「おい、ななし野!今日部活終わったら坂ノ下に集合な!」
「え?」
「くれぐれも3年の先輩たちには気付かれるなよ?」
「は、はい!」
「いいか、これはもんのすごーく重要なミッションだぞ!ミッションインポッシブルだぞ!」
「ミッ?!」
もうすぐ予選ということもあり、いつも以上に気合を入れて練習に励んでいた放課後。体育館に転がっているボールを一心不乱に拾い集めていると、龍先輩がソーッと近づいてきて小声でそう言った。
合宿中の日向捜索の件を思い出して、私は背筋を伸ばす。龍先輩の真剣な顔つきに私まで緊張してきた。一体、何があるのだろう?ワクワクする!
龍先輩は気づかれるとマズいからと、それだけ言って練習に戻って行った。俄然やる気が出てきた私は、大地さんに褒められるくらいにボールを拾いまくったのだった。
「あ、ななし野!今日、肉まん奢ってやるから坂ノ下に行かないか?」
「エッ!あーその、今日は肉まんの気分じゃないので…」
「じゃあ、中華まん奢ってやるから!」
「そんな、悪いですよ!そそそ、そういえば今日は何か大事な用があったような気がするので…!」
「10分くらい大丈夫だろう?」
何故か今日に限ってしつこく食い下がってくる大地さんに、私はダラダラと冷や汗を流しながら答える。しかも泣きそうになっているから断るのが申し訳なくて困り果てていた。だって、この後は龍先輩から坂ノ下に来いと呼び出されているし、3年の先輩たちには絶対にバレないようにと言われている。罪悪感に苛まれながらキョロキョロと視線を彷徨わせていると、スガさんが苦笑いで大地さんの肩を叩いた。
「おい、大地。そんな迫ったら怖がられるぞ」
「スガ…」
「ごめんな、ななし野ちゃん。他のみんなも誘ったんだけど、ことごとく断られてさ…若干、気にしてるんだよ大地」
「そ、そうだったんですか!」
「大地の落ち込む姿なんて滅多に見れないよな」
断られたって全員に?もしや、私だけじゃなくて他の皆もミッションを与えられているのかもしれない!じゃないと、大地さんの誘いに誰一人乗らないなんてありえない。
嫌われているんじゃ…と心配している大地さんを見て、旭さんが少し可笑しげに笑っていた。確かに、こんな風に肩を落とす大地さんを見るのは初めてで新鮮だった。本当はお供したいけど、今日はダメだ!私は意を決して言葉を発した。
「すすすすいません!今日は、どうしても外せない用事があるので…あの、失礼します!」
「それじゃあ、仕方ないよな」
「また今度、是非!」
嘘を吐くのは心苦しいけど、私は深く頭を下げつつお断りをする。先輩たちは、笑いながらお疲れーと手を振ってくれた。いい人たちだ!心の中でもう一度謝って、私は烏野高校を飛び出した。先に出て行った師匠たちはもう集合しているはずである。ずいぶん前にお疲れ!後でな!と言って目配せしたのだから少なくとも10分は経っている。
急ぎ降り坂を駆け下りながら、龍先輩からの指令に心を躍らせていた。
「あれ?木下先輩!」
「おー、ななし野!」
そして坂ノ下商店に着くと、ドアの前には木下先輩が立っていた。何だろう、見張りかな?お疲れ様です、と声をかけると先輩は見張り中と教えてくれた。うわあ、凄く本格的だ!調子に乗って私が敬礼すると木下先輩も敬礼しながら「入れ!」とドアの前を退いてくれた。
「遅くなりましたー!お疲れ様です!」
「おお、ななし野!遅かったな、もう始めてるぞ!」
「ごんべ子、大地さんたちには気づかれてないな?」
「バッチリです!多分…」
私が中に入ると、既に皆揃っていた。2年の先輩たちが椅子に座っていて、1年の4人はその周りを囲むように立っている。各々自分の好きなものを手に取り、もぐもぐと頬張りながら話し合っていたようだ。全員が一瞬焦った表情になったけど、私だと分かるとホッと胸を撫で下ろしていた。
お前も早くこっちこい!と呼ばれてツッキーと影山の間の妙に空いた隙間に入り込む。すると、ノヤさんがガリガリくんのソーダ味を手渡してくれた。いつものように奢ってくれるらしく、私がお礼を言うとニカッと笑って、気にすんな!と笑う。さすが、師匠だ!そこに痺れる憧れる!
