「日向、ヤバイなー…全然緊張が解けてない」
「あのままじゃ、……負けますよね」
「言いたくないけど、負けるだろうね」
日向の緊張とプレッシャーはピークのまま試合が開始した。始まってから日向の不調は絶好調だ。言葉はおかしいけど、そう言うのが一番しっくりくる。
大地さんのレシーブを横取りしたり、ポジションを無視してオロオロウロウロしたり、田中先輩にぶつかってプレーの邪魔をしたり。誰が見ても100%「あいつ、緊張してね?」と分かるレベルである。とにかく緊張が行き過ぎて明らかにチームの邪魔になっていた。
タイムアウトをとって宥めてみても、あまり意味はない。影山の怒鳴り声にいつも以上に反応して縮こまっていた。私は一度日向を緊張のドン底まで貶めたので何も言えない。
結局、見ているだけで何も出来ず、ただ日向が通常運転に戻ってくれるのを祈るだけである。
そして、日向のミスも積み重なり気が付けば青城のセットポイントだ。なんとか流れを変えようとしていたこのタイミングで、良いのか悪いのか分からないけど絶賛テンパり中の日向がサーブだった。サーブミスは即失点、すなわち第1セットを落とすということ。日向にとってこれ程の重圧はないだろう。
そして皆が見守る中、悲劇が起きた。
日向の打ったサーブが見事に影山の後頭部にぶち当たったのだ。それはもう吸い込まれるように綺麗な軌道を描いていて、狙って打ったかのようだった。一瞬体育館が静まり返る。皆がポカンとしている中、日向だけが謎の笑顔のまま固まっていた。
あの影山の後頭部にサーブを決める人なんて初めて見た!改めて思い返すと、段々と笑いが込み上げてくる。
「あっはっは!日向ナイッサァア!ブフッ、ひぃー無理!腹筋が割れる!」
「ォハーッ!ぅオイ後頭部大丈夫か!!」
「ナイス後頭部!」
静かに詰め寄る影山と後ずさる日向。影山の表情はこちらからは見えないけど、日向の顔がその恐ろしさを物語っている。焦りから怯え、そして無になった。
私は耐えきれずに笑い転げていると、スガさんに「バカ、ななし野ちゃん黙って!」と注意され渋々黙る。同じように田中先輩とツッキーも笑いながら冷やかしていた。
影山と日向のコンビは見ていてとても面白いなぁ。落ち込む日向に田中先輩が声をかけているのを眺めながら、そんなことを思った。
「バレーボールっつうのはなぁ!ネットの"こっち側"に居る全員!もれなく"味方"なんだよ!!下手糞上等!迷惑かけろ!足を引っ張れ!それを補ってやるための"チーム"であり"センパイ"だ!」
「田中先輩、カッケェェエ!」
「何でななし野ちゃんが感化されてんの?!」
田中先輩の素晴らしい言葉が私の胸にも突き刺さる。ヤベッ、田中先輩カッコいい!!熱いっす!やっぱり私の師匠だけある。是非私も使いたい。迷惑かけろ!足を引っ張れ!
うぉお、師匠ー!と田中先輩に駆け寄ると、もっと褒め称えろ!と言われたので、日向と一緒にひたすら田中先輩の名前を呼び続けた。私が男だったら田中先輩に惚れそうだ。
そして直ぐにスガさんに、「お前はコッチで応援しなさい」と連れ戻されたのだった。
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そして、第2セット。復活した日向を筆頭に烏野の反撃が始まった。途中影山とツッキーが喧嘩したりと、問題はあったけど点数はどんどん烏野に加算されている。 完全に流れは烏野に向いていた。
そのまま、あれよあれよという内に第2セットは烏野が獲得。これで、ゲームカウント1対1。第3セットを取ればうちの勝利である!私たち1年にとったら初勝利だ!
