「意外と見つからないもんだなー生徒会で貸し出しとかしてないかなー」
「ねー……って、私たちこんな呑気な会話してていいのかな?!」
「でも、見つからないもんは仕方ねぇだろ」
昼休み、再度集まった私たちは廊下をトボトボと歩いていた。既に昼休みに入ってから20分が経過しているというのに、未だに手ぶら状態である。おかしいな、予想では既にCDプレーヤーもメガホンもバッチリ確保して、ツッキーたちを手伝っていたはずなのに。
最初に当たった放送部は、据え置きのオーディオ機器で持ち運びが出来ないものだった。しかも、私たちには使い方も分からないし壊しでもしたら大変だ。そして、慌てて放送室を飛び出し次に当たった吹奏楽部ではレコードプレーヤーとか真空管アンプしかなかった。
こうして昼休みの半分は消費されてしまったのだった。他にCDプレーヤーを使っていそうな部なんて私には思い浮かばない。このままでは師匠たちの期待を裏切ることになる!と一人焦っているというのに、日向も影山もどこかのんびりとして見えた。
「なんか、変な音がする」
「は?そんな音聴こえるか、ななし野?」
「いや、私には聴こえないけど…」
急に立ち止まった日向に、影山がぶつかりそうになり声を掛ける。すると、日向は真面目な顔で音が聴こえると呟いた。私も耳をすましてみたけど、特に聞きなれない音は確認できなかった。影山も同様に耳を澄ませていたけど、昼休みの喧騒の中何も聞き取れなかったようだ。日向は、やっぱり何か聴こえるようで「幽霊が出るときみたいな…」としっくりくる例えを探しながら言葉にする。幽霊…と聞いて合宿での様々な幽霊騒ぎを思い浮かべたのはどうやら私だけではなかったようだった。
「お前、合宿のときだって、幽霊が出たとか言って西谷さんだったろうが」
「あ、あれはそうだけど!でも、ホンモノも出たってノヤさん言ってたし!」
「そんなこと言ってたか?」
「言ってたよ!女子風呂にチャイナ服の幽霊が出たって!あれ、ヌンチャクのオバケだっけ?」
「ちょちょちょ、ちょっちゅね!ひひ日向、そんなことより音は?音はどう?聴こえる?」
「ヒィッ…グシケン!?あ、あっちから聴こえる!」
日向が完全に幽霊の話に意識を持っていかれそうになり、私は慌てて流れを遮った。事実と大分異なっているけど、多分その幽霊は私だ。話が大袈裟になっている。せっかく薄れてかけていた自分の奇行がみるみると蘇り(お尻の痛みも)、テンションが下がっていく。
日向は不思議そうにそんな私を見ていたけど、音のする方向が分かったらしく廊下の先の薄暗い方へ駆け出した。影山は安定の負けず嫌いを発揮し、慌てて日向の後を追う。瞬発力の高い二人に出遅れた私が追いついた時には二人は理科室の前でどちらが扉を開けるかで揉めていた。
ここまで近くに来れば、日向が言っていた変な音は私にも聴こえる。たしかに、お化け屋敷とかそういうシーンでよく流れる、あの定番のBGMだ。窓からの光が届かないこんな薄暗い教室の中からそんな音が聴こえるなんて不気味すぎるな…。
でも、こうしているうちにもタイムリミットは迫っている。日向が意を決してドアを開けると中には4、5人の生徒が実験台に置かれた機械をいじっているのが見えた。
「だ、男子バレー部です!」
「バレー部がどうした?」
一体なんの集まりなんだろう。眼鏡の生徒以外は顔もあげず、ひたすら目の前の機械をいじっている。何だか怖いな、色んな意味で。ずっと聴こえていた幽霊の出るような音は、その機械のスイッチが押されると止まった。その機械を見て、ラジカセだと気づいた日向が早速事情を説明する。ここに来た経緯を話せば眼鏡の男の人が「成功だ!」と歓喜の声を上げた。
「俺たち演劇部で幽霊の効果音が作れないかどうか試してたんだ」
「やっぱり逆回転だったな」
「あー!!君は!!」
