「どんなカギ?」
「えっと、黒い持ち手でこれくらいの大きさ」
玄関を出た私とツッキーは携帯のライトを頼りに、自転車の鍵を捜索していた。小さな物だし、色も黒いので注意していないと見落としてしまいそうだ。もしタヌキとか野性動物に持っていかれてたら最悪だな…そうなればスペアキーも持ってきていないので、鍵を壊さなければいけなくなる。それは嫌だ!何故なら高校入学のお祝いに祖父母が買ってくれた新しい自転車だから。なので、なんとしても探し出さなければならない。
とは言いつつも、私は怖いのでツッキーにほぼベッタリとくっついてキョロキョロと自分の足元を見つめることしかできなかった。少しでも離れれば、「僕あっち探すから」と一人にされそうだ。ツッキーはもう私に呆れているのか何も言わずに捜索してくれている。ツッキーありがとう!
「何かキーホルダーとか付いてる?」
「うん、テカチュウのキーホルダーがついてる」
「好きなんだ?」
ふっとツッキーが笑うのが分かった。テカチュウといえばみんな大好きボケモンの人気キャラクターである。そのキーホルダーは徹ちゃんや岩ちゃんと初めてゲームセンターで遊んだ記念にとってもらった大切な思い出の品でもある。徹ちゃんは私と一緒で自転車の鍵につけていたけど、岩ちゃんは今も持っているのかな。岩ちゃんなら、無くした!と言いそうだ。ツッキーも懐かしいよねと話に乗ってきて意外な一面を知れた。
そして気づけば自転車置き場に辿り着いていた。ここは電灯が設置されているので薄明るい。光に集まった虫たちが少し不気味さを醸し出しているけど、ツッキーがいるので平気だ。
「ねえ、これじゃないの?」
「あ!ほんとだ、こんなところに落としてたんだ!」
私の自転車のすぐ下を指差したツッキー。そこには私のお気に入りのキーホルダーがついた鍵が転がっていた。ポケットに入れ損ねて落としていたんだな…多分。無事に見つかってよかった。コレで鍵を壊さずに済む。私は今度こそちゃんとポケットに鍵を仕舞った。
「ツッキーありがとう!助かった!!」
「ん。じゃあ、もう帰るよ。疲れた」
「うん、ごめんね!って、待っておいてかないでぇ!」
「早くしなよ」
じーんと感動に浸っていると、スタスタと歩き出すツッキー。本当にツッキーって奴は!ちょっとくらい待ってくれたっていいじゃないか。私は慌ててツッキーを追いかける。そして、飛び出してきた黒猫にビビってツッキーの背中に突進し、怒られたのだった。
---
「ひええええ」
「ちょっと、煩いんだけど。あとさ、ちゃんと歩いて。重い」
「ごめ、ごめんよ!で、電話だ!」
「…出なくていいわけ?」
ツッキーに半ば引き摺られる形でロビーに辿りついた私は、突然震えた携帯に盛大にビビっていた。ポケットの中からライトの光が漏れ、点滅している。誰だろう?とディスプレイを確認すれば、"及川徹"と表示されていた。非常に嫌な予感がして、出るのを躊躇ってしまう。
だって合宿が始まってから四日間無視していたので、絶対怒っているはずだ。今日、岩ちゃんから「いい加減にクソ川に連絡しろ」と催促のメールが着ていたにも関わらず、丁度自転車の鍵がないことに気づいてすっかり返事を忘れていた。私が出るのを躊躇っていると、ツッキーが不審な顔で私を見下ろしてくる。
徹ちゃんも私を心配してくれているのは分かっているので、出なければならないのは分かっているけどやっぱり怒られるのが嫌で中々通話ボタンが押せなかった。
「あ、切れちゃった…」
「急用とかじゃなかったの?」
「いや、徹ちゃんだからきっと心配して掛けてきてるんだと思う」
「ああ、例の大王様…過保護な彼氏を持つと大変そうだよね」
「え、ちょっと待って!徹ちゃんは彼氏じゃないよ!」
「似たようなもんデショ」
似たようなものって何だ?確かに徹ちゃんの言動は恋人にするようなものが多いけど、実際にそんな事実は一切ない。小さい頃からずっとそうだったから私は何の違和感もないけど、傍から見ればそう見えるのだろう。徹ちゃんの過保護さは確かに親以上だと思うことはあるけど。
