旭さんはすぐに見つかった。学校の裏にある土手に立ち、沈む夕日を見つめていたのだ。絶賛青春中だったので声を掛けていいものか、非常に悩む。もしかしたら、旭さんの中で邪魔されたくない一人の時間なのかもしれないし。
私は少し離れた場所から、旭さんの様子を伺うことにした。そして10分が経過。まさか、こんなに長い時間黄昏れているなんて予想外である。どうしよう、完全に声を掛けるタイミングを逃してしまった。
ついに土手に座り込んだ旭さんに、まさか夜までこのままなのでは?と焦燥感が襲う。
「あのォ…」
「わぁぁあ!ななし野さん、いつから居たの?!ていうか部活は!?」
「結構前から居たんですが、流石に20分も経ってしまったので、このままなのはヤバいと思って声を掛けました。部活は遅刻すると連絡したので大丈夫です」
「エッ?何で!?」
とうとう決心した私は旭さんに声を掛けた。ら、またしても超ビビった旭さんは体勢を崩して後ずさる。私ってそんなに恐いのだろうか。だとしたら少し凹む。だって旭さんの方がよっぽど見た目が恐いのに。
かなり驚かせてしまったけど、ここで私が謝るとまた謝罪合戦になるのが目に見えているので今回は何も言わず旭さんの隣に腰掛けた。
「旭さん、旭さんはどうして部活に来ないんですか?」
「エッ?いきなり?随分ストレートだね…」
「すいません、話すのが嫌だったらスガさんに聞きます」
「結局聞くんだ!?いいよ、それなら俺が自分で話すよ」
参ったなぁ、と呟きながら旭さんは話し出した。
――一ヶ月前の県民体育大会、相手チームだった伊達工業高校に徹底的にスパイクをブロックされたらしい。どんなに打っても打っても、絶対に打ち抜けない壁とエースにのし掛かる重圧に耐えきれず、最後は恐怖心からトスを呼べなくなった。
そして、負けた。
何度もボールを繋いでくれた西谷はちっとも自分を責めないのがとても苦しかった。申し訳なかった。スガも大地も、責めなかった。惨めだと思った。スパイクを打つときにブロックされるイメージが頭から離れなくなり、どうやってスパイクを決めてきたのかすら思い出せない。
そんな自分がエースを名乗る資格もないと。
それでも西谷は自分をエースだと気にして声を掛けてくれた。どんなボールも俺が繋ぐから、ブロックされるのは構わない、でも勝手に諦めるなと。
何も言い返せなくて逃げた自分を引き留める際、教頭に注意され、それを無視して騒ぎを起こしたとして西谷は自宅謹慎と部活動停止の処分を受けた。
ことのあらましは、そんな感じだそうだ。
「俺は、恐いんだ。またトスを呼んでブロックされたら…一度逃げた俺がまた戻ってエースを名乗るのも申し訳ない。点を決められないエースなんて居ても邪魔になる」
「いいんじゃないですか?私はマネージャーなのでブロックされる恐怖とかエースに掛かるプレッシャーとか全然わかりません」
「…」
「でも、ノヤさんは旭さんが戻ってこないと試合には出ないって言ってます。みんな、旭さんに戻ってきてほしいって言ってるんだから、それに甘えればいいじゃないですか」
私も小さな巨人に憧れて一時期は町内会のバレーに参加したり、体育の授業で頑張ってスパイクを打ってみたりしたけど、ヘナチョコでブロックする程でもないようなボールしか打てなかった。そもそもジャンプ力も足りないから、私はスパイカーには向いてない。だから、烏野のエースと呼ばれる旭さんは羨ましかった。
「私は女だし、バレーも上手に出来ないし、小さな巨人みたいに烏野のエースにはなれません。でも、旭さんは私がなりたかった"烏野のエース"なんです。その肩書きだけでも欲しい人は少なからず居ます!」
「…」
「偉そうなこと言ってすいません。でも、ノヤさんと龍先輩に任しとけって言っちゃったんですよ!旭さんが戻ってきてくれないと、私ただの見栄っ張りになっちゃいます!どうしてくれるんですか?」
「エッ?!それ、俺のせい?」
「とにかく、私はもう部活に戻りますけど…私をただの嘘つきにはしないでください!あと、さっきからみんなにどう思われるかばっかりで、旭さんがどうしたいのか、私には分かりませんでした」
「ちょ、ななし野さん…!」
「来てくれないと……」
「エッ?何?来てくれないと……何があるの?!あっ、待ってななし野さん!」
私はそのまま旭さんに頭を下げて体育館に向かった。これで旭さんが戻ってこなかったら、明日から毎日下駄箱に「ヒゲ剃れ」って手紙入れてやろう。
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「すいません、遅れました!」
「何してたんだ、ななし野!話は後で聞くけど、とりあえず今から練習試合なんだ」
「エッ練習試合!?どことですか?」
「町内会のお兄さん方たちとだ!お前はマネージャーか、遅刻とかナメてんのか?」
「あ、坂ノ下商店のお兄さん!どうしてここに?」
私が体育館に戻ると、中には知らない大人の人達が居た。OBかな、今日なんかあったっけ?と考えていると、大地さんの横で私を咎めていた坂ノ下商店のお兄さんが答えてくれた。
そういうお兄さんも相手チームに入るのだろうか。その前にバレー出来るんだ!と思ったら、武ちゃん先生に「"コーチ"の烏養くんです。詳しいことは後で話すね」と言われたので大人しく頷いておいた。本当は驚きすぎて色々と聞きたいことがあるけどそんな状況でもなかったので私は黙って試合の準備を始める。
「あっ、アサヒさんだっ!!!」
「!!」
「よ、よかったぁぁー!」
「ど、どうしたのななし野ちゃん?」
突然、日向が体育館の窓に張り付いて旭さんの名を叫ぶ。戻ってきてくれたんだ、よかった、私のメンツは保たれた!スガさんに不思議そうな顔をされたけど、私は「いえ、何でもありません」と返事をしておいた。
こういうのは、言い触らさない方がカッコいいと思う。私はあくまで無関係です、というスタンスで行こう。
コーチに呼ばれ、あれよあれよという間にすっかり相手チームに組み込まれた旭さん。目が合ったので私はピースを送った。私の言葉が響いたかどうかは分からないけど、とりあえず来てくれたことに感謝を込めて。
そんな私に旭さんは苦笑いでピースを返してくれた。
そして、相手チームにはスガさんとノヤさんも加わり町内会チームとの練習試合が開始した。
守護神とエース
(烏野は完成する)
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