合宿の条件

「スガさん!旭さん、ノヤさん!!私、私!今とても感動してます!あの、なんて言ったらいいか分からないんですけど…とにかく、感動してます!」
「わ、わかったけどななし野ちゃん落ち着いて」
「何でお前が半泣きなんだよ、ブッフォ!」

練習試合は本当に素晴らしかった。トラウマを克服した旭さんとか、旭さんを信じるノヤさんとスガさんとか、スポコンドラマでもみている気分だった。
旭さんは無事エースとしての自信を取り戻し、エースに相応しい活躍を見せてくれた。ノヤさんやスガさんとの連携は、やっぱりチームメイトとの信頼ありきのもので見ていてとても安心感がある。先輩たちには私の知らない歴史があり、絆があるのだろう。胸アツだ。
そして、烏野チームももちろん負けていなかった。日向と影山の連携はいつみても見入ってしまう。初めてあの速攻をみた人たちからは驚愕や感嘆など様々な反応を得られたので、私は自分のことのように嬉しくなった。
何よりあの影山が、日向を信頼している。ずっと一人で戦っていた影山がトスをあげたのだ。
「俺なら日向を最強に出来る」と。チームメイトのためにトスをあげる影山を見て、私は目頭が熱くなった。巣立つ雛を見送る親鳥、のような感覚だろうか?
結果は町内会チームの勝利だったけれど、勝敗に関係無くいい試合だったと思う。

「ななし野さん、今日はありがとう。最初は何だこの子って思ったけど、ななし野さんの脅し、結構効いたよ」
「エッ…?な、なんのことですか!?お、脅しって…」
「はは、ななし野ちゃん嘘下手すぎー!部活遅れてまで旭を説得してくれたんだって?」

試合も終わり、試合の後片付けをしている私に旭さんが近寄ってきた。それに続いてスガさんと龍先輩、ノヤさんも私の周りに集まってくる。
旭さんは部活前の迷いを含んだ目ではなく、しっかりした眼差しで私にお礼を言った。謙遜なんかではなく、本当に私は何もしていない。

「私はそんな……何もしてませんよ!それに、私の力じゃなくて旭さんと先輩たちの絆の力だと思います!」
「絆か〜!何かいいっスね!」
「ちょっと照れるべ」

旭さんが戻ってきたのはきっとバレー部のみんなとまだ一緒にプレーしたかったからだ。確かに私の行動がほんの少しでもキッカケになったのなら嬉しい。でも、さっきの試合を観てやっぱり先輩たちには敵わないと思った。
私もみんなとこんな風に信頼しあえる仲間になれたらいいな。
そんなことを思っていると、ずっと黙っていたノヤさんがズイッと私の前に立つ。とても真剣な顔で、思わず私も気を引き締めた。

「ありがとな、ごんべ子!さすが、俺の弟子だ!」
「ノヤさん…!」

余計なことしやがって、と怒られるのかと思った。でも、それは勘違いだったらしい。ノヤさんはとびきりの笑顔で私の名前を呼ぶとワシャワシャと頭を撫で回してくる。状況を理解するのに数秒を要した。
今、もの凄く褒められている?かつてこんな風に感謝されたことがあっただろうか。照れ臭いのと嬉しい気持ちが混じってどうしたらいいか分からなくなった私は、とにかくデヘヘと笑うことしか出来なかった。
今度は龍先輩がもっと照れろ!とノヤさんと一緒に頭を撫で回してきたので私は更にデレデレした顔になっているんだろう。

「じゃあ一発シメてとっととあがれー」

そして円陣を組んで今日の練習は終わった。黒いユニフォームで一丸となっている姿はとてもカッコいい。エースに守護神、コーチまで加わり烏野は今日から飛躍する。
いいなぁ、いいなぁ。私は外から見ていることしかできないのがもどかしい。そんな気持ちはマネージャーには不要だと心の奥に押し込んだ。


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「うぇえ!?武ちゃん先生、それは本当なんですか?!」
「ななし野さん、ここ職員室!声が大きいよっ」
「いやでもだってそんな!」

