時間的にも、ラスト一回だなということで最後はトランプ王道のババ抜きで締めることになった。龍先輩を負かすこと未だ叶わず。今のところ1年生が恥ずかしめを受けただけである。
最後は勝つ!と燃える私を他所に龍先輩は始終ドヤ顔でカードを配っていた。くそぉ、ここは私が優勝して龍先輩に何かしらの仕返しをしてやる!と思い、手札を見て撃沈。ペアが一組しかない…。他のみんなはどんどんと捨てていき、大体2、3枚になっている。いや、でも手札が多いほうがペアが出来やすいはずだ!

「いよっしゃ、んじゃ俺からいくぜ」

龍先輩が右隣の日向から一枚カードを引き、よっしゃー!とカードを捨てる。続いて、私が龍先輩からカードを引く番である。す、とカードを差し出してくる先輩の顔がまるで悟りを開いたような顔になっていて、私は思わず噴出してしまった。変顔卑怯だ!
そして引いたカードは、ジョーカー。私は絶望した…。


「うぇーい!ななし野が最下位!そして俺様は優勝だー!」
「なんでそんなに強いんですか龍先輩!」
「悔しいー!龍、強ぇーな!」
「もっかい!もっかい!」
「バカ、もう時間ねぇよ。明日も早いからな」

手元に残ったジョーカーが憎らしい。結局ほぼ龍先輩の独壇場だった。次こそは必ず勝つ!と再戦を誓い、龍先輩からの罰ゲームを待つ。何をされるんだ、とドキドキしていると先輩から「潔子さんに俺のいいところを10個言ってくること!」と言われた。
それを聞いたノヤさんが、「ズリィ!俺も俺も!」と便乗する。そんなことでいいのか、と拍子抜けした私は快く頷いたのだった。暇を見つけて、二人のことを潔子さんに推しておくと約束し、今夜の楽しいお遊びは終了。みんなは部屋に戻っていった。


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「ふふふーん、ふふふーん」
「あ、ななし野ちゃん」
「うわああ!!?」

午後10時。先ほどの壮絶な戦いで喉が渇いた私はロビーの自販機でミネラルウォーターを購入して、鼻歌を歌いながら元きた道を戻る。その途中で、後ろから声を掛けられポンと肩に手が乗ったので、思わず悲鳴を上げてしまった。
消灯時間までまだ時間はあり、電気がついているので辺りは明るい。でも、こんな時間に出歩いている人なんて居ないだろ!と、血の気が引いた。まさか、まさか…と、恐る恐る振り返ると、ビックリ顔のスガさんが「そんなに驚かなくても」と苦笑いしている。
なんだ、スガさんか…と安心した私が申し訳なく謝ると快く許してくれた。さすが、烏野のお母さんポジションにいるだけある。

「どうしたんですか、スガさん。こんな時間に…」
「んー、寝付けなくて。散歩してた」

ニッと笑うスガさんは、そのままロビーのベンチを指差してちょっと喋らない?と尋ねてくる。断る理由もないので私は頷き、スガさんに倣ってベンチに腰掛けた。こんな時間に一体どうしたんだろう。じっと天井を見上げるスガさんに、私はだんだんと不安になる。
告白の雰囲気ではないし、だとするとダメ出ししか思い浮かばない。私なんかしたかな?!と自分の行動を思い返してみても、特に思い当たる節もなかった。
ソワソワして落ち着きのない私にスガさんは気付いているのかいないのか、ポツリと言葉を発する。

「影山って、中学のときから凄かったんだよな」
「そうですね、奴は才能に溢れてましたね…更に誰よりも努力してましたし、…スガさん何かあったんですか?」
「んー、いや、何かあったわけじゃないんだけど。同じセッターとしてもっと頑張らなきゃなと思って」

スガさんはさらっとそう言った。純粋に影山に負けてられないということなんだろう。その顔は何かを吹っ切れたように清々しい。
私はまだスガさんのプレイをきちんとみたことがないけど、町内会チームでの旭さんとの連携はとても安定していたと思う。話題の天才ルーキー影山と比べてしまうと平凡と評価されてしまうかもしれないけれど。

