合宿まで後1日。今日の授業6時間を寝ずに受けきることが出来れば、明日からの合宿で私も泊まり込みで参加ができる。昨日と同様に睡眠はしっかりとってきたし、部活でも必要最低限の動きに抑えてきた。あとは、自分との戦いである。
ちなみに、今日の時間割は生物、情報、英語、体育、日本史、現国という何とも言えないものだった。ネックはやはり、午後。体育を終えてからの満腹と心地よい気温はかなりヤバイ。事情を知っている影山は使い物にならないし、2日続けてツッキーに頼るのも忍びない。でも、私はやればできる子だ!がんばれ私。
1時間目の生物は楽勝だった。版書するのが大変で眠気なんて感じる暇もなく終了。朝イチだしまだ眠くない。影山も真面目に版書していた。
2時間目の情報も難なくクリア。途中から影山がうつらうつらとし出したのを観察しているうちに終了した。影山もまだ起きていた。
3時間目は魔の英語。これは、私も苦戦した。やっぱり、先生の淡々と教科書を読み上げるだけの授業は眠気を誘う。影山はまたしても爆睡。仕方ないので昨日グッチーに聞いた好きなことを考える方法で誤魔化した。あとは、シャーペンで手の甲をぶっ刺して気を紛らわせたり、寝ている影山にちょっかいを出してみたり、と何とか耐えた。好きなことを考えているときだけ、やたら先生に当てられたのは何だったのだろう。
4時間目は体育で、体力測定だった。私は全力を出しきり大変充実した結果を残せたと思うけど、とても疲れてしまった。
それでも、残すところあと2時間である。よく耐えた。
「あと、2時間かー!ついに、ここまできた!」
「へぇ、やれば出来るもんなんだな」
「影山よ、君も少しは見習いたまえよ!結局、ほとんどの時間寝てたよね」
午前の授業が終わり、昼食を食べるためにお弁当を広げながら影山に嬉々として報告する。先にパンを齧っていた影山は私の恨めしげな視線から逃げるように顔を背けた。結局、影山はトータルして起きて授業を聞いていた時間の方が短かった気がする。部活がハードで疲れているのも分かるけど、こんなに寝ていて大丈夫なのだろうか。
確か、受験は失敗して烏野に来たと言っていたし、思い返して見れば中学の頃から影山は授業中も寝ていたイメージが強かった。成績についてはあまり良く知らないけど、
この調子ではあまり良くはないのだろう。私は自分のことよりも影山の方が心配だ。私は授業中に寝ているといっても毎時間というわけでもない。ちゃんと課題だってこなしているし、成績も普通だと思う。苦手教科に関してはノーコメントだけど。
私が内心心配していることなど露知らず、影山はめざめのヨーグルにストローを差しながら私に聞いた。
「でも、何でそんなに泊まりたいんだ?別に家に帰ろうが泊まろうが同じじゃないのか?」
「もーー、全然分かってないな、影山よ!いい?部活が終って帰宅、ソレ合宿ジャナイ!私は合宿がしたいの、夜に皆でわいわい騒ぎたい枕なげしたいガールズトークしたいのー!」
「でもがーるずとーく?って女がするものじゃねぇの?清水先輩は帰るんだったら、女はお前一人……」
「そうなんだよォ、私は潔子さんと相部屋で色々やりたかったのに!」
「おい、やっぱお前泊まりはナシにしとけ!」
「え?影山、今私の話聞いてた?」
合宿といえば、メインは夜でしょう!そう言っているのに、影山は急に恐い顔をして私に帰れと言い出した。フザケンナ、私は絶対に何が何でも泊まりで参加する。師匠たちと色々遊ぶ計画(常識の範囲内で)立てているし、準備だって泊まる前提で進めている。あと2時間真面目に授業を受ければそれが叶うのだから、今更そんなことは出来ない。
「お前、男しかいないんだぞ?分かってんのか?!風呂とか部屋とかもお前一人じゃ何かあったときどうするんだよ!」
「何もないって、大丈夫!先生にもそう言ってあるし、私をどうこうしようなんて考える人、バレー部に居ると思う?ていうか、そんなことしたら部活できなくなるでしょ」
「ボゲェななし野のボゲェ!お前、もうちょっと…なんていうか、危機感を持てよ…」
