練習試合は烏野が勝利し、武ちゃん先生の有難い講評(若干ポエミー)を頂いた後、帰る準備をしていたところ手洗い場で何やら対峙している影山と金田一を見つけた。これは、漫画的なやつやで!と少し離れた死角になっている場所からじっと見守っている。現在進行形で。
もしかしたら、二人の和解の瞬間が見られるかもしれない。それは私が凄く見たかった瞬間である。
よし、影山がんばれ!金田一がんばれ!と陰ながら応援していると、後ろからやってきた国見に見つかった。全く気付かなかった。

「なにしてんだ、お前…」
「国見よ、今良い所なんだ。少し静かにしてくれないか…あだだだ」

国見が黙って私の頬をつねるから痛くて大きな声が出た。やばい、二人ともこっち見てるんですけど!さっと隠れたので多分バレてはいないだろう。その証拠に二人は何事もなかったかのように会話を始めている。
危なかった、国見のせいで盗み聞きしてるのがバレる所だった!と小声で文句を言うと、多分バレてるけどねと哀れみに満ちた目で見られた。

「――そんで次は絶対に俺たちが勝つ!!」
「フンフーン、おれはっだあれ〜エースッになる男〜」

金田一の大きな声が廊下に響く。続いて独創的な歌詞の歌が聞こえて二人の方を覗くと、反対側の曲がり角から日向がヒョコッと出てきた。そしてすぐに引っ込んだ。…見なかったことにしよう。
影山は何も言わずにくるりとこちらを向き直ったので私も慌てて顔を引っ込めた。

「危ない危ない…日向につられて私も見つかる所だった」
「烏野って…バカばっか?」
「…国見さんダジャレですか…痛いっ!」

私が調子に乗ってそう言うと無言でふくらはぎに蹴りが入った。思ったより痛くてつい声が出る。ハッとして口元を手で覆い、そろそろと影山たちの様子を伺った。大丈夫、気づいていなさそうだ。

「――次戦う時も勝つのは俺達だ」

聞こえてきた影山の言葉に自然と笑みが溢れた。
今の影山は昔のような自己中ではなくなっている。今日の練習試合だってスパイカーに合わせたトスを上げたり、チームメイトと協力したり、以前の影山ではあり得ないようなプレイをしてみせた。
随分と成長したと思う。それを目の当たりにした金田一は、何か思うことがあるのかもしれない。彼は人一倍影山の不満を言っていたけど、人一倍影山に合わせようと努力もしていた。あいつも熱い奴だと私は知っている。金田一や国見と協力してプレイする影山を見てみたかったなぁ、と思ってしまったのは内緒だ。

「ななし野?」
「国見、王様はどんどん遠い存在になってしまうんだね。私みたいな庶民は置いてかれちゃうんだね」
「はぁ?」

影山は金田一とのわだかまりを解消出来たようだ。よかった。前に進んでるんだね。私は、少しくらい影山の力になれるのだろうか。いつだって影山は一人で強くなっていく。それが羨ましくもあり、寂しくもあった。私がどんなに憧れても本当のチームメイトにはなれないのだから。
私はマネージャーだけど、選手ではない。女だからみんなと一緒の舞台には立てない。小さな巨人みたいにはなれない。影山の隣には立てないのかな。

「なんかよく分からないけど、王様はお前を置いて行ったりはしないでしょ。ほら、見てよアレ。どうみてもななし野のこと待ってる」
「あ、ホントだ」

国見が指差した先には、影山が壁に凭れてこちらをチラ見する姿があった。ソワソワしているのが離れていても分かる。最早、ガン見されている。
あと数秒もすれば、ななし野はよ来いボゲェ!と怒声が飛んできそうだ。リアルに想像出来る。私がプッと噴き出すと、国見が早く行けば?と背中を押してきた。国見って普段何事も面倒臭いみたいな態度だし、目は死んでることも多いけどとても良いやつだ。私は、お礼と共に「金田一によろしく」と告げて影山の元に走った。

「日向は?」
「便所だ。…国見と何話してたんだ?」
「もしかして、気になる?気になるの?」
「べっ、別に気になんてしてねぇよボゲェ!ななし野のボゲェ!」
「やっぱ、王様は王様だ!」
「あ?どーいう意味だ、コラ!」

一年前も同じような会話をしてた私達は、良い意味で変わっていないのだと知る。影山は変わった。でも、私と仲良くなった時の影山と変わってない。本当に、影山は私のこと好きだねーとからかうと真っ赤になった上に鬼の形相で頭を掴まれた。痛い痛いマジで割れる!私も影山に冗談が通じないと分かっているのにこの様である。


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「挨拶!」
「「ありがとうございましたーーッ!」」

体育館の入り口前で青城の選手たちがズラリと並び、烏野も同じように整列する。お互いに頭を下げ、挨拶をしていた。今日は本当にいい試合だったと思う。影山も横暴な王様から変わりつつあることを元チームメイトに見せることも出来た。それに、金田一とはわだかまりが解けたようだ。

でも、気になることがひとつ。
この場に、及川徹が居ない。試合後は応援していた女の子たちから差し入れを貰ったり、監督に怒られたりしていたので話す機会がなかった。だから今一言くらい挨拶しておこうかと思ったけど、居ないなら仕方ない。また今度でいいか。どうせ家に遊びに来るんだろう。岩ちゃんと国見に(金田一も)軽く手を振ってお別れし、バスに向かった。


