「で、及川。お前はごんべ子に話があるんだろ、俺は帰るぞ。あと、試合に影響出すなよ」
「うん、分かってる。ありがと岩ちゃん!」
「じゃあ、またなごんべ子」
「え、岩ちゃん帰るの?」

前もこんな展開だったなぁ、と岩ちゃんを見上げる。徹ちゃんはまだ鼻血が気になるのか、新しいティッシュを使って鼻に詰めなおしていた。そして、岩ちゃんにピースしながらまた明日!と言っていることから、事前にこういう流れになることは知っていたのかもしれない。一人だけポカーンとしている私に構わず、岩ちゃんは本当に帰ってしまった。今、鼻にティッシュが詰まった男と二人きりだ…。

「あ、ごんべ子ジュースいる?冷蔵庫にカルピスあるよ」
「何で徹ちゃんが知ってんの!?いるけど!」
「先週、遊びに来た時に持ってきてたんだー。ごんべ子合宿中で居なかったけど」

そう言ってキッチンに行き、ジュースを注ぐ徹ちゃん。すっかり私の家のものを把握していて驚いた。昔からよく家にも遊びに来ていたし、自然とそうなるのかもしれない。
はい、とテーブルにグラスを置いた徹ちゃんにお礼を言って口をつけた。うまい、カルピスうまい。
そして徹ちゃんは真面目に聞いて欲しいんだけどと前置きして、私に体を向けた。

「俺ね、ごんべ子が烏野行ってから凄い焦ってたんだ。俺と違う学校で、俺じゃない奴応援してるんだろうなとか、俺じゃない誰かを好きになったりするのかなとか、考えてたらモヤモヤしてさ。俺ばっかり一生懸命だし…」
「…うん」
「合宿とか結構大きいことなのに、俺には一言もないし?やっぱり、何かあったときのためにも教えて欲しいと思うのは当たり前でしょ?それに飛雄とかメガネ君とか油断ならないやつが、この機会にごんべ子と仲良くなったらムカつくし?」
「ムカつくの?」
「当たり前じゃん!何で俺がごんべ子とイチャイチャできないのに、他のやつにラブハプニングが許されるんだよ!考えただけで、イライラするよね!ごんべ子が青城に来てたら一緒に登下校!からの部活後デート!からのラブラブスクールライフを送れてたんだよ?!ね!」

ね!と言われても、私は頷けない。合宿には私も色んな期待を込めて参加した。楽しいこともいっぱいあったし、何日もみんなと一緒に過ごして今まで知らなかった面も見れた。それは、とても貴重な体験だったと思う。でも、徹ちゃんが言うようなことは何もない。思い返しても、自分がお風呂でスッ転んでお尻打って幽霊騒ぎになって、結果正座した記憶が強すぎて……恥ずかしい。クロ先輩や福永さんという友達が出来たのは嬉しいことだけど。
徹ちゃんは、私と合宿でしたかったことを指折り数えて文句を言っていた。

「とまぁ、そんなことはもういいんだよ!ごんべ子は俺のこと、わざと無視したのかだけははっきりさせときたいけど!」
「ご、ごめん、徹ちゃん。疲れて後回しにしてるうちに、日にちだけが過ぎちゃって…わざとじゃないよ!それだけは本当」
「……ふーん、後回ししちゃったわけだ!……薄々気付いてたけどね!」

また喧嘩になるかも、と危惧したけど徹ちゃんは涙目で口を尖らせただけだった。よかった。岩ちゃんが居ない今、また拗らせるわけにはいかない。私も逆の立場だったらきっと嫌な思いをしただろうし、反省した。もう一度ごめんと謝ると、徹ちゃんは柔らかい表情になった。

「いいよ、もう」
「…徹ちゃん…」
「元から許すつもりだったし……まぁ、ちょっと俺も引っ込みつかなくなったわけだケド…」

ぽりぽりと頬を掻きながら、気まずそうに言う。普段近すぎて忘れがちだけど、やっぱり整った顔をしている。もう10年くらい一緒に居るし、残念な所も知っているから忘れそうになるけど。改めて見ると、私ってこんなにイケメンの幼馴染みが居て恵まれているのかもな、と思った。黙っていれば文句なしのイケメンだ!黙っていればね!
実際に女バレの人とか徹ちゃんの素を知っている人には人気がないという事実がそれを物語っている。

「俺、今からごんべ子に告白するね」
「うん……ん?」
「でも、最後まで何も言わずに聞いて欲しい」
「え?エッ?どう、どういうこと?」
「ごんべ子」

さらっと言った徹ちゃんの言葉に、私は動揺を隠せないでいた。告白って、あの…?好きです!って言うやつ?それとも、実は俺男じゃないんだ!とかいうカミングアウト的なもの?どちらにしても、宣言されるとどうしたらいいのか分からなくなる。
徹ちゃんに、どういうこと?と聞き返していると唇に人差し指を当てられて「しっ!」と言われた。思わず黙ると、徹ちゃんがじっと目を見つめてくる。いつもの徹ちゃんじゃない。

