「サッコォーイ!日向ー、でておいでー!サッコォーイ!ヘイッヘイッ」

みんなと別れてから私は慎重に辺りを見渡しながら、日向を捜して町を徘徊していた。もちろん、ノヤさん達に言われた通り大きな声で練習時の掛け声を言いながら。
時々、自転車を降りて溝とか開店しているお店の中とか、日向の居そうな場所もしっかり確認している。でも、一向に見つからない。もしかして本当に隣町まで行ってしまったのだろうか。
一人で掛け声をかけながら自転車を漕いでいるとかなり変な目でみられるから、早く出てきて欲しい。商店街を通った時は、滝ノ上さんとか嶋田さんに「マネージャー元気だなぁ!一人だけど」と若干笑われてしまった。でも、日向を見つけるための作戦なので仕方ない。

「ヘイッ、日向ヘイッ!……休憩しよ」

無理だ、疲れた。坂の多いこの町は容赦なく私の体力を奪う。マウンテンバイクでもなんでもないママチャリでは長時間の運転に向かない。
辿りついた開店前のゲームセンターの前に自転車を止めて、私は部員用に持ってきていたドリンクをゴクリと飲んだ。みんなゴメン。
温くなっているけど、我ながらとても美味しいドリンクだと自画自賛する。中学時代、王様のために苦労した甲斐があった。水分を補給して少し復活したので、とりあえず龍先輩に言われた通り、ガチャガチャの後ろやお店の脇、一応ゴミ箱の中も覗く。居ない、どこにも。

「もぉおお!日向ーどこにいんの?!日向バカヤロー!レシーブ一本ーー!ヘイッヘイッ!」

ヤケになってどこに居るかも分からない日向に向かって大声を出す。自転車にのっていないので、レシーブのジェスチャーも付けて。これで、練習してると思って出てこないかな!日向の好きなローリングサンダーしたら出てくるかな?でも、あれただの前転だし私がこんなところでそんな奇行に走って妙な噂でも流されたら困る。ので、ローリングサンダーはやめておいた。

「ねえちゃんウルサイ!」
「ご、ごめんなさい!」

悶々とする私の隣から、私に向けて怒声が飛ぶ。突然のことでびっくりして、声の方を見ると小学生の男の子が座り込み、不機嫌な顔で私を見上げていた。手に持ったゲーム機ではなく、私に向けられた視線に怯み咄嗟に謝る。
私…が悪いんだよね?まだ、状況が理解できていないけれど、そんなことお構いなしに少年は立ち上がると詰め寄ってきた。私の半分くらいの身長だけど、威圧感はある。

「ねえちゃん、高校生だろ。近所メーワクとか考えなかったのかよ!」
「考えてなかったです。す、すいません?」
「謝って済むならケーサツはいらねーんだよ!」
「なっ、それはそーですけど…そんな怒らなくてもいいんじゃないかな?!」
「ねーちゃんが大声出したせいでクリスタルとれなかったんだよ!あと一個で進化だったのに!!これは怒らずにいられないッ!」

小さい岩ちゃん見てるみたいだな、とちょっとだけ思ってしまった。一体、何をそんなに怒ってるんだ、と思えばどうやら私のせいで手元が狂ってゲームで失敗したらしい。ほら、と見せられた画面にはゲームオーバーの表記が浮かんでいる。
そんなことで私は小学生に怒られただと?いやまあ朝っぱらから大声出した私も悪いけど、そんな怒らなくてもいいじゃん。ゲームばっかしてたら頭の悪い大人になるよ!…私も人のことは言えないけど。
少年相手にそんなことを言うのもどうかと思い、ぐっと堪える。ここは大人にならなければ、と何とか口角を上げてニコニコ顔を装ってみたけど、少年は笑ってんじゃねーよJK!と私に向かって言った。今時の小学生は、女子高校生のことを平気でJKって呼ぶの?怖い。
いくらなんでも腹立つな、と口元をひくつかせる私に少年がゲーム機を差し出してくる。これは、最新型の3DS!私持ってないんだ、くれるの?と若干喜んで手を出すと、違ぇよ責任とれよ!と言われた。

「せ、責任?」
「このステージクリアしてクリスタル取り戻してくれたら許す!」
「はあ?!お姉ちゃん、今部活中なんだよ、遊んでたら怒られるの!」
「大声だしてくねくねして遊んでたじゃねーか!」
「違うよ、これはバレーの練習!」