「よし、ななし野も来たことだし、おさらいの意味も込めてもう一度説明するぞ」
「お願いします!」
龍先輩は肉まんでも食べていたのか、口の周りに食べカスをくっつけたまま話始めた。今回集まったのは、明後日に行われる部活動の壮行式で大地さんをサプライズ応援しよう!ということらしい。
3年生は最後の部活動壮行会になるし、きっと大地さんのことだから真面目に喋って終わりになるだろう。そこで、龍先輩たちでバレー部の挨拶を盛り上げて、大地さんたちに喜んでもらおうという粋な計らいである。同時に思い出作りにもなる。
おお、凄く楽しそう!と私がニヤニヤすると、隣のツッキーに何でそんな嬉しそうなの…と呆れた顔をされた。逆にツッキーがどうしてそんなつまらなさそうなのか聞きたい。こんなに楽しいイベントなのに!
「日向と影山にはCDラジカセとメガホン。月島と山口はポンポンとスポットライトを探してもらう、ここまではいいな?」
「うす!」
龍先輩の計画をふむふむと聞きながら頷く。影山は真剣な顔をしながらメモを見返していた。この計画はサプライズのため部費も使えないらしく、必要物資は自分達で調達しなければならない。私も頑張るぞ!と張り切ったのはいいものの、役割を与えられていなかった。
「あれ?でも先輩!私はどうすればいいですか?」
私が聞き返すと、龍先輩がドンとテーブルを叩く。急に大きな音がして、日向はひぃと飛び上がっていた。
「そこで、お前に重要な任務だ!いいか、タイムリミットは明日!しかも、明日の休み時間のみだ!」
「凄く、短いですね…」
「不安だと思わないか?」
「え?不安、ですか…」
「ああ、この短い時間でそれらのアイテムを絶対に集めなければならないんだぞ?」
腕を組み、何故か頷きながら言葉を発する龍先輩。確かに、壮行式は明後日だから明日しか時間は取れない。更に授業もあるし放課後の部活の時間も差し引けば、実質明日の休み時間だけで言われたものを集めなければならなかった。
自分が持っていればそれでいいのだけど、CDプレーヤーなんてもう何年も前に壊れたきり買っていない。それに、ポンポンもメガホンもスポットライトも持っていないから全て一から調達しなければならなかった。学校にそんなものあるのかな…という不安もある。
「だから、お前も日向や月島たちと協力してさっきの物を集めて欲しい!それがななし野の任務だいいな?」
「に、ニンム…!!分かりました!任せてください!」
「よし、いい返事だ!」
龍先輩は親指を立てて、ニッと笑う。確かに一人でも人数が多いほうがいいかも。私も役に立ちたいし、こんな楽しそうなこと絶対一緒にやりたい。龍先輩にぐっと親指を立て返すと、自動ドアが開いて木下先輩が中に入ってきた。ちょっとビックリしたけど、大地さんたちが通りすぎたからという報告で安心した。
「いいな、お前ら!これはぶっつけ本番、一度きりの重大ミッションだ。検討を祈る」
いよいよ、重要なミッションみたいでワクワクする!先輩の言葉におー!と叫び気合いを入れた。
計画も聞き、そろそろお開きにしようということで店を出る。2年生たちはまだ用事があるということで、私たちだけ先に帰ることにした。日向と一緒に明日の計画を立てていると、後ろでは縁下先輩がツッキーになにやら話しかけている。そういえば、ツッキーは始終面倒そうな顔だったな。
影山は難しい顔をしているけど、割とノリノリなのは雰囲気で分かる。こういうの好きだよね、影山。こっそり耳打ちすると、うるせぇと頭を小突かれた。
部活動壮行式"前編"
(成功しますように!)
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