福永さんと別れ、私は急いで龍先輩のもとに駆け付ける。用具室の中を覗き、龍先輩の姿を確認すると私はどうしたんですか?と声を掛けた。先輩の隣に居た音駒のモヒカン頭の人は急にソワソワとして「じょっ…じょっまっ」と視線をさ迷わせている。とりあえず、中に足を踏み入れると龍先輩にガシッと肩を組まれた。
「おう、弟子よ!お前に友を紹介しようと思ってな!こいつ、山本猛虎だ!2年だ」
「えっ!龍先輩の友達だったんですか!」
「さっき、友達になったんだ!いい奴だからな!そして虎よ、こいつは俺の弟子、ななし野ごんべ子だ」
「ホァッ?!?お、お前っ女子を弟子って!?神か?!」
途端に稲妻が走ったような山本さんは、口をパクパクさせながら龍先輩に尊敬の眼差しを向けていた。見た目は厳ついけど、龍先輩の友達ならきっといい人に違いない。それに、さっきの試合では龍先輩に負けず劣らず力強いスパイクを決めていた。モヒカンもワイルドだし、強そう。
「私、1年マネージャーのななし野です!よろしくお願いします!」
「ひっ…!?」
「エッ!」
私は山本さんに近付くと頭を下げて挨拶をした。すると、山本さんは軽い悲鳴をあげて後ずさる。正直凹んだ…嫌われてる?心配になって山本さんを見ると、物凄い挙動不審になっていた。あれ?試合中と違う?
「あっ、そのっ…よ、よろっ」
「おい、虎!ななし野にびびってたら潔子さんに話し掛けるなんて到底できねーぞ!」
「うわぁぁ」
「ちょ、龍先輩それどういう意味ですか!」
山本さんは、別に私を嫌っているわけではないらしい。でもビビられているようで、頭を抱えて座り込んでいた。龍先輩がバシバシと背中を叩きながら山本さんに渇を入れる。しきりに「ななし野で免疫つけろ!」と言っているのはどういうことだ。私は実験台ですか!?と龍先輩に聞けば、「許せ、お前しか頼れる奴がいねぇ!」と言われた。…頼られているのなら、仕方がない。
もしかして、山本さんも潔子さんにハートを射ぬかれたのだろうか?だとすれば、龍先輩とは敵のはずでは?そう思ったけど龍先輩は山本さんを同志と呼んでいたし、山本さんの今の状態を見て何となく察しがついた。
そういえば、私も緊張して潔子さんに話し掛けられなかったな。今でこそ仲良くさせてもらっているけど、マネージャー同士という接点があったからだ。何もなければ、きっと今頃美人だ緊張する!と山本さんみたいになっていたかもしれない。そう思えば、何故か山本さんに親しみを感じた。
「山本さん……潔子さんはお好きですか?」
「ほぐぅっ…?!えっと、そのっあ、あこっ憧れっ」
「分かります分かります、私も最初は緊張して話しかけられなかったんですよ…」
「えっ、女同士…でも?」
「性別は関係ありません」
「なっ…!?」
「なはは、どうだ虎よ!ななし野なら普通に喋れそうだろ?!」
山本さんの前にしゃがみこみ、しみじみとそう言えば龍先輩が笑いながら私の頭をポンポンと叩いた。それを見た山本さんがスキンシップ!?と異常に反応している。きっと山本さんは女の子に免疫が無さすぎてこの程度のスキンシップすら凄いことのように感じるんだろう。
あと、女の子とどう接していいのか分からないのか、私とは視線が合わない。しばらくして山本さんはバッと顔を上げると視線を泳がせつつ立ち上がった。
「あ、あのっ!俺、あの、その…りっ、龍とともっ」
「俺の友達だからななし野も仲良くしてやってくれよ!」
「りょーかいです!」
どもりすぎて何を言っているか分からなかったけど、龍先輩が引き継いでくれたので私は理解した。私が手を差し出してよろしくお願いしますと言うと、山本さんはモジモジしながら握り返してくれた。全然力が入っていないうえにちょっと震えていた。これって、本当に緊張しているだけだよね?私が怖いとかじゃないよね?と少し心配になった。
「うおお!女子と手をにぎっ、握った!もう手を洗わねー!」
「いや、洗えよ!」
「ほほーう!アイドルってこんな気持ちだったんですね…!」
握手した手を見つめて、おおお…!と唸る山本さんに、龍先輩が鋭く突っ込む。手は洗った方がいいけど、私と握手したくらいでこの喜び用だと潔子さんまでの道のりは遠そうだな、と思った。それにしても、こんな反応を貰えるとちょっと調子に乗りそうだ。
「田中ななし野…、お前ら何サボってんだ?また連続サーブ100本やるか?」
「山本ォ、東京まで走って帰りてぇか?」
「だ、大地さん!す、すいません!」
「すすすぐ戻ります!」
「新幹線乗りたいっス!」
ぬっと顔を覗かせた大地さんと黒尾さんに、私たちは慌てて用具室を飛び出した。あの二人、やっぱり似ている…。