幽霊の効果音について議論を始めた演劇部のみなさんに私たちは口を挟むことも出来ずにただその光景を見つめていた。何とかあの機械を借りたい。それだけなのに、何故かその一言が中々言えない。そんな中、理科準備室から出てきた女の先輩が私の顔を見るなり大声を出して近づいてくる。え、私?私が何かした?突然のことにこの場にいる全員が何事かと様子を伺っていた。
「君はあの時のシンデレラガール!!もしかして演劇部に入部してくれるの?!やったわ、救世主よ!!これで私たちの部も安泰よ!!」
「え、ちょ、え?」
「ななし野さん、バレー部辞めちゃうの?!」
「はぁ?フザケンナ、ななし野ボゲェ!」
「え、誤解だって!私一言もそんなこと言ってない!」
女の先輩は私の手をぎゅうっと握り締めるとやつぎばやに言葉を紡ぐ。あまりの勢いに口をパクパクさせると、日向の驚きに満ちた目と影山の人を視線だけで殺せそうな目が私を見つめていた。きっとこの場で一番状況が把握出来ていないのは私だ。
そもそも、あの時って何?と先輩の顔を見てようやく思い出した。あれは確か、部活動の勧誘で私のことをエースになれると豪語してくれた人だ!まさか、あれは本気だった…?いや、でも皆に言っていたことを私は知っている!
「台本はもう出来ているの!さあ、一緒にテッペンを目指しましょう!」
「いや、私は、バレー部で…!て、テッペンと言われましても!」
「そう、バレーのお話なの!よく分かったわね」
「いや、そうじゃなくて!私バレー部のマネージャーで、部活が楽しくて大好きなんです!演劇部には入りません!」
このままでは本当に演劇部に引き込まれる、と何とか意志を伝える。私の必死な形相に演劇部を初め皆ポカーンとしていた。さっきまで不機嫌そうだった影山もニヤリと口角を上げている。女の先輩はまだ引き下がってはくれず、手をぎゅうと握られたまま「分かったわ」と口だけは諦めた風だった。
「演劇部には入ってくれなくてもいいけど、文化祭の演劇には出てくれない?もちろんタダでとは言わないから!」
「でも私、演技とかやったことないですし、そんな暇ありませんし…!」
「そんなこと言わないで!何でも言うこと聞くから!」
ベタだな!と心の中でツッコミを入れてしまった。言うこと聞いてもらっても私が芝居なんて出来るわけがない。今日だってツッキーに猿芝居とか言われたばかりなのに。
私がお断りします!と言うより早く、日向が「ラジカセ貸してくれませんか?」と言う方が早かった。そして、勝手に交渉成立ということで演劇部の皆さんはせかせかとラジカセを使えるようにしてくれている。
「ありがとうございます!」
「…じゃないって日向!私勝手に出演することになってるよね、これじゃあ!」
「まあ、出るくらいならいいだろ。減るもんじゃねぇし」
「影山、他人事だと思って!!」
任務達成!と清々しげに頭を下げる日向。とは反対に、私は抗議の声を上げていた。相変わらず手は先輩にガッチリ掴まれている。私は一切同意していないというのに。影山すら私の敵になってしまった。自分は関係ないからって!
ボロっとしたラジカセとCDプレーヤーが繋がれた機械を二人は慎重に受け取り、理科室を出ようとする。私はまだ抗議したりない!と二人の後を追いかけようとしたけど、がっちりと掴まれた腕はそれを妨げた。
「え、あの…私もう、行かないと…!」
「その前にクラスとか名前とか、詳しくプロフィールを聞いておかなきゃ!」
「な、なんでですか!?ちょっと日向影山、待って置いてかないでぇ!」
「ごめん、ななし野さん!もう時間がないから俺たち先にメガホン探してくるよ」
「え、何言ってるの日向!ふざけんな、ふざけんな日向!!」
最早、面倒になったなったのか日向はあっさりと私を見捨てた。影山もドンマイという視線を寄越すばかりである。あの二人絶対許さん!メガホンは任せて!と言い残して去っていった二人に私はギリギリと歯を食い縛るのだった。
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