午後8時半。私は全ての用事を終えて、女子に与えられている大部屋でくつろいでいた。隣の男子部屋からは話し声が聞こえてくる。盛り上がっている様子はないけど話し相手がいると言うのはちょっと羨ましかった。
いいなぁ、潔子さんが居ればガールズトーク出来るのになぁ。私は広い部屋で一人ぼっち。寂しいにも程がある!
男子部屋に突入しようかと思ったけど、師匠たちが後で行くから待っとけ!と夕食時に宣言してきたので私はこうして暇を持て余しているのだった。うーん、何時くらいか聞いておけばよかった。
「そういえば…」
ふと思い出して鞄から携帯を取り出し確認する。うわぁ、メールが5件、着信が3件。全て、幼馴染である及川徹からだった。内容は、「何で合宿って教えてくれなかったの?」から始まり「返事してよ!」という返信催促で終っている。
昨日の夜にチラッと確認してメールが着ていることは知っていたけど、疲れて返信を忘れていた。今日も朝から部活だったし、返信する間もなくこの時間まで放置していたのだ。ごめん徹ちゃん、無視するつもりはなかったんだ!と、心の中で謝っておく。
でも正直こっちから電話かけなおすのも面倒だし、今日も午前中の日向捜索で大分疲れているのでもう放置でいいかな。後に回せば回すほど面倒なことになるのは充分分かっているんだけど……。まあ、明日でいいや!と結論を出し携帯を枕元に置いた。
刹那、扉をノックする音が聞こえ、私は今日一番素早く立ち上がる。
「はーい!」
「よぉ、ななし野!ついにこの時がやってきたぜぇ!」
「ごんべ子、今日は寝てないな!遊ぼーぜ!」
「うおお!待ってましたー!ささ、入ってください!」
急いで扉を開けると、トランプやらUNOやらを手に持った龍先輩とノヤさんと影山が立っていた。この瞬間をどれ程待ちわびたか!テンションがあがるぜ!龍先輩とノヤさんもテンション高めだ。
合宿の醍醐味といえば、夜中のテンションに身を任せて遊ぶこと!だと私は思っているので、さっきまでの疲れが一瞬で吹き飛んだ。ノヤさんはダダダと部屋の中に入っていき、「うおー広ぇー!」と走り回っている。男子部屋と同じだけど、人数が違うからそう感じるんだろう。
「やっぱ、女子部屋はマズくないですか?」
「気にすんなよ、影山!女子っていってもななし野だしよ」
「そうそう…ってどういう意味ですか、先輩!」
「なはは!そのままの意味だぞ、後輩!」
大ハシャギな私たち三人とは反対に影山はまだ躊躇っていた。合宿前にも私が女一人という状況を心配してくれていたし、きっと今も何だかんだ難しく考えているんだろう。普段バレー以外のことなんて何も考えていなさそうなのに。考え無さすぎな龍先輩もどうかと思うけど、影山はせっかくみんなと打ち解けるチャンスなのだ。この機会を利用しない手はない!はははと笑いながら部屋に入っていく龍先輩に引っ張られ、影山もしぶしぶ足を踏み入れたのだった。
「おれ、合宿とか初めてだからわくわくする!」
「うわっ、日向!」
「?どうかした、ななし野さん」
「えっ、いや…」
全員部屋に入ったと思い、扉を閉めようとしたところでピョコピョコと軽く跳ねている日向が楽しそうに発言する。突然現れたように見えた日向に、私はびっくりしてのけ反った。え、いつから居たの?!とバクバクする心臓を抑えながら日向に聞くと、「最初から居たよ!」の一言。
どうやら龍先輩で見えなかったようだ。そんなこと言えなくて、「なんだよー!」と口を尖らせる日向に、私は何でもない!と誤魔化して部屋に促したのだった。