「あの、影山は別次元であって、スガさんはスガさんで。その、つまり…えーっと、私は二人とも頑張って欲しいです!」

影山は才能もあるし、ストイックだし、はっきり言って即レギュラーにだってなれる。私もずっと同じチームで応援してきた影山には頑張ってほしい。でも、そうなると同じポジションのスガさんはベンチになってしまう。
その気持ちをそのまま口に出してみると、自分の語彙力のなさに凹んだ。スガさんに元気を出して欲しいのに、これでは影山が凄すぎるから気にすんな!と言っているようだ。
気を悪くしたかも!と焦る私を見て、スガさんは声を出して笑いだした。こ、壊れた?

「あはは、ななし野ちゃん本当に分かりやすいよなぁ。まあ、ななし野ちゃんの中では俺より影山の方がよく知ってる奴で、それを超えるセッターなんて居ないもんな」
「す、すいません…!」
「しかも幼馴染もあの及川だろ?身近にそんなすげぇ奴が居たら俺が一番だなんて言えないよな。…あ!別に俺のこと褒めろって言ってるんじゃないよ!?」

今度はスガさんが慌てる番だった。私が少し笑うと「笑うなよなー」とむくれている。スガさんの新たな一面が微笑ましくて、温かい気持ちで眺めていた。3年生だからって私たちよりずっと大人だということじゃないらしい。こうして悩んだり落ち込んだりするんだと思うと距離が近くなった気がした。

「3年生は最後の大会だ。だからこそ少しでも長くコートに立ちたい。でも、負けたら終わりなんだ…」
「終わり…」
「ぶっちゃけると俺が試合に出るより、影山が出た方がいいと思ってる。けどそれは、譲るとかそういうことじゃなくてさ。チーム全体のことを考えてのことなんだ。俺はレギュラーを諦めたわけじゃない」

スガさんは、しっかりと前を向いて続けた。スガさんの覚悟が痛いほど伝わってくる。きっとスガさんは、そのことについて悩んだりもしたんだろう。ずっと一緒にやってきた仲間と試合に出て自分の手で勝利を掴みたいはず。でも、努力では補えない程のセンスと才能を持ち合わせた影山の出現に焦りや不安、嫉妬もあったと思う。もしかしたら、今も悔しくて仕方ないのかもしれない。なんだかやるせない。

「俺は勝ちたい。どんな形でだって試合に出てみせるよ。…あっ、何か呼び止めるほどの話じゃなかったな、ごめん。でも、誰かに聞いてもらいたかったのかも」
「私でよければ聞きます!」
「ありがとう。同学年には言いづらいし、同じ選手に言うのもなって思ってたから…。ちょっとスッキリした!覚悟も決まった!」
「す、スガさん…熱いっス!私、感動してます、今!とても!」
「わっ、ななし野ちゃん落ち着いて!」

いつもニコニコと見守ってくれていたスガさんの胸の内を聞き私の胸も熱くなる。この感動をどう伝えればいいか分からなくて、スガさんの手をとりブンブンと振った。わ、わ、と言いながらもスガさんは一緒になって手を振ってくれる。
どんな競技であろうと、出られる人数が限られているのだからこうして悔しい思いをする人たちも存在することを改めて思い知った。

「何も知らない私からは何を言えばいいのかさっぱりわかりません!でも、スガさんは影山にはない才能もいっぱい持ってると思います!チームを纏める力とか、経験とか…他にもたくさん!」
「ななし野ちゃん、」
「だから、頑張りましょうね!私も、頑張ります!上手く言えなくてすいません!良いこと言おうと思ったんですけど、何にも思い浮かばなかったです…!」
「ははは、正直だなぁ。大丈夫、ななし野ちゃんの応援で元気でたべ」

ニカッと笑ったスガさんは、とても男らしかった。きっとスガさんの努力が報われる日がくる。そう信じて、今日も一日を終えた。



合宿二日目"スガさん"
(少しでも長く3年生と部活をやりたい)



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