「あ、あの…すいません、バレー部のものですが…」

誕生日は?スリーサイズは?好きな映画は?と根掘り葉掘りプロフィールを聞かれること5分。私はゲッソリとしながら答えていた。心のなかでは日向影山の変人コンビにどう仕返ししてやろうかと考えながら…。そんな中、控え目に開けられたドアからひょこっと顔を覗かせたのは私のよく知る人物だった。

「グッチー!!助けてグッチー!」
「えっ、ななし野さん?何してるの?」
「またバレー部か」
「ツッキーもいる!!ツッキー助けろ!いや助けてください!」

何故か見知らぬ上級生の中に紛れている私に、グッチーはビックリしていた。その横では呆れた目で私を見下ろすツッキーも居る。これはチャンスだ!
私が切実に助けてと訴えると、ツッキーは「バレー部いつ辞めたの?」と少し意地悪な顔で尋ねてきた。
あの顔は状況を何となく理解しているくせに「面白いから、からかってやるよ!」という表情に違いない。私が恨めしげにツッキーを見ていると、グッチーが少しあわあわしながらも演劇部の眼鏡の先輩にスポットライトがないかどうか尋ねていた。演劇部なのにはんだごてを使っている人たちを見てグッチーは一瞬ポカーンとした顔になる。

「君さ、先輩の役に立つとか気合入れてなかったっけ?こんなとこで何油売ってんの?バレー部辞めんの?」
「うぐ…不可抗力で…!バレー部は辞めないよ!」
「ふーん。まあ、せいぜい演劇部で頑張っていけば?」
「だから私はバレー部辞めないって!」

私が立ち上がるのと同時にグッチーがスイマセン!と頭を下げる。どうやらスポットライトは借りられなかったようだ。しょんぼりするグッチーにツッキーは特に何も言わず黙って理科室の外に出ようとする。あ、なんかデジャヴ。私は相変わらず演劇部の先輩に腕を掴まれツッキー達の後ろに続くことは出来なかった。

「待って!ツッキー&グッチー!私も、私も連れていって!お願いします!」
「今凄くいい感じに脚本が降りて来ているから!もう少し!」
「ほら、先輩もそう言ってることだし、そのままでいいんじゃない?」
「つ、ツッキー…ななし野さん…」

もう本当に何とかして欲しい、と私がツッキーに懇願しているにも関わらず突き放すような言い方にがっくり肩を落としてしまった。このまま私は何の役にも立てず、師匠たちにも呆れられてしまうのだろうか。更に演劇部として三年間を過ごすことになるのだろうか。
せっかく憧れの烏野高校で小さい頃からの夢だった男子バレー部のマネージャーをしているというのに…。私が黙ったまま突っ立っていることに少し焦ったのかグッチーが心配そうに私の名前を呼ぶ。続いてツッキーの大きなため息が聞こえた。

「はぁ…すいません、先輩。この子連れていきますね。話ならまた今度聞くんで」
「あらイケメン!…まあいいわ。もうすぐ昼休みも終わるし…また連絡するからその時にもっと話を詰めましょう」
「う、もう、それでいいです」
「ほら、さっさと行くよ」
「失礼します」

ツッキーがニコニコしながら先輩にそう言うと、ようやく私は解放された。壁に掛かった時計の針は昼休み終了15分前。やばい、私何もしてない。
一人で嬉しいやら焦りやらの感情に振り回されていると、ツッキーがガシリと私の手首を掴んで理科室を出る。引っ張られるまま後ろを振り返れば、グッチーが律儀にもう一度頭を下げているのが見えた。

「ヅッギィーありがとう!もう本当にありがとう!」
「わ、わかったからその顔で近づくのやめてくれない?」
「ごめんツッキー」

時間にして10分程しか経っていないのに、感覚的には1時間くらい拘束されていた気分だった。ようやく理科室を出られたことが嬉しくて半泣きでツッキーに感謝の気持ちを伝えると、嫌そうな顔をされる。
でも、出会った頃の心底迷惑そうな顔ではなかったので私は安心した。ここで、「キモいんだけど」とか言われて拒絶されたら流石に泣く。
ツッキーは「とにかくさっさと次行くよ」とため息をついて手を離した。そして律儀に理科室のドアを閉めたグッチーは物悲しげにツッキーを見上げ、控え目に話しかけた。

「…聞いてた?スポットライトないってさ、仕方ないから先にポンポン探そうか?」
「……」
「そうだね。あとちょっとで昼休み終わっちゃうし、とりあえずポンポン探そう!私も手伝うよ」
「ほんと、ななし野さん!ありがとう。ポンポンってチアの人たちが持ってるんだよね?……部室に居るかなぁ?」
「……」
「よし、そうと決まれば早速行ってみようよ!」

ツッキーは面倒臭いのか、全く返事もせずに無言で歩き出す。グッチーはそんなツッキーに寂しそうな顔を向けつつ私の言葉に頷き歩き出した。でも、ツッキーはちゃんと付き合ってくれるあたり優しいんだと思う。どうでも良かったらさっさと教室戻っちゃうよね!と、グッチーにコッソリ耳打ちするとアホ毛がピョコンと跳ねた気がした。


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ポンポンを探しにチア部を訪れた私たちは、見慣れた第二体育館の前に立ち尽くしていた。ツッキーの不機嫌顔にグッチーはしょんぼりと肩を落としている。目的のポンポンはチア部の人たちも壮行式で使うらしく、手にいれることは叶わなかった。なので、タイムリミットが迫った今もなお手ぶらである。

「まだ探す気?もうやるだけやったでしょ」
「あ、…ええと、でも…」
「当たり前だよ!まだ見つかってないじゃん。昼休みも終わってないし!諦めたらそこで試合終了だよ!ね、グッチー!」
「安西先生……!うん、そ、そうだよ…!まだ、終わってない!」

最早、完全にやる気なんて皆無なツッキーに私がガッツポーズを取りながら反論する。グッチーに同意を求めたら、ツッキーの顔色を窺うように小さく頷いた。そんな私たちにツッキーは「じゃあどうすんの?」と聞き返してくる。いざ、そう言われると一切案なんてない。
ぐ……、と口をつぐんだ私にデコピンをかまし「考えてから物をいいなよ」とため息を吐いた。

「で、山口は?次どこあたる気なの?」
「えっ、とその……あ!あとは俺に任せといてよ、ツテがあるから!」
「ツテ……?」

少し呆れた顔で尋ねたツッキーに、グッチーは急に閃いたように顔を上げる。とうとうツッキーのプレッシャーに負けた?!と思ったけど、でまかせでもないようだった。一体どんなツテ?とツッキーと顔を見合せる。そんな中グッチーは張り切ったように声を上げた。

「ポンポンはもう作っちゃおうよ!あの、ツッキーとななし野さんも、手伝ってくれる?」
「うん、任せて!」
「……時間、ないんデショ」

そうと決まれば!と急いで教室に向かう。ツッキーはマイペースに歩いていたので私とグッチーが手を引っ張ると、「自分で走るから!」と慌てて駆け出した。途中通りかかった職員室で武ちゃん先生にビニールヒモを貰い、材料は手に入れた。
先生が「日向くんたちも厚紙を貰いにきましたよ」と言っていたけど、あの二人もメガホンを手作りするのかな。少し気になったけど私のこと置いて行ったし…今はツッキーたちの手伝いに専念しよう。
4組にたどり着いた頃にはお昼休みが残り10分になっていた。次の休み時間も合わせれば、間に合うハズだ。よし、今まで何も出来なかった分頑張る!


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