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そしてトランプは大いに盛り上がり、気づけば一時間が経過していた。前半はUNOでこてんぱんにやられた龍先輩が後半のトランプでは驚異的な強さを見せ、勝ち越している。負けず嫌いなこのメンツは燃え上がり、負けっぱなしは性に合わない!ということでリベンジを申し出たところ満場一致で賛成。影山なんて悔しすぎて般若のような顔でカードを睨み付けていて、隣の日向がそれに怯えている。途中から負けたら罰ゲームというルールが加わり緊張感もプラスされたので尚更だ。
最初の七並べでは、ジョーカーの使い方が分からず手元に残した日向が罰ゲームを受けることになった。嫌味ったらしくニヤリと笑う影山に、悔しそうな顔をするも一番で抜けた龍先輩から言い渡される罰ゲームに怯えて青い顔をしている。かと思えば、"尻文字で自己紹介"という屈辱的な罰に顔が溶けるんじゃないかというくらい赤くなっていた。一人信号機みたいだ。
よろよろと立ち上がった日向は、くるりと背を向けて「いっ、いきまーす」と蚊の鳴くような声で構えた。
「どぅわぁーっはっは、何書いてるかわかんねー!」
「翔陽!恥じるな、全力で!」
「ノヤさん、ちょっと!シューゾーですかっ!」
「ぶふっ」
日向には悪いけど、これは面白い光景だ。"日向翔陽、バレー部"とくねくねお尻を動かす日向をばっちりムービーに収めていると、ノヤさんからの演技指導が入る。シューゾーばりの熱血指導により日向は尻文字のスキルをアップさせるのだった。…いつ使うんだか!
続くポーカーでは、頭を使うことが苦手な影山のダントツ最下位。罰ゲームは今までで一番恥ずかしかったことを暴露すること、だった。それは興味がある!あの王様と呼ばれた影山が恥ずかしいことってなんだろう!
全員が興味津々で影山を見つめていた。見つめられた影山は、居心地が悪そうにうーんと悩むそぶりを見せ、ポツリと呟く。
「ななし野が…」
「ん?わ、私!?」
「先週の部活前なんですけど、ななし野が体育館の入り口の段差で躓いて、何事もなかったように振舞ってるのが…なんか恥ずかしかったっス」
「ヤメロォ!影山それ私の恥ずかしかったこと!」
何故か恥ずかしそうにする影山に、爆笑する龍先輩達。よくあることでしょ!?と思うものの他人に暴露されると恥ずかしさ倍増である。影山も見てたならそのとき言ってくれよ!うわあ、と頭を抱えた私にニヤニヤした龍先輩が影山に「他に!」と言ったので、またしても影山は考え込んだ。
「そうっスねぇ…授業中に居眠りして寝ぼけて先生のことをお母さんって呼んだり、体育で余所見してて顔面レシーブしたり、答案用紙に落書きして呼び出されたり…なんか色々見てて恥ずかしかったッス」
「影山貴様ぁあ!!見てたんかーーい!全部、私のことじゃないか!やめろよぉ!」
「ぶひゃーーっ、ななし野どんまい!」
「恥ずかしいよな、俺もよくやるから気持ちは分かるぞ!」
「ぶふっ、ななし野さん恥ずかしい!」
「顔面レシーブは日向もでしょー!」
もうダメだ、私のヒットポイントは0だ!何より、影山に見られていたのになかったことにしようとしたのが一番恥ずかしい。そもそも見てたならそのときに言って笑い飛ばしてほしい!これ以上掘り下げてもきっと私の黒歴史が発掘されるだけだ。笑い転げている龍先輩に次のゲームを要求した。
続く神経衰弱では、影山と日向の変人コンビがミラクルプレイを見せ同ペアで優勝。まさかのノヤさん最下位だった。まあ、ノヤさんはカードを覚えるというよりはその場その場のノリで引いていたので仕方ない。優勝した変人コンビ(主に日向)からの強い要望で、"ローリングサンダーを教えてほしい"という罰ゲームでも何でもないもので終った。
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