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片付けも終わり荷物を持って体育館を出るバレー部。大事な丸秘ノートをうっかり忘れていた私は、取りに戻っていたため少し遅れていた。みんなに置いていかれてたらどうしようと若干心配だったけど龍先輩と山本さんが泣きながら握手をしていたり、相手のリベロと談笑するスガさんが見えて安堵した。
「あ、いたいたごんべ子」
「はい?」
「ぶはっ」
後ろから肩を叩かれ振り返るとぷに、と指先が私の頬に突き刺さる。なんだこれは。懐かしい…。あまりに古典的なイタズラに固まっていると、耐えきれずに噴き出す声が頭上から聞こえた。
またしても黒尾さんがニヤニヤしながら後ろに立っていた。気配がない。恐るべし、シティーボーイ…。
「こうも完璧に引っ掛かってくれると、イタズラのしがいもあるわ」
「まさかこれだけのために私を探して…?」
「いやいや、これは出来心。探してたのはメールアドレス交換しようと思ってな…」
「まっ?!」
「ま?…せっかく出会ったのにこれで終わりとかもったいないだろ?だから、是非オトモダチになりたいな、と」
まじでか!と口をパクパクする私に黒尾さんがニコッと笑ってそう言った。県外に友達が居ない私にとって、その言葉は大変魅力的だ。仲良くなれば、もしかして東京タワーとかスカイツリーとか案内してくれるかもしれない!ネズミーランドに遊びに行ったときに心強いかもしれない!
私が勝手にそんな妄想をしていると、黒尾さんが携帯電話を取り出した。そして携帯貸してと言われて手渡すと黒尾さんは慣れたようにアドレスを打ち込んでいく。そして私の方にも黒尾さんのアドレスを入力すると、「登録完了」と返された。アドレス帳には"クロ"が追加されている。
「クロ…って、黒尾さんのあだ名ですか?」
「そ。ごんべ子も呼んでくれてもいいけど?」
「えっ、いいんですか?」
「ダメな理由はない」
うおお、何か一気に親しくなった気がする。私が調子に乗って「クロ…先輩!」と呼ぶと「はい!」と返事をしてくれた。面白くて「クロ先輩!」「はい!」というやり取りを意味もなく繰り返す。なんだこれ、収拾がつかない!でもクロ先輩、とてもノリがよくて楽しい!さすがシティーボーイ!
そして笑顔のクロ先輩の後ろからぬっと福永さんが顔を出した。やっぱり気配はなかった。
「…」
「うおっ、福永!」
「福永さん、どうしたんですか?」
「なんだ、お前もごんべ子とアドレス交換したいのか?」
クロ先輩の言葉にコクコクと頷く福永さんは、携帯を手に持っていた。まさか一度に二人の男子からメアドを聞かれるなんて!と私がニヤニヤしながら「モテ期!」と呟けば、クロ先輩に半笑いで「安心しろ、下心はない」と現実を突きつけられて思わず無表情になる。妄想は自由だ…!
クロ先輩は私の顔を見て爆笑している。笑いのツボ浅いのかな、と気になりつつ福永さんとアドレスを交換した。
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「挨拶!」
「ありがとうございましたーっ!」
午後5時頃。朝と同じように整列し、挨拶をする。違うのはお互いにライバルと認識し、更に親しくなったことだろうか。ほんの数時間しか一緒に居なかったのに、すっかり長年の友のようになっていた。私も友達が増えたのはとても嬉しい。
「うおおおお!またな、友よー!」
「ちょ、田中さん何泣いてるんですか…」
「友情ってスバラシイ…」
「なんで君まで泣いてるの」
去っていく音駒のメンバーに手を振りながら別れを惜しむ。泣いている龍先輩と山本さんに感化され、私も別れが寂しくなってきた。一生会えないわけではないけど、気軽に会える距離でもない。
特に仲良くなったクロ先輩と福永さんにブンブン手を振れば、クロ先輩はニヤリと笑い、福永さんは手を振り返してくれた。
「よし、さっさと戻るぞ。今日の練習試合の反省と分析と、そんで練習だ」
「あス!!」
今日の練習試合で得たものは大きい。インターハイ予選を間近に控え、私たち烏野の課題も見えてきた。次からは負ければそこで終わり。さらに、3年生は引退を迎える。このメンバーで戦う最後の試合になるかもしれない。
かつて烏野が一度だけ出場した全国大会を目指し、体育館への帰路についた。
VS音駒
(合宿終了まであと3時間)
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