合宿まで残り3日。私は職員室で衝撃的事実を知って絶叫した。ムゴイ…これはあまりにも…ムゴすぎる!
事が発覚したのは10分前、合宿についての詳細な予定や連絡などを確認するために武ちゃん先生のところを訪れたところまで遡る。
私は初めての合宿ということでとても張り切っていた。授業の内容なんか頭に入らなかったし、部活中はずっと潔子さんと相部屋かなとか夜は師匠たちとトランプしたいなとか、家に帰ってからもご飯作れるようにしなきゃ!と、それはもう1日中と言っても過言ではないくらいずっと合宿について考えていたのだ。
それなのに、部屋割りを聞いた時、武ちゃん先生が「マネージャーは泊まりじゃなくて、帰宅してもらおうと思ってるんですよ」とさらりと言ってのけた。
毎年、潔子さんは家が近いので用事が終われば帰宅するそうだ。ええ!潔子さん居ないの?と、それだけでも充分ショックなのに女一人だと何かと大変だろうし、問題が起こってもいけないので帰らそうか、ということらしい。
そんなの仲間外れもいいところだ。マネージャー業だけこなして帰宅なんて、ただの部活じゃないか。私は合宿がしたいのだ。なのに泊まれないだなんてふざけるにも程がある!

「武ちゃん先生、お願い!私も、泊まりでお願いします!部屋がないなら男子と一緒でもいいですし、なんなら先生と一緒でも!!」
「ちょ、ななし野さん問題発言はやめてください!男子と一緒なんて許すわけないでしょう!」
「私を女として見ている部員なんていません!それなら大丈夫ですよね?!」
「エッ、いやそういう問題じゃないんですが…」
「それに私は家も遠いですし、夜中に何かあったときマネージャーがいた方が絶対いいです!」

だから泊まりでお願いします!!と武ちゃん先生に頭を下げる。こんなに頼んでいるのに却下されたら今後武ちゃん先生のことを鬼畜眼鏡先生と呼ぶ。
周りの先生たちがざわざわとしているのを気にして、武ちゃん先生は頭をあげて!と焦りながら私に言った。

「まあ、部屋は余っていますし、泊まりでもいいんですけど」
「ほ、本当ですか!?」
「一つ、条件があります」
「条件、ですか…?」

ゴクリ、と唾を飲み込む。一体、どんな条件なのか…ドキドキと先生の言葉を待っていると、ス…と一冊のノートを提示された。朝イチの授業で提出した、私の現国のノートである。これが一体なんだというのだろう。

「私のノートですね…」
「はい。これはただのノートではありません」
「名前を書かれると死ぬとかいうノートですか?」
「いえ、ななし野さんの現国ノートです」

先生はそのノートをパラパラと捲ると、あるページを私に見せてきた。そこには、「脅す、ボコる、ボイコット」など授業に全く関係のない単語が書きなぐってある。見覚えはありまくる。
これは旭さんを部活に連れ戻そう作戦で私が絞り出した案だ。消すの忘れてた。結局、頼み込む(脅しと言われたけど)で実行したので、その物騒な作戦は実行していない。でも事情を知らない武ちゃん先生は、これは何ですか?と私を見ている。

「ななし野さん、僕の授業聞かずにこんなこと考えてたんですか?!」
「いえ、あの、はい…」
「まさか僕の授業をボイコットするつもりですか!?」
「あ、あの、それは違います!授業とは関係無くて…旭さ…東峰先輩をちょっと、その…」
「え、東峰くんに何を!?……と、とにかく、合宿が始まるまでのあと3日、全ての授業を寝ずに真面目に受けること、それが泊まりの条件です」
「き、鬼畜…!」
「いいですか、一教科たりとも寝ずに、ですよ?それが出来ればななし野さんも泊まりでの参加を許可しましょう」

他の担当教科の先生方にも伝えておきますので!と言った武ちゃん先生。目が本気だ。いつも気弱な先生だけど、やるときはやる人である。退屈な授業を寝ずに受けるなんて辛すぎる。でも頷かなければ私の合宿はただの日帰り参加になってしまう。どちらが私にとって辛いものかを考え、覚悟を決めた。



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