「どうしよ、影山!」
「寝なきゃいいじゃねぇか」
「うわぁ毎時間爆睡してる影山に言われるなんてぇ!むかつくぅ」
「なっ!…ボゲェななし野のボゲェ!」
今日を含めてあと3日。今日は残すところ午後の2時間である。昼休みに影山に事の顛末を話した結果、ぐんぐんヨーグルを飲みながら「寝なきゃいいじゃねぇか」と言われた。言っておくが、そういう影山は毎時間白目を向いて爆睡している。説得力は微塵もない。影山に相談するだけ無駄だったか。私がはぁ、とため息を吐いたのをみて影山が心外だと声を荒げた。
「お前も人のこと言えねぇだろ!」
「影山いつも寝てるんだから私の授業態度なんて知らないじゃん」
「知っ……らねぇ!」
ぐっと言葉に詰まった影山は、飲み終わったパックをぐしゃりと握り締め私から顔を背けていた。不審に思ったけど、今はそれよりも考えなければならないことがある。私は気にせず続けた。
「とにかく鬼門は英語だよね。他の教科は何とか耐えられるんだけど…」
「ああ、確かにアレはヤベェな…そもそも日本人に英語が分かるはずがねぇ」
「だよね!何かいい方法ないかなぁ?」
武ちゃん先生の条件は、寝ないことだ。寝ていなければ真面目に授業を受けているようにも見える……ハズ。現国は武ちゃん先生なので緊張して多分寝ないだろう。他の教科も先生が恐かったり、自分の好きな教科だったりすれば真面目に受けるし、多少の眠気ならシャーペンを手の甲にぶっ刺すから大丈夫だ。いつもそれで乗り切っている。
ただ、英語だけはもうさっぱり分からない上に先生がひたすら教科書を読み上げるだけという詰まらないものなので非常に不安だ。いつもどんなに頑張っても気付いたら寝ている。シャーペンぶっ刺す前に意識がない。
本当に武ちゃん先生から話がいっていれば私が寝ていることもきっとバレるだろう。考えただけで眠くなってきた。私が欠伸を噛み殺している姿を見て、影山が思い付いたように言う。
「俺が起こしてやろうか?」
「ちょっと、寝言は寝て言ってよ!影山起きてられないでしょ!」
「はぁ?どういう意味だ。俺だってずっと寝てるわけじゃねぇよ」
「どーだかー。じゃあ、丁度次の時間英語だから私が寝そうになったら影山起こしてよ」
「ああ、いいぜ」
よし、決まりだなと笑う影山の自信は一体何処からくると言うのか。私が知る限り影山が起きて真面目に授業を受けている方が珍しいというのに。幸いにも影山とは先週の席替えで隣になったので、監視しあうには丁度良い。
影山が起きていられるのかどうか私も監視してやろう。と思ったのに、授業開始3分でそれは崩れ去った。
「起立、礼、着席ー」
「(影山寝るんかーーーい!)」
なんでやねん!と思わずツッコミを入れそうになって踏みとどまる。何が起こしてやろうか?だ。開始3分で寝る奴のセリフではない。座った途端に見事に白目を向いて微動だにしない影山は天才だ。
その後影山は、私が何度起こそうが絶対に起きなかった。放課後までひたすら寝ていた影山を何としてでも起こそうと躍起になっているうちに、私は眠気を忘れて授業を受けたのだった。ある意味、影山のおかげなのかも?
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合宿まであと2日。今日の授業6時間と明日の授業6時間を乗りきれば私も泊まりで合宿に参加できる。気合いで乗り切るしかない!