ツッキーに私と徹ちゃんはただの幼なじみだと説明すると、どうでもいいよと返された。ツッキーにとって私と徹ちゃんの関係なんて何の興味もないということか。ちょっとくらい興味持たんかい、チームメイトだぞ!と反論しようと口を開いたところで、バチンと通路の電気が消える。
「ぎゃああ、消えたー!暗い、何も見えない、明日も見えないー!」
「…ツッコんだほうがいいの?」
「……いえ、任意で…」
消灯の時間が来て、真っ暗になってしまった施設内。この混乱に乗じて冗談も言ってみた。暗いし怖いから気を紛らわせようとしたのに、ツッキーに一瞥される。
日向だったら絶対反応してくれたのに、と密かに落ち込んでいる私にお構い無くツッキーは歩き出した。ツッキーがドライすぎて泣きそうだ。手に持った携帯の光で足元を照らしながらツッキーの元まで走る。怖いのは本心なのでそこは考慮してほしい。ツッキーの横にピッタリと並んだと同時に震える携帯にまたしても寿命が削られた。
うわぁ、徹ちゃんだ!と確認した際に指が通話ボタンを押していた。
「待ってツッキー!置いてかないで!」
「はぁ?僕もう寝たいんだけど」
『もしもし?ごんべ子!なんで電話もメールも無視なんだよ!ごんべ子、聞いてんの?』
「ごめん、聞いてる!あっ、ちょっとツッキー待ってお願い一人にしないでぇ!」
『はぁ?!ツッキーって誰!?てか、今部屋に居るの?ねぇ、ごんべ子ツッキーって誰?!男!?』
「うわ、服を引っ張るなよ!伸びる」
『男の声がする!ごんべ子、説明!説明してよ!』
あああ、もうややこしい意味が分からない!と発狂しそうだ。電話の向こうでは徹ちゃんが説明!説明!と繰り返しているし、私はこんな真っ暗な通路で一人にされては堪らない!と階段を登ろうとするツッキーのTシャツを引っ張っている。そしてツッキーはイライラしながら私を引き剥がそうとしている奇妙な光景が出来上がっていた。
『ねぇ、ごんべ子!どういうことだよ、何してんの?まさか男と二人きりで…』
「もう!徹ちゃんが何を想像してるのか知らないけど、今忙しいの!いだだだ、ツッキー鼻伸びる!ウソプーになる!」
「じゃあ、痴話喧嘩は僕抜きでやってよ」
電話を片手にツッキーと徹ちゃんの二人と同時に会話をする。もう誰に何を言っているか分からなくなってきた。すると、ツッキーが私の鼻を摘みニヤリと笑う。デジャヴ。
そして今回もガチで私の鼻を取りにきている。
『ごんべ子、どういうこと?ウソプーになるの?鼻が伸びそうなの?俺はどんなごんべ子でも愛せるよ!』
「エッ?あんなに長い鼻でも?」
『当たり前じゃん!あっ、でもキスする時邪魔だよねぇ。その場合、鼻を曲げたり出来る?』
「知らないよ!っていうかキスもしないし」
『エッ?ちょっと、傷ついたよ今の』
「ごめん」
『それはいいけど、ツッキーって誰なの?』
「ツッキーはツッキーだよ!」
「ねぇ、一体何の話してんの?」
私にも分からない。話が逸れていることだけは確実だけど、鼻も痛いし徹ちゃんも煩いし、混乱している。耳元では壊れかけのラジオみたいに「ツッキーって誰?」と繰り返されていた。ツッキーはツッキーだし、説明出来ないよ!と言えば徹ちゃんは遂に怒ってしまった。こうなったら、徹ちゃんはややこしい。岩ちゃんがいないと収拾がつかない。
『大体さ、合宿行くことも教えない上にメールも電話も無視してさぁ!俺がどんなにお前のこと心配したか分かってる?せめて、一言くらい返事できたんじゃないの?俺何か間違ってる?』
「…うう、ごめん。間違ってない…」
「ねぇ、僕もう戻っていい?」
「えっ、ちょっと待って無理ごめん」
『全然分かってないよね?どうせ、煩いとか思ってんでしょ…もういいよ!ごんべ子なんか知らない!ブァーカ!ブァーカ!もう絶交だかんな!』
「はぁ?バカっていう方がバカだよ!」
徹ちゃんは最後にもう一度、ブァーカ!と言うと電話を切った。切られる直前、電話越しに「徹、うるさい!」と徹ママの声が聞こえたのは気のせいではない。それに絶交って何なの、小学生?正直、煩いとは思ってたけど徹ちゃんの厚意だということは理解しているのに。
私がムスッとしていると、ツッキーはようやく私の鼻を解放してくれた。伸びてないかな大丈夫かな…。高くなってたら万々歳だけど、ただ伸びてるだけだったら泣く。
← top bkm →