私に任せておけ!と豪語したのは良いものの、具体的な案は一切浮かんでいない。本当にただの一ミクロンも、だ。全くもってノープラン。完全に勢いと感情だけで言ってしまった。笑うしかない。あれだけ自信満々に言ってしまった手前、後には引けない。やばい。
「で、どうしたらいいと思う?」
「君さ、なんで僕に聞くかなぁ」
「だって、ツッキー頭いいでしょ?ね、グッチー」
「そうだよ、ツッキーは中学のとき…」
「山口うるさい」
「ごめんツッキー」
溺れる者は鬼畜メガネにもすがりたい、ということで私はあの後すぐに隣のクラスの1年4組に来ていた。進学クラスにいるツッキーなら頭も良いし、何かアドバイスをくれると思ったのだ。でも、さっきから心底面倒くさいという視線しか貰っていない。
何を聞いても、ほっとくしかないとか僕らには関係ない、とかそんな言葉ばかりである。確かに私も本人の問題だと思っているし、関係のない私がでしゃばることじゃないこともわかっている。でも、先輩たちには元気になって欲しいのだ。居ても立ってもいられない。
「君の気持ちは分かったけどさ、たかが部活デショ。そこまで他人の問題に首つっこむなんて余計なお世話じゃないの?」
「そうだけどさ…そんな寂しいこと言うなよツッキー」
「そもそも僕に相談すること自体が間違ってるよね」
もう完全に取り合う気はないのかヘッドフォンをつけてしまったツッキー。その隣でしょぼんとしているグッチーは、出来ることがあったら言ってね!と私を励ましてくれた。仕方がないので手を振って自分の教室に戻ることにする。
影山はまだ戻っていないので、旭さんに関する情報は今のところ得られない。スガさんに聞きに行こうかとも思ったけど昼休みの時間も残りわずかなので諦めた。こうなったら午後の授業は作戦を立てることに費やすしかない!
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午後の授業は全て旭さんを呼び戻す作戦に費やした私は、現在頭を抱えていた。クラスメイトはもうみんな部活に行ったり帰宅したりして、教室には私しか居ない。
いくつか案は思い浮かんだものの、実際に旭さんと接触した影山からの情報を加えるとあまり期待できそうもなかった。まず、正攻法で頼むという方法はスガさんや影山たちが既に実行してダメだったらしい。スガさんでもダメとなると、私なんかが頼んだところで取り合ってもらえないだろう。
手紙を書く、何とか騙してバレー部に連れてくる、ノヤさんに直接頼んでもらう、先生を使う、私とバレー勝負をして勝ったら戻ってきてもらう、脅す、ボコる、ボイコット…現国のノートはボツになった提案で埋めつくされていた。
「仕方ない、部活行こう…」
無理だ、これ以上悩んだところで現実的な方法は浮かばない。とりあえず部活には行かないと…と思って私は体育館に向かうことにした。そもそも、旭さんがどんな人かも分からないので作戦を立てるには情報不足なのだ。もっと早くそのことに気づくべきだった。今のところ、私が持っている旭さんの情報といえば"烏野エースでワイルドな根性ナシ"である。あと"ロン毛にヒゲ"。
やっぱり雪男しか思い浮かばない私の想像力にがっくりと項垂れた。
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「"エース"になる夢抱いてる奴も居るんだからな」
「痛ッ」
体育館に向かう途中、私は目撃してしまった。大地さんがヒゲの生徒に肩パンしている所を…。
これは一体何事?と、とっさに柱の影に隠れて様子を伺っていた。喧嘩?激励?脅迫?と心配したけどどうやらそんな険悪な感じでもなさそうだ。大地さんの口振りからして、例の旭さん、だろうか。
背が高くてロン毛でヒゲで気が弱い。パンチされたところを擦りながら去っていく大地さんに何も言えないところを見ると、気が強そうには見えないし、見た目もワイルドで私の持っている情報にも当てはまる。雪男には程遠いけれど、八割方そうじゃないかと思った。
真相を突き止めるため、私は思いきってその人に近づく。
「あのォ…」
「うわあああ、びびビックリした!!ご、ごめん急に出てきたから…」
「な、なんか急に声かけてすいません、まさかそんなに驚かれるとは思わなくて…!」
「いやいや、俺が心構えしてなかったのが悪いんだ!君が謝ることないよ!」
「え、でも実際に驚かせてしまったわけですし…」
すいません、いや俺の方こそ…というやり取りを三度程繰り返して私は悟った。このままでは、延々と謝り続けることになる…!ペコペコしている旭さんらしき人に、申し訳ない気持ちは拭えなかったが思いきって尋ねる。
「もしかして、旭さんですか?」
「そ、そうだけど…もしかして君もバレー部関係者?」
「はい、1年のななし野ごんべ子です!男子バレー部マネージャーやってます!」
「そっか、マネージャー増えたんだな」
やっぱりこの人は旭さんだった。エースと呼ばれるには十分な体格である。性格は予想以上に気弱そうだけど。
そんな旭さんは少し目を細めて体育館を見ていた。その目はバレー部に未練があるようにしか見えない。懐かしむような、そんな目をしている。
本当はバレー部に戻りたいんじゃないだろうか。じゃなきゃ、こんな所に居る意味も分からないし。
旭さんは私がバレー部に戻るように説得し出すと思ったのか、悪いけど俺は戻らないよ、と釘を刺した。今まさに、正攻法でお願いしようと思っていたのに!私は口を開けたまま言うに言えなくなってしまった。
ど、どうしよう。こうなったらこのまま体育館に引っ張っていこうか…いや、私にこの人を引っ張る力はない。
「べ、べつにそういうわけじゃないで、ですけど?」
「凄く動揺してるね…」
「こ、これは部活に行きた過ぎて震えてるだけですけど?」
「だったら早く行った方がいいよ、もう始まる時間だと思うし」
「あッ!」
時計を見ると部活開始まで五分を切っていた。只でさえ教室で時間を取りすぎたというのに、すっかりそのことを忘れて話し込んでしまっていた。遅れたら大地さんに怒られる。でも旭さんを何とか連れて行きたい…。
にっちもさっちも行かなくなった私に、旭さんはじゃあね、と立ち去っていった。そんなあっさりと!
でも、あと一押し。きっと旭さんは迷っている。旭さんの目はバレーを嫌いになんてなっていない。なにかキッカケがあれば旭さんも考えてくれるかもしれない。余計なお世話かもしれないけど、私に出来ることがあるなら何だってしたい。
私は急いで体育館に走った。
「すいません大地さん!ちょっと急用が私を呼んでいるので部活遅れます!!」
「えっ、ななし野?!急用が呼んでるってどういうこと??あ、ななし野?!」
入り口から大地さんにそう告げると、私は体育館を出て旭さんを探しに走り出した。
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