1ヶ月ちょっとしか経っていなくて厳密に言えばそれほどでもなかった。二人は練習の手を止めると私に軽く手を振ってくれる。
「ななし野、ホントに烏野行ったんだな。及川サンがいるから、ウチ来んのかと思った」
「私は烏野一筋だからね!受験落ちなくて良かったよー!」
「お前、あんまり頭良くないもんな」
「ちょっと、岩ちゃんそれどういう意味?」
失礼な!と岩ちゃんに詰め寄ると、国見がプッと吹き出して確かにと呟いた。
岩ちゃんの言う通り、決して賢くはないが成績はそれなりに平均あたりをキープしているのだ。たまに…ごくたまに、赤点をとったりとらなかったりするのは否定できない。でも、やればできる子だ!
そう言ったら、岩ちゃんに「そう言うところがな…」と可哀想な子をみるような目で見つめられた。
「それより、王様も烏野らしいじゃん。それマジ?」
「そうだよ!私もビックリした。でも、影山変わったんだ。国見もビックリして目飛び出るかもね」
「ふーん…王様がねぇ」
「国見さん、私のボケは無視ですか」
「実際目が飛び出んのはお前だけだろうけど、影山が居るって騒いでた時の及川の目は飛び出そうだったぞ。お前ら、段々似てきたよ」
「ちょっと、岩ちゃんそれ新手のツッコミ?」
私が徹ちゃんと似ているとは心外である!岩ちゃんに文句を言えば、国見はニヤニヤしながら「何か分かるわ」と呟いた。
「似てないし!私はあんなにヘラヘラしてないもん!ねっ、岩ちゃん!」
「その軽い感じがな…」
「そうですね」
「…何だろう、この腑に落ちない感じ。ところで徹ちゃんは大丈夫なの?」
二人からからかわれている感じがするけど、これ以上は追及しないでおこう。先程、バス内で貰った徹ちゃんからのメールを思い出して尋ねると岩ちゃんが腹立たしげに事情を話してくれた。
今日の練習で気合い入れすぎて転けて現在保健室に居るらしい。大事をとって病院にも寄るかもしれないから、試合には間に合わないかも、ということだ。
バカだな。もうすぐ大会も始まるというのに…。でも、メールにはピースした写真つけてきたくらいだから、大したことはなさそうで、少しホッとした。ウザくても徹ちゃんは私の大事な幼馴染みなのだ。心配している。
「ワガママ言った張本人が不在で悪かったな。まあ、お前も及川居ないほうが気楽だろ」
「確かにそうかも」
なんて冗談混じりの会話をしていると、体育館に続々と烏野の面々がやってきた。そろそろ戻って準備しなければ。二人にもその旨を告げてチームメイトの元に向かう。一歩踏み出したところで国見が私を呼び止めた。
「ななし野、」
「どうかした?」
「王様とは戻ったんだ?」
国見は私が影山とギクシャクしているんじゃないかと心配してくれているようだった。まだ昔程ではないけど仲直りは出来たし、これからもっと友情を深めていくつもりだ。
自分の出来うる限りの笑顔で国見に「おう!」と伝えると、ふっと笑って「良かったじゃん」と返してくれた。
「ななし野ちゃん、いたいた!」
みんなの所に戻るとスガさんが私を見つけて軽く手を振ってくれる。すぐ後ろにはツッキーとグッチーが続き、私とスガさんの所で立ち止まった。
他のメンバーも体育館に入るとその広さに驚いている。日向はまだ緊張が抜けないのか、大地さん達が何とかリラックスさせようと奮闘中だ。試合までに治ればいいけど…。
「先に来てたんだね!今、青城の人たちと一緒に居なかった?」
「あの二人、北川第一のバレー部で私と影山の元チームメイトなんです!」
「あ、そっか!ななし野ちゃんも北一だったな」
「じゃあ、召使いの名付け親が居るんだ」
ツッキーが私を見下ろしてそう言った。何でそんなこというかなぁ、と非難めいた視線を送ると意地悪な笑みが返ってくる。どうしてそんなにイキイキしてるんだろう。
出会ってから数週間、ツッキーは相変わらず私に冷たかった。第一印象があまり良くなかったり、私がぐいぐい行きすぎるのもあるんだろうけど…。こっちはただ仲良くなりたいだけなのに、中々上手くいかない。
でも最近ここまで悪く言われるのは私のことが好きなんじゃないのかと思っている。好きな子程いじめたくなるとか、そんな感じ?だとすれば今までのツンツンした態度も頷ける。
「何か文句でもあるわけ?」
「あのさ!ツッキーって、私のこと好きなの?」
「はぁ!?どうやったらそんな奇抜な発想が出来るわけ?コワイ」
「うっ、ムカつく…!」
思い切って単刀直入に尋ねたものの、どうやらそれはないようだ。何より表情が物語っていた。だとすればただ単に気に食わなくて馬鹿にしているだけということ?
そう考えるとだんだんと腹が立ってくる。同じチームメイトなんだから少しくらい優しくして欲しい。
お互いに威嚇しあっているとグッチーがどうしていいのか分からずアワアワしているのが視界の端にチラついた。
「二人とも喧嘩はナシな?」
流石に取っ組み合いの喧嘩なんかはしないけど、バチバチと火花を散らす私たちをスガさんが間に入って諭す。先輩に迷惑を掛けるわけにはいかないし、冷静になろうと息を吐いた。
「君、青城のスパイなんじゃないの?」
「なんでよ!私がスパイなわけないじゃん!」
「…確かに、君にスパイは向いてないね。ソッコーでバレそう」
完全に面白がっているツッキーは、私が怒り出すとますます可笑しそうに笑う。私だってスパイくらい出来るし!と言ったものの、ツッキーの言う通り直ぐにバレそうだなと自分でも思った。
「ツッキーだってスパイ出来ないよ、きっと!賢そうに見えて実はそうでもないんでしょ?」
「ツッキーは中学の時、通知表オール5だったよ!」
「なっ!?」
「山口うるさい」
「ごめんツッキー」
最早何の話か分からないけど、言われっぱなしは悔しい。ツッキーが実はバカだったら面白いのに!と苦し紛れに反論すると、グッチーが何故かドヤ顔でツッキーの成績を教えてくれた。
普通に頭いいじゃないか!顔良し頭良しなんて羨ましいにも程がある。ひとつくらい欠点があればいいのに!
悔しさのあまり無表情になるとツッキーがブフッと噴き出した。
「笑い事じゃないし!私真面目に傷付いてますけど!?」
「あーそうなのゴメーン」
「月島、そんな大人げない…」
ぐ、と言葉に詰まる私を笑うツッキー。私じゃ口では勝てないと悟った。悔しいけど試合前に選手と大喧嘩するわけにもいかず、「せいぜい、試合頑張れよ!」とツッキーを指差して言い逃げすることが精一杯だった。
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