部活中にゲームなんて出来るわけない、と説明すると少年は口を尖らせた。さっきの私の真似をしているつもりなのかくねくねと動き、「ヘイッヘイッ」と声を出しながら私を見てくる。私、そんな動きしてなかった!そんな、フラダンスみたいじゃない。

「違う、そんな動きじゃない!もっと、こう!腰を落として、こう!こう!」
「はー?どこが違うんだよ、JK!」
「全然違うでしょーが、あとJK言うな!」
「ぶふっ、ククッ…ぶっひゃっひゃ」
「え??」

生意気な少年と、一緒だ!いや、違う!と言い合っていると、後ろから笑い声が聞こえた。明らかに私達に対しての笑いだ。もしかして日向か?!と勢いよく振り返ると、見たことのない長身の男の人が立っていた。
真っ赤なジャージに、とさかのような髪型、切れ長でつり目。俗にイケメンと呼ばれそうな男の登場に内心ドキドキする。
イケメンだけど笑い方はかっこよくないんだな、と一瞬思ったけど笑い方に関しては私も人のことは言えない。それより、この人は誰なんだ。こんな特徴のある人なら一度会ったら忘れないだろう。

「はー、腹痛ぇ、俺最初から見てたんだけど、何かツボったわ」
「え、最初から…?」
「自転車乗りながら、ヘイヘイ言ってたから気になってな。そこから見てた」

トサカのイケメンは、目尻の涙を拭いながら少し離れた場所のガードレールを指差した。そこに座って、私がゲーセンに到着したところからずっと見ていたらしい。
やだ、恥ずかしすぎる。普段からよく残念だと言われる私だけど、羞恥心というものは忘れていない。見ず知らずのイケメンに声をかけられただけでも恥ずかしいというのに、少年相手にムキになっているところを見られるなんて、もっと恥ずかしかった。
私の相手に飽きたのか少年はもうすっかりゲームに夢中である。おい、お姉さんを助けてくれよ、少年。

「…」
「…」

私は目の前でニコニコと人の良い笑みを浮かべるトサカのイケメンを前に、何を話せばいいのか分からず固まっていた。さっきのくしゃってした笑い方とはうってかわって、どうみても貼り付けただけの笑顔に正直ビビっている。
大地さんと何となく似ているかな、と思ったけどこの人よりはもっと近づきやすい。この人は、立ち去るでもなく話しかけてくるでもなく、ただ笑みを浮かべて私を見ているだけだった。これは、逃げてもいいのかな?
正直、自分からぐいぐい行けないタイプ、且つ相手からもぐいぐいこないとなると私は一体どう対処すればいいのか分からない。

「待ったー?」
「激待ち!」

不覚にも沈黙を破ったのはこの場に居なかった第四の人物だった。タタタと走ってきて、私の足元にしゃがんでいた少年のところまでやってくる少年B。さっきまで黙り込んでいた少年はパァっと顔を明るくして、それに答えた。
どうやら、友達と待ち合わせしていたようだ。少年は、なんとかクリスタルを手にいれてお目当てのキャラクターの進化を成功させたらしく、少年Bに自慢している。
子供らしく盛り上がる少年達を見ている、無言の高校生二人。これ、他の人からどういう感じに見えてるんだろう。一人でそんなことを考えていると、「さっき空き地んとこで、ゲームしてる金パツ赤ジャージの不良いたし」という言葉に、トサカのイケメンが反応した。ニコニコ顔が、ニヤリというニヒルな笑みに変わる。
小学生二人は、親にどうやってゲーム機を買ってもらうかを話し合いながらこの場を立ち去っていった。

「あっちの空き地ね…。じゃあ、俺行くわ」
「あ、はい!どうも、えーっと…あの、さようなら」
「ブフッ、ああ、はい。さようなら」

トサカのイケメンは空き地の方面に向かうらしく、一応私にその事を告げてくれる。相手の名前も知らないし、何て言えば良いのか分からない。とりあえず、もう会うこともないだろうし、自己紹介もいらないかな。でも、ありがとうは意味分からないし、またね!もちょっと違う気がする。
無難に絞り出した別れの言葉にイケメンは噴き出しながらも挨拶を返してくれた。そしてそのままひらひらと手を振って歩き出す。
そのジャージの背中に、デカデカと「NEKOMA」とかかれているのに気づいた私は、一人で盛大に「また会うじゃん!」と叫んだのだった。



合宿二日目"日向を捜せ"
(そして疲れきった私が学校の体育館に戻ると、日向が何事もなく一人で練習していた)

← top bkm →


31/119
ALICE+