「おっしゃあああ!このまま、最終セットも獲るぜええ!逆転勝利!」
「師匠!お疲れっス!」
「おお、弟子よ!ご苦労!」
セット間の小休憩に戻ってきたメンバーにタオルとドリンクを渡していく。一時はどうなるかと思ったけど、何とか勝てそうで安心した。
向こうチームは強いけど、徹ちゃんが居ない分攻撃力が半減している。幼馴染みの贔屓目とかなしに、徹ちゃんはとてもバレーが上手い。そのチームの大黒柱抜きでは、やっぱりうちの勢いは止められない。
田中先輩と日向が浮かれてショーリ!ショーリ!と小躍りしていると、影山が油断ダメですと呟いた。その言葉に皆が首を傾げる。
「多分…ですけど…向こうのセッター、正セッターじゃないです」
「えっ!?」
影山が同意を求めるように私を見たところで、丁度第3セット開始の笛が鳴りその場は解散となった。選手がコートに入った所で、体育館に黄色い悲鳴が聞こえてきた。まさか!と思い相手側を見ればニコニコと笑う及川徹の姿。
今日来ないんじゃなかったのか!という私の呟きはギャラリーによって掻き消された。
「キャー及川サーン!やっと来たぁ!」
「及川さん、無理しないで下さーい!」
二階から徹ちゃんを見に来ていたらしい女の子たちの声援が飛んでくる。相変わらずモテモテだなぁ。そんなモテ男が私に声を掛けようものならたちまち注目されるので、それだけはやめて欲しい。ニコニコと人好きのする笑顔で手を振っている徹ちゃんに見つかりたくなくて、ポケーッとそっちを見ていたグッチーの後ろに隠れた。
いつもツッキーの横にいるから小さく見えるけど、彼も179�pという高身長なので私が隠れるには十分である。
グッチーは、どうしたの?と不思議そうに聞いてきたけど、何でもないよと言えば追及してこなかった。
「あ、あのさ、ななし野さん。あの及川って人凄いこっち見てない?気のせい…じゃないよ!やっぱりこっち見てるよ!睨まれてない?」
「エッ?あれじゃない、グッチー目をつけられたんだよ。狙われてるんジャナイカナー!」
「な、何で俺?何でカタコト?」
グッチーのいう通り、チラッと様子を伺うと徹ちゃんが物凄くこっちを見ていた。もし徹ちゃんの目からビームが出たらグッチーは今ごろ穴だらけだろうな。はは、蜂の巣にされるって奴だ。
私に盾にされているグッチーは泣きそうに、ツッキー助けて!と震えていた。そりゃ、いきなり相手チームの選手に睨まれたら怖いよね。ごめん、グッチー。
微動だにせず、グッチー(の後ろの私)を見つめる徹ちゃんは、監督に早くアップ行ってこい!と怒られていた。名残惜しげに私を一瞥すると、ぷくーと頬を膨らませて体育館を出ていく。そんな顔しても可愛くないからな!
ギャラリーの女子は、「及川さん今の可愛くなかった?!」ととんでもない大興奮だったけど…。ちなみに、田中先輩の顔も(怒りで)とんでもないことになっていた。
「何で俺睨まれてたんだろう…」
「…」
徹ちゃんの視線から解放されたグッチーはホッと息を吐く。明らかに私のとばっちりだ。申し訳なく思って無言で肩を叩いておいた。
そして、アップを終えた徹ちゃんが再び体育館に戻って来る頃には烏野がマッチポイントを迎えていた。
「ごんべ子見てるー!?」
「え!?」
ピンチサーバーでコートに立った徹ちゃんは女子たちの声援をバックに思い切り手を振ってきた。体育館中の視線を一身に浴び、恥ずかしさにフリーズする。クソ川コノヤロウ!二階の女子ギャラリーから、誰?とか、どういう関係?と刺を含んだ口調のセリフが聞こえて私はドキリとした。
「わ、ワタシチガウ!ワタシごんべ子ジャナイ!」
「何でカタコト!?」
「こら、及川!さっさとサーブを打たんか!」
私がごんべ子だと知っているメンバーは、どういうこと?という視線を送ってくるのでとりあえず私は無関係であると顔を背けておいた。誤魔化せなかったけど。
試合中の私語で監督に怒られた徹ちゃんは、テヘペロという表現がぴったりな顔でサーセンと謝る。微塵も悪いと思ってないな!?コートに立つ岩ちゃんの顔が般若のようだった。
そして徹ちゃんは、静かにツッキーを指差すと彼に向かって殺人サーブを放つ。宣言通りの場所に放つコントロールに加えて影山の殺人サーブを上回る威力だ。
凄い音を立ててツッキーの腕に当たったボールは、これまた凄いスピードで二階に飛んでいった。痛そう…腕折れそうだな。
その後も徹ちゃんは、ツッキーばかりを狙った。ツッキーがレシーブ苦手なことを分かった上で集中攻撃をしているのだから、性格が悪い。勝つための戦略と言われてしまえば、それまでだけど。ツッキーの腕が赤くなっていて反射的に自分の腕を擦った。
「ツッキィイ!!」
「ツッキー負けるなぁ!ファイトだツッキーィ」
「ななし野ちゃん、山口落ち着いて!」
ツッキーが集中攻撃をされて泣きそうになっているグッチーにつられて、私も声援を送る。ツッキーはいつもムカつくけど、やっぱり同じチームメイトとして負けて欲しくない。ツッキーに目で煩いと訴えられたけど、こればっかりは言うことを聞くわけにはいかなかった。ツッキー踏ん張れ!
私とグッチーの想いが通じたのかは謎だけれど、フォーメーションを変えたことでツッキーは何とか徹ちゃんのサーブを返すことに成功した。そして相手の攻撃を凌ぎ、最後は日向と影山の変人トス&スパイクで烏野の勝利を飾った。
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