「影山が心配してくれるのはありがたいけど、本当に大丈夫だって!万が一、何かあったら影山が助けてくれるんでしょ?絶対ないと思うけど」
「は…?え、う…ばっ、何言ってんだ?!!」
「あはは、冗談だってば!影山顔こわいー!顔真っ赤ー!あっはっはいだだだ」
「ななし野のボゲェ!フザケンナ、ボゲェ!!」
あまりにも影山が真剣な顔で言うものだから、ついいつもの調子で影山をからかってしまった。影山もいい加減に慣れればいいのに、顔を真っ赤にするものだから私の中の悪戯心に火を着けるのだ。案の定私の頭を影山の大きな手が鷲掴み、私は痛みに悶えた。クラスメイト達がまたか…というような視線を送ってきていた。
「痛いよー!離してよ、影山のボケェ!」
「あ?もっとやれって?」
「ギャー!」
確かに、影山の言う通り男子高校生の集団の中に女が一人だなんて状況はあまりよくないのかもしれない。だけど、私は何の心配もしていなかった。影山も居るし、みんな信頼できる人たちである。
暫く私の頭を痛めつけていた影山は落ち着いたのか私の頭を解放すると、小さな声で「何かあったらすぐに呼べよ」と呟いた。ちょっとだけ嬉しかったのは内緒だ。
---
そして、満腹状態での5時間目。教科は日本史。ちなみに影山は授業が始まる前から既に爆睡中である。私がちょっとトイレに行っている間にそこまで寝るか?と呆れる程に寝ていた。おそらく、私が戻ってくるから起きていようとはしてくれたんだろう。きちんと座ったまま、白目を向いてゆらゆらと船を漕いでいる姿を見て私の腹筋が崩壊した。バッチリ写真に収めて保存済みである。これ、面白映像に投稿できるんじゃないだろうか?笑いが止まらない。
ついでに、丁度廊下を歩いていたツッキー達にも見せたら笑いすぎて泣いていた。そんな影山のお陰でバッチリ目が冴えた私は続く6時間目の現国も無事にクリアできたのだった。
「武ちゃん先生ーー!!やりました、やりましたよぉ!!!」
「ななし野さん!」
ついに、この時がやってきた!私はチャイムと同時に教卓の武ちゃん先生のところにダッシュする。クラスメイトたちの視線が集中しようが、影山がまだ起きていなかろうが今の私には関係ない。とにかく達成感で満たされていて、もし私がオリンピックの金メダリストなら今この場でメダルをかじっていただろう。嬉しさのあまり狂喜乱舞する私に武ちゃん先生も少し嬉しそうに笑って、ハイタッチを交わした。
「先生!私、ちゃんと約束の3日間真面目に起きて授業を受けました!これで、私も泊まり参加オッケーですよね?」
「やりましたねぇ、ななし野さん!もちろん、約束は約束です。ななし野さんも泊まりで合宿参加を認めましょう」
頑張りましたねぇ、とニコニコして告げる先生に私は大きく頷いてガッツポーズを決めた。帰ったら、寝るときの服用意しなきゃ!あと、帰りに坂ノ下でお菓子を買って帰ろう!高校生だから500円までオッケー!バナナはおやつに入りますか?そういって、はしゃぐ私に武ちゃん先生は笑う。
「初めは軽い冗談のつもりだったんですが、ななし野さんが頑張ってくれて先生嬉しいです!」
「えっ、冗談?え?」
「あっ、いえ……まあ、あはは。実は少しだけ脅すつもりだったんだけど、ななし野さんもやる気だったからそのまま言わないことにしてたんです」
「そ、そんな…!」
「冗談だったことは謝りますが、結果的に今回のことはななし野さんのためにもなったはずですよ!では、明日から合宿頑張りましょう」
嘘だろ、そんな冗談ナシだろ!と膝から崩れ落ちた私の頭にポンと手を置くと先生は教室を出て行った。私がこの3日間どれほどの睡魔と闘ったと思っているんだ。いたいけな少女の心を弄んだ先生は優しい顔をした悪魔である。当の本人に悪気がないのが恐いところだ。
なんだか、合宿に参加する前にドッと疲労感に襲われた。そして影山は相変わらず爆睡中である。
合宿の条件
(何はともあれ私は泊まり込みで合宿に参加できる!)
← top bkm →