翌日、三時限目の後の休み時間。私と影山、日向は三人顔を突き合わせていた。場所は2組の前、私達と日向の教室の中間である。さっきの授業どうだったー?とかあの人と目があってさ!とか、そんなゆるっとした話題ではない。通りすぎていく同学年の生徒たちからの視線をチラチラと頂きながら、私達は難しい顔で言葉を交わしていた。
「作戦失敗しちゃった、日向は?」
「おれも失敗したー!影山は?」
「俺もダメだった」
昨日の部活後、龍先輩からあるものを探してこいとミッションを授かった私達。そのミッションが簡単そうにみえて中々難易度の高いものだった。それでも、何としても成功させたい。それに龍先輩やノヤさんを初め、先輩たちの計画を私たちが台無しにするわけにはいかない!
ということで、昨日帰る前に日向と影山と三人である作戦を立てていたのだ。一応ツッキーたちにも声を掛けたけど別にいい、と言ってさっさと帰ってしまった。相変わらずドライだ。
そんなわけで私たちは三人、その作戦の結果報告をしていた。
「でも影山誰に声かけたの?」
「………後ろの席の奴とか……」
その作戦というのは、至ってシンプルなものだった。CDプレイヤーとかメガホンを持っていそうな知り合いに片っ端から声を掛ける。上級生とか他の部は昼休みに当たるとして、友達とかクラスメイトは先に聞いて回ることにしたのだ。時間も短縮出来るしその上見つかったらラッキー!
で、私も休み時間の度に教室を飛び出して知り合いとか友達に声を掛けていた。でも、今時持ち運び可能なCDプレイヤーを持っている人はいなくて、結局成果は得られなかった。
日向の広そうな人脈でもダメ。影山は見ての通り、友人が少ない。影山がバレー部以外で親しくしている同級生なんて居るか居ないか不明である。
「影山に友達居んのか…?」
「ぶふっ、日向、失礼!」
「お前らバカにすんな!」
日向は純粋に首を傾げていた。あの怖い顔をした王様が「CDプレーヤー持ってねぇ?」なんて聞いている場面を想像したら、庶民から金品を巻き上げる王様の図が頭に思い浮かんでちょっと笑えた。
「ちょっと面白いね」と私がこそっと日向にそれを耳打ちしたのが聞こえたのか、影山に頭を鷲掴みにされる。締め付けられる頭部に私がジタバタすると、通り過ぎる生徒から「喧嘩?」「暴力?」とヒソヒソ話が聞こえた。誰か助けて、ヘルプミー!
「なにしてんの、君ら」
「うおおツッキー&グッチー!助けて!」
「ぶっ、それ、なんかコンビ名みたい!」
「煩いよ日向、変人コンビのくせに」
「うぐ…」
私が影山に拷問をされている所に偶然通りかかったツッキーとグッチー。怖い顔で私の頭を掴む影山とそれを見て青い顔をして痛そうと呟いていた日向に不審な目を向けてくる。涙目で助けを求める私の言葉に一層訝しげな顔になり、日向の一言に眉間の皺が増えた。
グッチーはコンビ名という言葉が嬉しかったのか、心なしかアホ毛がピンピンしているように見える。あれ、アンテナ的な何かなのかな。ようやく解放された頭をさすりながら、私はツッキーに尋ねた。
「ところでツッキー、首尾はどう?」
「はぁ?どうもなにもないんだけど。君ら張り切ってるけど、どうせ怒られるのがオチデショ」
「おい、そんな言い方しなくてもいいだろうが」
「ふっ、王様は乗り気なんだ?バレーの練習してる方がよっぽど有意義だと思ってそうだったけど。僕の思い違いか」
「おい、その呼び方ヤメロよ」
「何で?王様とか名誉じゃん。僕みたいな庶民にはそんな高貴なあだ名つかないよ」
何やら険悪な雰囲気になっている影山とツッキー。こんな人がたくさん居る中で威圧感のある二人が睨みあっているというのは結構怖い。それに、喧嘩から殴りあいとかに発展したらどうしよう!?という心配で私とグッチーは目を見合せた。日向は影山の後ろであだ名がつかないのは庶民だからなの?とショックを受けている。
「ね、ねぇツッキー…もう、そろそろ戻んないと…」
「影山、昨日のさーテレビ見たー?キムタコがさー」
「何言ってんだ?オマエ」
「ななし野さん下手くそ!!」
「あ、おれ観た!観たよ、ななし野さん!」
グッチーに倣って何とか話題を逸らそうと適当に影山に話しかける。でも影山には通じていないどころか日向が食いついてきた。あ、でも険悪なムードはなくなったかも!
ちょっとホッとしているとグッチーの鋭い指摘が私の胸にグサリと突き刺さった。そ、そんなハッキリ言わなくても…。ツッキーも「猿芝居…プッスー」と笑いながらグッチーと共に教室へ帰って行く。完全にバカにされた気がする…。
ムッとした顔の影山と日向は、感じ悪!と眉間に皺を寄せていた。旭さんの時もそうだったけど、ツッキーは部活に対して淡白だ。性格的なこともあるのかも知れないけど、それにしては一歩引いた所から皆を見ていた。でも、私たちがもっと仲良くやろうぜ、へへっ!と歩みよったところでツッキーは拒絶するんだろうな。皆仲良く、行こうぜ全国!な考えの私としてはもっとツッキーとも一緒に青春したいんだけど、無理強いは良くない。
とりあえず今は目の前の問題を何とかしようと言うことで、気持ちを切り替えることにした。
「ツッキーはおいといて、私たちはもう昼休みに賭けるしかないよ!」
「うん、もうそれしかない!おれ、CDプレーヤー使ってそうな部考えておく!あ、影山お前も考えとけよ!」
「うるせぇ!言われなくても考える!ボゲェ日向ボゲェ!」
「うわあああ暴力反対ぃい!」
「ちょっと、喧嘩はやめなって!」
残り1分程で休み時間が終わるということで、廊下にはあまり人が居なかった。そんな中でデカくて色々と目立っている影山が悲鳴を上げる日向に迫る画はとてつもなく注目を浴びている。教室から顔を覗かせ何事かと様子を伺ってくる同級生たちの好奇の目に居心地の悪さを感じた。
とにかくもう教室に戻ろうと、影山の腕を掴み日向に手を振って3組に駆け込んだ。
「おー、影山とななし野はホント仲いーねー」
「リア充爆発しろー」
「羨ましいんでしょー!」
「はぁ!?う、羨ましくねーよ」
私が影山と手を繋いでいるように見えたのか、今度は見慣れたクラスメイトたちが、「熱いねー」なんて冷やかしてくる。私は咄嗟に手を離し、クラスメイトに向かってべーっと舌を出しておいた。
影山は「暑いか?あと、りあじゅうって何だ?」と首を傾げている。クラスメイトはそんな影山の態度にゲラゲラと腹を抱えて笑い転げていた。
「なぁななし野、あいつら何であんなに笑ってんだ?」
「……ブッフッ」
チャイムが鳴り、席について尚首を傾げる影山。私も思わず笑ってしまった。
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