そのために、私はもう影山には頼らないと決めた。なので、授業中に眠くならないように昨日は早く寝た。遊びに来ていた徹ちゃんを丸無視して21時には眠りについたのだ。それに、今朝も朝練に間に合うギリギリの時間まで寝て、充分に睡眠をとったし、朝練中も疲れないように無駄な動きを一切封じた。
幸いにも午前中の授業は体育や音楽など実技中心だったので居眠りは防げた。が、問題は午後である。お昼ご飯を食べ終えて満腹になった状態。午前中の実技中心の授業で蓄積された疲労。春の心地良い日差しとそよ風に、眠らない生徒が居るだろうか。私は迷わず睡眠をとる。普段なら。
ムカつくことに影山なんてご飯食べたら即行で眠りについていた。昨日から何なんだろう。影山は私が居眠り出来ない事情を知っているくせに、自分ばっかり爆睡して。嫌がらせじゃないか。
「で、僕の所に来たってわけ……。君、相当暇だよね」
「うん、何かじっとしてたら眠くなっちゃうし。ツッキーと喋ってたら眠気も覚めるかと思って」
「なにそれ、どういう意味?」
「ななし野さん、眠くなったら自分の好きなことを考えるってどうかな?」
「いいねそれ!グッチー、詳しく!」
隣のクラスの4組は私にとっていい暇潰し場所である。ツッキーは相変わらず私に邪魔だとか来んなとか冷たいことを言うけど、無視したりはしない。それをいいことに、私は暇になるとツッキーのところに遊びに来ていた。
でも今日は、ちゃんと目的がある。私の眠気覚ましだ。頭のいいツッキーなら何かいい方法を知っているかもしれない。と思っていたのに、協力的なのはグッチーだけだった。
「ほら、好きなことを考えていると時間が経つのも早いじゃん。逆に嫌いなことだと時間が経つのも遅いから段々つまらなくなって寝ちゃうし…」
「ああ、確かにそうかも!部活の時間はあっという間なのに、英語の時間は1時間には思えない程長く感じるなぁ。でも、好きなことってなんだろう?」
「バレーとか?俺、嫌いな教科の時はバレーのこととか好きなマンガの展開について考えてたら結構時間経つの早く感じるんだ」
「バレーかぁ、私も小さな巨人のこと考えようかな」
「勉強しなよ」
最後のツッキーの言葉は却下して、私は考える。小さな巨人も授業中は寝てたのかな、とか好きな教科何だったんだろう?とか、考え出したら止まらない。確かに、この方法はいけるかも!グッチーナイス!と告げるとグッチーは照れたように笑った。
「それ、君はやめたほうがいいんじゃない?」
「なんで?」
「とんでもない顔になってるから、先生もドン引きでしょ…プッ」
「失礼だな、ツッキー!」
私の顔を見てプッスーと笑うツッキーに、笑いを堪えているグッチー。そんなに私の顔が面白いというのだろうか。度々、私の顔で笑うツッキーは本当に失礼な奴である。女の子にこんな態度とっていたら絶対モテないだろう。顔はカッコいいし、背も高いし、非常に残念だ。
そもそもツッキーは女の子以前に男の子にもこんな感じだし、友達といってもツッキーを崇拝しているグッチーくらいだろう。影山と同類か、と思えば数々の私に対する無礼も可愛く思えた。
「ちょっと、僕をそんな哀れみに満ちた目でみるのはやめてくれる?」
「ははっ、私はツッキーの友達だからね」
「くっ、何この屈辱感……!ていうか、何の話だよ」
「大丈夫か、ツッキー!?」
そろそろ昼休みも終わりそうだし、ツッキーからはいい情報も引き出せそうにない。次の時間はあまり得意ではない科目だけど、影山の面白い寝顔の観察でもしていよう。奴の寝顔はたまに芸術的だ。
飽きたら、グッチーの言うように好きなことで頭をいっぱいにしてやり過ごす。
よし、私の楽しい合宿生活のために頑張ろうではないか。
「じゃあ、私もどるね!ありがとう、二人とも」
「うん、何かよく分からないけどななし野さん頑張って!」
「せいぜい残念な寝顔晒さないようにね」
ツッキーは遠回しに頑張れと言っているのだろうか。寝んなよ、ということに違いはないので私はポジティブにそう捉えることにする。じゃないと、ツッキーと友達になんてなれやしない。私がツッキーに、頑張るね!と伝えるとツッキーは私に何かを投げて寄越した。咄嗟に出した手に収まるソレ。小さな四角い固形物が2つ。ガムだ。
「それ、結構辛いやつ。気休めにはなるかもね」
「珍しいね、ツッキーが辛いガムなんて」
「僕だってずっと甘いモノ食べてるわけじゃないから。ほら、さっさと行きなよ」
「…ツッキィィイ!ありがとう!この恩は一生忘れません!!」
「ちょっと君、声大きい!」
私は嬉しくてツッキーに頭を下げる。ツッキーはとんでもないツンデレ野郎だ。私を散々馬鹿にしてからのデレ!女の子には5回に1回優しくするのがいいらしいけど、確かにそうかもしれない。
私はツッキーから受け取ったガムを口に放り込み午後の授業を乗り切った。
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