GW最終日。4泊5日のハードな合宿も昨日で終わり、今日は休養にあてろということで部活は休みだった。多分、みんな今日も自主練習しているんだろう。昨日の試合後、6月2日からIH予選が始まることを聞き、俄然燃えていたし。
更に全国大会は宮城から1チームしか出場出来ない。つまり、県予選を優勝しなければIHどころか、念願の音駒との再戦もナシである。3年生に至っては、負ければ即引退。1分1秒でもボールに触れて、練習していたいはずだ。でも、コーチは休息も練習の内だからと言って敢えて休みをくれていた。何人が守っているのやら…。
少なくとも私はコーチのいう通りたっぷり休憩中である。マネージャーだけど。
本来なら合宿中のポンコツ具合を反省したり、昨日の練習試合を振り返って自分なりに分析したりするべきなんだろう。でも試合に夢中になりすぎてあんまり客観的に観れていなかったので、思い出すのは龍先輩のスパイクとか、ノヤさんのスーパーレシーブ、影山のハイスペックストレート、クロ先輩の一人時間差、のような派手なプレイばかり。弱点とか、癖とか全然観てなかった…。
そんなわけですっかりテンションの下がった私は、リビングのソファに寝転んでボーッとテレビを見つめていた。
「暇だ…」
GW最終日の昼過ぎ。両親は相変わらず仕事に行っているので家には私一人である。特にすることもなくボーッとしていた時にインターホンが鳴り、体を起こした。誰だろう?と疑問に思ったものの、すぐさま訪問してきた人物が誰なのか察知する。私の勘が告げている…奴が来たと。
ピンポーンピンポーンピンポピンポ……と、連打しすぎて最後の方ちゃんと鳴っていない。こんな猛烈なピンポンラッシュは、高校入学前に一度体験している。
私が出るまで押し続ける気か!?最早ピポピポピピピピとバカになったアラームみたいだ。やめろ壊れる!
流石にこのままでは私も気が狂いそうなので、渋々玄関へと向かった。軽いホラーだよ…!恐る恐るドアスコープを覗くと、神業的にインターホンを連打する幼馴染みの姿があった。これは…相当怒っているな。面倒くさいよー…と思いつつ、このまま放置するわけにもいかないので渋々ドアを開けた。
「ごんべ子のブァーカ!開けるの遅いし!」
リスみたいに頬をぷくーっと膨らませる徹ちゃんが機嫌悪く私を見下ろしている。会うのは久しぶりな気がする。合宿前から考えると一週間ちょっとだけど、頻繁にメールや電話でやり取りをしていただけにそれがなかった一週間は長く感じた。
一昨日の電話では喧嘩みたいになったし、その後連絡もしていない。無視してしまったことは私も謝ろうとは思っていたけど、いきなりバカとか言われたらそんな気も失せた。
徹ちゃんに言い返しそうになり、何とか平常心を保ちながら敢えて岩ちゃんに尋ねる。
「…岩ちゃん、何なの。どういうことなの?何で私がバカとか言われてるの?」
「今回はお前が悪い。俺は巻き添えだ、帰っていいか?」
「ダメだよ、岩ちゃん!」
「ちょ、岩ちゃんが居なかったら、誰がクソ川を連れて帰るの?!」
今回も徹ちゃんが無理矢理連れてきたんだろう、目が死んでる。巻き込んで申し訳ないけど、昔からこうなった私たちを丸く収められるのは岩ちゃんだけだ。私と徹ちゃんだけだとお互いにバカバカ言い合って終わる。話し合いも悪口の言い合いになる。だから、ここで岩ちゃんに帰られたら仲直り所じゃない。
「せっかくのオフだっつーのに、台無しだ…とりあえず、中入るぞ」
「どうぞ…」
岩ちゃんは心底面倒くさそうにため息をつく。本当に、感謝してもしきれない!