「ごんべ子、俺ね、ごんべ子のこと好きなんだ。幼馴染みとしてじゃなくて、一人の女の子として」
「…」
「いつも冗談みたいに言ってたけど、全部本気。でも、ごんべ子は俺のこと幼馴染みとしてしか見てないよね?」
「……ごめん」
「謝んな。それは分かってるから」

徹ちゃんは大切な幼馴染みだ。好きだけど、大切だけど、それが恋愛感情ではないことは分かる。だからこそ、徹ちゃんに真っ直ぐ好意を寄せられて、少し戸惑った。徹ちゃんからの"好き"は、冗談半分みたいに受け取っていたのが大きい。苦笑いしている徹ちゃんは、私の頭をわしゃわしゃと撫で回した。それが本心を隠すためにしているようで、ぎゅうっと心臓の辺りが痛くなる。

「俺、ケジメをつけたかったんだ。もうすぐ、最後のIH予選だし、今年こそウシワカ倒さなきゃなんないしさ!でも、その前にお前とのこと、はっきりさせとこうと思って」
「…それで、告白?」
「そ。でも安心して、ごんべ子!俺、諦めるわけじゃないから」
「え?どういうこと?」

今の流れだと、私がフッてこれからは距離を置くか、幼馴染みとしてよろしく!という流れだと思っていた。でも、徹ちゃんはウヘペロっと笑いながらダブルピースしている。どう反応したらいいのか分からずに固まった。

「えー、だってごんべ子のこと諦めるとか無理だし!一回フラれて諦める程、軽い気持ちじゃないし!」
「そうだったんだ…。でも徹ちゃん彼女も居たし、本気だと思わなかった」

私の言葉に動揺する徹ちゃん。今まで何人か彼女が居たことは私も知っている。だから私に対する言動は全て家族愛的なものだとばかり思っていたのだ。私がジーっと見つめると気を引きたかったとか、諦めようと思ったとか焦ったように色々と呟いていた。

「ウッ…それは、いいじゃん!男には色々あるの!」
「ふーん…」
「そんなことより、俺のこと好きにさせるから覚悟しといてよ」
「でも…もし、」
「ごんべ子が誰を好きになろうが関係ない、俺はお前しか見ないよ。それに可能性はあるでしょ?今、俺のこと意識してるじゃん」
「…!」

そう言って私の頬に手を添える。イケメンに言われたいセリフをイケメンに言われて流石に私もドキドキした。徹ちゃんは、顔を赤くする私を見てニヤニヤしている。今までずっと幼馴染みで家族みたいな人だったのに急に徹ちゃんが男に見えた。
でも、私を好きでいていいのだろうか。徹ちゃんにはもっと相応しい人もいるだろうし…それに今は部活が楽しいし、憧れの高校でマネージャーをしていて恋愛まで気が回らない。 そんな私を好きでいて徹ちゃんは後悔しない?私がもし、他の人を好きになったら?生まれて初めてこんな風に言われて私は混乱していた。嬉しいことは嬉しい。でも、複雑だ。

「ごんべ子、10年も20年も大して変わらないよ。だから、俺のこと好きになってね!」
「……徹ちゃん、ありがと」
「もう、ごんべ子!照れ屋!」
「うわぁ!離せクソ川ー!」

バッと抱きついてきた徹ちゃんにびっくりして押し返すも、ぎゅうぎゅうと力を入れられて全然離れない。さっきの猛烈な告白後だと、恥ずかしい。
色んな感情がない交ぜになって私が抵抗をやめると、徹ちゃんは私の耳元で言葉を発した。くすぐったくて身を捩った。

「でもね、ごんべ子。俺、しばらくメールも電話もしない。ここに来るのも控える。本当は嫌だけど、部活も大事だから。本気で頑張ってるから。…ごんべ子も部活頑張ってるんでしょ?」
「うん」
「なら、一時休戦ね」
「わかった。私、徹ちゃんのことも応援してるよ。でも、烏野は負けないけどね」
「はぁ!?優勝は青城が頂くよ!」

徹ちゃんは体を離すと笑顔でそう言った。予選で勝ち進めば、いずれ青城とも戦うことになる。全国にいけるのは1校だけ。もちろん私は烏野を応援する。だから、徹ちゃんのことは大々的に応援できない。本当は、徹ちゃんも岩ちゃんも勝って欲しいけど、二人と別の高校に進んだのは私だ。自分の高校を差し置いて他校生を応援することなんて出来るわけない。
でも、心の中でそっと応援することくらいは許して欲しいと思う。



幼馴染みの決断
(徹ちゃん、鼻にティッシュ詰まってなかったらもっとかっこよかったのにね)(エッ?あっ、うわぁぁ!ちょっと、早く言えよバカ!)


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