とは言ったものの日向のコース打ち分けは、そう上手くはいかなかった。やっぱり、まだまだ練習が足りない。今までずっと影山が精密なトスをあげて、コントロールしてくれていたため、自分で考えて打つことに慣れていないようだった。逆に影山も、いつもと違うトスは少しやりにくそうだ。
日向が思い切り打ち損ねたボールは、大地さんやノヤさんが拾って攻撃に繋げる。相手もモヒカンの選手を中心にどんどん攻撃を仕掛けてきた。現在、17対13と音駒にリードを許している。

「研磨ナイッサー」

相手からのサーブ、威力はないけど真っ直ぐ日向へと飛んでいく。丁度胸元辺りのそのボールは、とても取り辛そうで案の定日向は胸の辺りで受け止め転倒した。でも、ボールはまだ落ちていない。

「カバーカバー」
「そいあっ!龍!!」
「ノヤさん、ナイスカバー!!流石ですうわぁぁ!」
「ななし野ちゃん、まだ決まってないよ!」

ヘロヘロのボールをノヤさんが繋ぎ、高く打ち上げる。そして、そのボールめがけて龍先輩も高く跳んだ。「っシャァア!!」と力強く腕を振り上げ、ボールを相手コートに叩き込む。

「ピンチの時に決めんのは旭さんだけじゃないんだぜえええ!!ふんっ!」
「ぐっ」

龍先輩のスパイクは見事に相手のブロックを弾き飛ばし、烏野に点が入った。悔しがるモヒカン頭の人に、師匠たちがソイソイソォイ!!と奇妙な掛け声と動きで挑発をしている。その動きはよく分からないけど、先程の連携プレイはとてもかっこよかった!流石、師匠だ。

「龍先輩、ノヤさん、かっけぇっす!ナイスプレー!!」
「わはは、弟子よ!もっと褒め称えるがいい!」
「これが師匠の実力だ、目に焼き付けろよ!」
「こら、お前らやめろ恥ずかしい!」

興奮のあまり、師匠たちに声援を送ると二人は高笑いして仁王立ちで胸を叩く。ドーンという効果音が聞こえそうな二人に、パチパチと拍手を送るとスガさんにジャージの襟を掴まれ後ろに引き戻された。最近、私の扱い雑な気がする…。

「清水を見習って、大人しく見てな」
「うっ…すいません、そうします」
「分かればよろしい」

その後もお互いに攻防が続き、試合から目が離せなかった。日向の変人スパイクも健在、福永さんのバックアタック、黒尾さんのAクイック、旭さんのスパイクとラリーが続く。
決まりそうなボールも相手のリベロが拾う。そしてセッターにボールが上がると次に誰が攻撃を仕掛けてくるのか予想がつかなかった。黒尾さん、福永さん、モヒカンの人、坊主の人。誰でも攻撃してくる可能性はある。

「えっ!何あれ…すごい!初めて見た!すごい!」
「おー、一瞬止まった!」
「烏養くん!い、今の攻撃は?」
「…一人時間差」

相手のセッターがボールを上げたのは黒尾さんだった。先程のAクイックだと思ったブロックがすかさず跳ぶ。その一瞬、スパイクに跳ぶと見せかけた黒尾さんはピタリと動きを止め、ブロックとタイミングをずらしてからジャンプした。完全に騙された。
一瞬の出来事に私は思わず感嘆の声をもらす。グッチーと顔を見合せ凄かったね!と言い合っていると、コーチが解説してくれた。あれは、一人時間差攻撃というらしい。ブロックと跳ぶタイミングをずらし、攻撃を仕掛ける技で、昔はよく使われていたようだ。一試合にそう何度も使えるわけではないので今はあまりポピュラーではないらしい。
とうとう音駒が20点台の大台に乗り、流れも持っていかれてしまった。でもこちらはタイムアウトを使いきっているので、もう応援するしかない。

「パワーとスピードでガンガン攻めろ!」
「力でねじ伏せろってことだなァ?!」
「なんかそれ悪役っぽい…」

コーチの言葉に龍先輩がどんどん悪い顔になっていく。日向がちょっと怯みながら呟いた言葉に、コーチまで怖い顔でいいじゃねーか!と便乗している。攻めて攻めて攻めまくれ!というコーチの言葉通り、こちらも怒涛の追い上げを見せた。同点まで追い付いたものの、最後は音駒の地力が勝利した。

「…完敗…だな」

烏野は敗けた。いい勝負だった。どんなに凄いプレーをしても、ボールを落とせば点を取られる。それが痛い程分かった。悔しいけど、ストレート負けだ。潔子さんと一緒に、ドリンクとタオルを用意していると、日向の「もう一回!」という声が体育館に響き渡った。相手の監督もそのつもりだ!と笑顔だった。


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第2試合、第3試合共に烏野のストレート負け。どちらももうヘトヘトになっている中、日向だけがまだ元気だった。もう一回!と叫ぶ日向をコーチが抑えて落ち着かせている。音駒は東京から来ているので、帰りの新幹線の時間がある。遅れるわかにはいかない。その後は猫又監督から講評を頂き、皆で体育館の後片付けに入った。
潔子さんがドリンクボトルを洗ってくれているので、私は体育館のモップ掛けを手伝っていた。他の皆は音駒の選手と交流を深めている。あの影山が音駒のセッターさんにアプローチしている姿が微笑ましかった。
比べて私は一人で試合の熱を思い出していた。高校生になると凄い選手がたくさん居るんだな…。

「……」
「あ、福永さん!お疲れ様です」

本当に凄かったなぁ、と軽くスキップしながら一生懸命体育館をキレイにする。楽しんでやればあっという間だ!
近くで小さな笑い声が聞こえて顔を上げると、同じくモップ掛けをしていた福永さんがじっと私を見ていた。軽く挨拶をすれば向こうもコクンと頷く。相変わらず無口だ。福永さんが横に並んだので、そのまま一緒に歩き出した。

「福永さんのバックアタックとても凄かったです!」
「福永さんは3年生ですか?」
「2年ですか?」
「じゃあ、先輩ですね!?」

一緒に並んでモップを掛けながら質問すれば福永さんが首を振って応えてくれる。私ばかり喋ってしまって申し訳ない。でも、福永さんは特に嫌な顔もせずに快く応えてくれたので私の口は止まらなかった。何だかクイズみたいだな。
そのうち福永さんに「うん」と言わせようと私は様々な質問を考えたのだった。結果、好きな食べ物はあたりめ、お笑いが好き、もっと喋れと言われるのが悩み…と、いつの間にか福永さんの情報に詳しくなっていた。

「ぅおーい、ななし野ー!ちょっとこっちこーーい!」
「はっ、師匠が呼んでる!福永さん、失礼しますね!」

用具室から龍先輩の呼ぶ声が聞こえて、私は立ち止まる。何だろう、緊急事態だろうか?とりあえず、呼ばれたからには行かないわけにはいかない。
福永さんにそう言うと手を振って見送ってくれた。癒される…。ほわほわした気持ちになりながら私もブンブンと手を振り返した。



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