今回も長くなりそうなので二人を家に招き入れた。徹ちゃんはやっぱり機嫌が悪くて、ドスドスと足音を立てながら奥のリビングに向かう。ちゃんと靴を揃えていたのはちょっと面白かった。何て言うか、変な所は真面目だなぁ、普段はチャラっぽいのに。
そんな徹ちゃんはリビングのソファにドッカリと座っていた。ここから見ても頬をぷっくり膨らませているのがわかる。あの頬っぺた、どれくらい伸びるんだろう?ちょっと引っ張ってみたい……じーっと視線を送ると、バチっと目が合ったけどすぐに逸らされた。
続いて岩ちゃんはめんどくせ…と呟きながら、徹ちゃんの隣に座る。私も二人に続いてソファに座った。
「…」
「…」
すぐに本題に入るのかと思いきや、続く沈黙。押し掛けてきた徹ちゃんはムスッとしたままだし、岩ちゃんは完全に無関係な顔でテレビを見ている。私も何を話せばいいのか分からなくて黙っていた。私が悪いと言われても、何をどう謝ればいいのかも分からない。しばらく微妙な空気が流れていたけど、徹ちゃんがついに動いた。
「…」
「何で俺が言わなきゃなんねぇんだ」
「…」
「だから自分で言えよ、クソ川」
コソコソと岩ちゃんに耳打ちしているので、一体何を言っているのかは分からない。でも、徹ちゃんが私に対して言葉を発しているのはわかる。
伝言ゲームか!岩ちゃんも同じ気持ちのようで、口許がひくひくと苛立たし気に痙攣していた。それでも徹ちゃんはへそを曲げてしまって、私と会話をする気はないようだ。そこまで私と喋りたくないってこと?この距離で間に人を通して会話するなんて面倒すぎる。最早、怒りを通り越して呆れ顔の岩ちゃんが「クソ川から伝言な」と口を開いた。
「ツッキーとどういう関係?だそうだ」
「はぁ?!」
「電話した時、二人で何してたんだ?だそうだ」
「何って……」
「言えないようなことなのか?だそうだ」
どれだけツッキーのこと気にしてるの?私は呆気に取られていた。またしても徹ちゃんは岩ちゃんに耳打ちして、会話を続けようとしている。私はそのタイムラグが腹立たしくて、勢いよく立ち上がると徹ちゃんの隣に座った。ぎょっとした顔で私を見る徹ちゃんが逃げないようにガシッと腕を掴む。何か言いかけて口をつぐんだけど、私は無視して口を開いた。
「ツッキーはチームメイトで、あのとき無くした自転車の鍵を一緒に捜してくれてたの!だから、べつにやましいことなんて何もないよ」
「…」
じっと目を見つめて説明すれば、徹ちゃんはバッと岩ちゃんの方を振り返ってボソボソと何かを呟いていた。何で私に言わないの?ここまでされると、ちょっと傷つく。ぎゅう、と腕を掴む手に力を込めた時、ゴンと鈍い音といたぁあ!という徹ちゃんの声が聞こえた。
「痛い、岩ちゃん何すんの!?」
「グズ川、お前いい加減にしろよ!ごんべ子と絶交中だか何だか知らねぇけどなぁ、男だろうが!そんくらい自分で言え!」
「絶交って、あれ本気だったんだ…」
「……」
あの鈍い音は、岩ちゃんが徹ちゃんの顔面に頭突きを食らわせた音だったらしい。岩ちゃんが額を赤くしながら立ち上がり徹ちゃんの胸ぐらを掴む。その光景を見て、中学の時もこんなことあったなぁと思い出していた。確かあの時は、徹ちゃんが全然笑わなかった頃だ。自分を追い込んで見ている方も心配になるほどバレーの練習にのめり込んでいた。その時も岩ちゃんの渇で徹ちゃんは元に戻ったけど、今回もどうやら効果覿面だったようだ。
くるっと私の方を見た徹ちゃんは、真っ赤になった鼻で私を見つめる。そして、少し照れ臭そうに「ごめんね、ごんべ子。俺、大人気なかった」と呟いた。少しホッとした。
「ごんべ子、今日ごんべ子に話したいことがあって来たんだ」
「徹ちゃん…」
「もちろん、仲直りもしたいし、あと色々考えてたことがあって…」
「徹ちゃん…!鼻血が出てる!」
「エッ?うわー、ホントだ岩ちゃんのせいで及川さんの血が失われる!」
「一回失った方がいいんじゃねぇか」
真面目に私を見つめて話してくれる徹ちゃんに、私も真剣に聞いていた。でも、次第に鼻からタラリと血が出てきて言わずにはいれなかった。さっきの頭突きで鼻の中を切ったみたいだ。徹ちゃんが服が汚れると言いながら岩ちゃんに文句を言っている間に、ティッシュを手渡す。そして鼻に詰める様子を眺めていると、徹ちゃんに「血も滴るいい男でしょ?」と言われた。いつもの徹ちゃんだ!
「お前ら、ややこしいんだよ。自分らで仲直り出来ないなら喧嘩なんかすんな」
「しようと思ってしてるわけじゃないもん。大体ごんべ子が俺を無視するから、悪いんだし!」
「だって徹ちゃん過保護すぎるんだもん!私だってもう高校生だし!」
「はぁ?まだ高校生だろ、昔は徹ちゃん徹ちゃん!って言ってたくせにバカごんべ子!」
「いつの話してんの?バカって言う方がバカだし!」
「お前ら言ってる傍から喧嘩すんな!」
ゴッと脳天に岩ちゃんのチョップが決まり、脳がダイレクトに揺れる。痛い!徹ちゃんは、衝撃で鼻からティッシュをポーンと飛ばしていて私は思わずブッフォーと吹き出してしまった。本人は痛みよりみそちらに意識を持っていかれたのか、飛び出したティッシュと私の顔を交互に見て最後にドヤ顔。
反則でしょ…!お腹を抱えて笑っていると、何笑ってんだごんべ子!ともう一発、岩砕きチョップが降ってきて、涙が出た。そんな…理不尽だ…。
← top bkm →