ロードワークは、開始から僅か20分で一時中断した。既に坂道でヘトヘトになっている私にとっては、嬉しい中断である。これで少し休憩できる!と思ったのも束の間、緊急事態発生のようだ。
坂を上りきったところで、立ち止まりキョロキョロと視線を彷徨わせる影山に追いついた一行。一緒に走っていたはずの日向の姿はなく、大地さんが影山に尋ねると、多分道を外れましたと答えた。つまり迷子である。
まじか…、日向のことだから「やべっ、道間違えた!」くらいだろうけど、少し心配だ。事故や事件に巻き込まれていないとも限らないし。
邪魔にならないように大地さんがみんなを道の端に寄せると、顎に手をあてて困った顔をする。
日向が帰り道が分からない可能性がある、と複雑な顔で呟いた。まさか、高校生にもなって迷子だなんて!でも否定できない。だって日向だし。ここにいる全員が、日向が道に迷いあたふたしている姿を思い浮かべたに違いない。
「アイツ、なにやってんだか…」
影山が苦々しい表情で呟き、ツッキーは心底面倒臭そうに放っておこうと言った。その言葉にグッチーがうんうんと頷く。勝手に居なくなって勝手に迷子になったのは日向だし、一ヶ月近く通っている烏野の町なのだからどうにかして帰ってくるだろう。
それに、みんなは今練習中だしここはマネージャーの出番である!
「じゃあ、私自転車だし日向のこと捜してきますよ!だから、みんなはロードワークに戻ってください」
「でも、ななし野ちゃん一人じゃ大変だべ」
「そうだな、ななし野一人じゃちょっと心配だ」
「だ、大地さんそれどういう意味ですか?」
「君も迷子になりそうってことデショ」
「な、なるわけないじゃん!」
スガさんを始め大地さんもツッキーも私まで迷子になると思っているらしい。私の提案に、二人は頷かない。
軽くショックを受ける私にツッキーが止めを差した。日向じゃあるまいし、私は大丈夫だ!万が一迷ったとしても商店街の人に聞けばすぐに分かる。憤慨する私を宥めるように龍先輩はまあ落ち着けと言って肩を叩いた。
「ななし野ひとりで探すよりみんなで捜した方が早い!ですよね、大地さん!」
「えっ、まあそうだな…」
「よし、じゃあ日向捜しに行くか!」
龍先輩は豪語する。が、当然みんな乗り気ではない。特に影山とツッキーの嫌そうな顔は群を抜いていた。影山は、練習させろの顔で、ツッキーは勝手にしてくれの顔だ。他のメンツも、まあ仕方ないか…としぶしぶ賛成した感じである。
「じゃあ、こういうのはどうだ?ロードワークも兼ねて2チームに分かれて捜して見つけたチームは食いたいものを武ちゃんに作ってもらえるご褒美つき!」
「ご褒美…!いいじゃないですか、俄然燃えますね、龍先輩!何作ってもらおう…」
「とんこつラーメンって作れるのかな…」
「ホヤ酢…」
「3時にショートケーキ一択」
龍先輩の提案に、しぶっていた面々もすかさず反応した。ご褒美が武ちゃん先生の料理なら話は別である。先生の料理は素人とは思えないほど美味しい。その先生に自分の好きなものを作って貰えるなんて最高すぎてヨダレがでそう。
さっきまで嫌がっていたツッキーも一瞬で乗り気になった。影山もグッチーも、スガさんですらリクエストを考えている。すっかりみんなその気になってしまったので、大地さんは仕方なくGOサインを出したのだった。
「よし、1・2年合同チーム!とりあえず公園一周すんぞ!ななし野もこっちな!」
「オス!」
龍先輩の掛け声で1・2年生は走り出す。ぞろぞろと後輩たちを引き連れる龍先輩は心なしかイキイキしてみえた。楽しそうだ。私も冒険みたいだとワクワクしながら、合同チームの後に続いた。
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運動公園のジョギングコースを走っていた1・2年合同チームは、先ほど「日向ホイホイ作戦」と言うものを考案した。ネーミングは微妙だけど、作戦としては割と有効かもしれない。
その作戦内容とは、日向が好きそうなもの、つまり「バレーボールの練習」をしながらロードワークをし、日向をおびき寄せるというものだ。大声を出しながら練習していたら、日向もつられて出てくるに違いない、ということである。
そんなものにひっかかるのかなぁ、と思ったもののそれが一番最善策な気もしてきて口は出せなかった。日向はゲロ吐きながらでもバレーの練習をしたがる男なのだから…。
「よし、ななし野!お前に重大な任務を与える」
「な、なんですか!?龍先輩!」
「お前には別働隊として動いてもらう!チャリなら俺たちより速く、遠くまで行けるからな!日向ホイホイを決行しながら、とにかく広範囲を捜してきて欲しい」
「な、何かカッコイイですね!指令みたいですね!」
「ごんべ子、これはお前にしか頼めないことだ!俺たちの勝利はお前にかかっている!頼むぞ!」
「イエッサー!」
真剣な顔で二人は私の肩を掴んで言った。重大な任務!別動隊!しかも、私が勝利の鍵を握っているなんてかっこよすぎる!私がテンションをあげる隣で影山が羨ましそうにうずうずしていた。
影山は意外と子供っぽいところがあるから、"任務"とか"指令"とかに反応したに違いない。でも、これは"私"が頼まれた仕事なので、譲ってやらない。
誇らしげな態度の私にツッキーが「バカばっか…」と呟いた。
「いいか、ごんべ子。大声を出しながら、日向が居そうなところは隈なく捜すんだぞ?」
「日向が居そうなところですね、わかりました!」
「ゴミ箱の中も一応見ておけよ、ななし野」
「ご、ゴミ箱ですか…?居ますかね、そんなとこ?」
「日向のことだから、奇想天外なところにいるかもしれないだろ」
でも流石にゴミ箱にはいないと思うけど、ノヤさんと龍先輩が言うなら居そうな気がしてきた。もしかしたら、ドジしてハマッってしまって抜けないという事態もなきにしもあらず。龍先輩とノヤさんに続いてみんなも日向の居そうな場所を次々と挙げている。
「溝とかに落ちてるかもな」
「あー、ありえる!あと、ネコとかにつられて路地に迷いこんでそう」
「公園の遊具とかで遊んでるんじゃ?」
「迷いに迷って隣町」
「ボゲェ日向ボゲェ」
聞けば聞くほど日向はみんなから子供扱いされているなと思った。影山に至ってはただの悪口である。一応参考にしつつ、私はペダルに足をかけた。
「じゃあ、頼んだぞ弟子よ!」
「任せてください師匠!」
ぐっと親指を立てて、私はみんなと反対方向に進んだ。皆の期待の眼差しを背中に受けながら。
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