みんなで校門に向かいながら、今日の試合の反省をする。なんか、青春っぽいなー!と密かにウキウキしていると、よく知る人物が校門で待ち構えていた。
私は咄嗟に近くに居たツッキーの後ろにサッと隠れる。隠れる必要はないけど、つい。このまま徹ちゃんの視界から上手く姿を消してバスまで辿り着ければ…。と画策していたら、一瞬でそれは打ち砕かれた。

「ちょっと、僕の背後に立たないでくれる」
「お前は暗殺者か!…ハッ、しまった」

徹ちゃんがみんなに"挨拶"している間、ツッキーの後ろに隠れてやり過ごそうと思ったのに!あまりにも堂々とそう言われたから、私も思わず大きな声でツッコミを入れてしまった。だって、僕の背後に立つなとか言われたら…。私の渾身のツッコミはこの場にいる全員の意識をかっさらってあっさり見つかってしまった。
笑いを堪えているツッキーは確信犯決定である。おのれツッキー!眼鏡割るぞ!

「もー、ごんべ子何で隠れてんの?あとさ、さっきはよくも無視してくれたよねー!」
「あの、うちのマネとはどういう…?」
「あ、キャプテンくん気になる?"俺の"ごんべ子がいつもお世話になってます!」

徹ちゃんの言葉に空気がピシリと重くなった気がした。わざとだ、絶対に。ツッキーの後ろにいた私の元までやってくると、するりと腰に腕を回してきた。固まる私が抵抗しないのを良いことに、反対側の腕で私の肩を引き寄せ抱き締められる。待って、今何が起こっているの?ふわふわとジャージから香る徹ちゃんの制汗剤の匂いが鼻腔をくすぐった。
急なことにドクドクと脈打つ心臓。これは恥ずかしいからだと言い聞かせた。

「俺のってどーいうことだコルァ!おい、ななし野!お前はリア充なのか、この優男とリアルが充実してるんデスカー?!」
「ちち、違います田中先輩!ちょっと、徹ちゃん誤解を生む言い方はやめてよ!」
「「徹ちゃん?!」」

渾身の力で徹ちゃんの腕を抜け出すと、田中先輩が絶望的な顔で詰め寄ってきた。ここでリア充ですなんて答えようものなら、太平洋に沈められそうな勢いだ。
私が焦りと羞恥のあまり徹ちゃんと普段通りの呼び方をしてしまったせいでますます誤解を生んでしまった。何とかして!と徹ちゃんを見るとニヤニヤと締まりのない顔。徹ちゃんはこの展開をこの上なく楽しんでいる!最早私一人がテンパって全力で否定しているけど、誰も信じてない気がした。

「及川さんとななし野、ただの幼馴染みですよね?」
「飛雄チャーン、空気読んでよー」
「もう!いいでしょ、このクソ川!戻らないと監督さんと岩ちゃんに言いつけるからね!」
「エッ、そりゃ酷いよごんべ子!」

影山の一言で、烏野のみんなは幼馴染みだったのか、と納得してくれたようだ。若干誤解は解けていない気はするけど。ナイス影山!徹ちゃんは、せっかく面白い展開になりそうだったのにと口を尖らせていた。何が面白い展開だ!私はちっとも面白くない!これ以上、この男をここに居させるとややこしくなる。私は徹ちゃんの背中を校舎の方へ押した。岩ちゃん早くこの男を連れて帰って!

「ま、今日は面白かったしいいや。ごんべ子、また後でね!あと、飛雄ちゃんとそこのメガネくん!ごんべ子は渡さないよ」
「はぁ!?」
「言ってる意味が分かりませんケド」
「ホントに分かんないのー?ふーん、じゃいいけど」
「岩ちゃぁぁあん!岩ちゃん早くー!早くきてー!」
「あっ、ごんべ子!ちょ、ごめんもう行くから、黙って!」

影山とツッキーに向かって意味の分からないことを言う徹ちゃんにとうとう痺れを切らして大声で岩ちゃんを呼ぶ。恐らく徹ちゃんが戻ってこないから探しに来ていたであろう岩ちゃんがこっちに向かって走ってきていた。
その阿修羅像のような顔を見た徹ちゃんはやがて青い顔をして引きずられ去っていった。

「みなさん、ご迷惑をおかけしてすみません…あの、さっきのは冗談なので気にしないでください」
「あ、ああそうなのか。何か大変だな」
「まあお前がリア充じゃないことは分かった」

徹ちゃんとのやりとりは一種のパフォーマンスのようなもので深い意味はないのだ。徹ちゃん本人も冗談のつもりだろうし、周りの反応が面白いからやっていると思う。
特に、影山とツッキーにはあんまり気にしないでね、と言っておいた。二人とも複雑な表情だ。影山に至っては、公式戦で叩き潰したいとまで言われてたし、とばっちりも良いところだろう。本当に申し訳ない。
大地さんを始め、みんなが同情の目を向けてくれたので私は苦笑いを返した。



VS青葉城西
(あのメガネくん、油断ならないよねぇ)

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