5月17日、いよいよ部活動壮行式の当日。お昼の授業は休講ということで学校全体が浮き足だっていた。運動部はこれから始まる夏の大会に。文化部や帰宅部は通常の授業ではないという事実に。
だって退屈な授業じゃなくて、各運動部の熱い決意表明を聞いているだけでいいのだ。特に勉強が大嫌い(だと思われる)生徒たちはみんなニコニコ顔だった。中にはそれすらダルーと呟いている人もいると言えばいる。でも、これだけ生徒がたくさん居るんだからそれは仕方ない。
そんな生徒たちに混じって私と影山も壮行式の準備のために講堂へ向かっていた。
「ソワソワしすぎだろ、ななし野」
「だっ、だってさぁ、いよいよサプライズ決行なんだよ?!見てよ、日向を」
「…あいつ、挙動不審だな…」
そして1組の友達と歩きながらソワソワキョロキョロと辺りを見渡している日向を見つけた。日向の手にはお手製のメガホンやポンポンが入った紙袋がぶら下がっている。きっと大事な物を預かっているから不安になっているんだろうな。分かる、その気持ち!私もユニフォームを持っている時は緊張しすぎてやばかった。周りがみんな、敵に見えるんだよね。
うんうん、と頷いていると影山に不思議そうな顔をされた。
「ななし野は今行かなくてもいいんじゃないのか?お前、クラスの列だろ」
お昼休み中に壮行式に参加する主将を初め、部員たちは今頃準備に忙しいだろう。私たちバレー部は部員が少ないので1年生も部活動の列に加わることになっていた。でも、私と潔子さんはマネージャーなので残念ながらクラスの列から皆を見守る形になる。
でもそれは通常の場合だ。私は担任に頼み込んで特別に列を離れることを許して貰った。今日の朝、渋る担任に武ちゃん先生を見て覚えた必殺高速頭下げを駆使して何とか承認して貰ったのだ。まだ慣れてなくて、残像は残せなかったけど熱意は伝わったらしい。その代わり、一週間担任のパシリが決定した…。
でもこれは龍先輩達にも内緒である。もちろん、今隣で会話している影山も知らない。何とかそれらしい理由で誤魔化さなければ!影山は単純だからあまり深く考えないはずだ。
「ちょっと早めに整列しとこうかなって思って…それに、影山は私と講堂に行けて嬉しいでしょ?」
「はぁ?!ばっ、お前、嬉しいわけねぇだろうが、ボゲェ!あっ、いや、その…う、うれっ、ボゲェ!!」
「あっはっは!ひゃー!影山ってば怖い!冗談だよ、そんなに怒らな…いだだだだだ!」
「フザケンナななし野ボゲェ」
最早、テンプレートと化している私の冗談に影山が過剰に反応する。私もやめておけばいいのに、ついからかってしまうあたり自分でも徹ちゃんに似てきたかも?と少し不安になった。大きな声で私の頭を掴む影山に、周囲の生徒たちが一斉に注目する。やめろ、痛い恥ずかしい。私が涙目でギブギブ!と影山の腕を叩くとようやく解放してもらえた。そしてツッキー並みに深いため息を吐きながら私を見下ろし、呟く。
「はぁ、何で俺はお前なんか…」
「えっ、何?私が何なの?」
「何でもねぇよ」
「ちょっと、気になるじゃん!ねぇ、影山!」
言いかけて止めるなんて酷い!と私が影山に抗議の声を上げると、少し考える素振りを見せた後、ニヤリと口角を上げる。何だその怖い顔!何となくいつもと違うような気がして私が怯んでいるのを見た影山は一言。
「そんなに俺のことが気になるのか、ななし野」
「なっ!?」
「そうか、お前も俺のことが好きなんだな?」
「は、どうしたの影山!熱でもあるの?!」
「いつもの仕返しだよ、バーカ」
思いもよらない切り返しに動揺しすぎた私に勝ち誇ったようにそう言った影山は、スッキリした表情ですたすたと歩いていく。びっくりして心臓が煩い。それにしても、影山は急にレベルアップしすぎじゃないだろうか。ほんの数分前には、逆の立場だったのに!すっかり置いてきぼりになった私は、急いで影山を追いかけた。
そういえば影山……、お前もって言わなかった?まあ、深い意味はないか。
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「じゃあ、俺は田中さん達の所行くから」
「おっけー!私は、クラスの方行くね。頑張って影山!」
「おう」
講堂前、影山は運動部たちの集まる講堂の舞台裏へ。私は講堂の中へと向かうべく別れた。
いいなぁ、私も男だったら皆とわいわいしながら作戦に参加出来たんだろうか。こんな風に外から皆を見ていることしかできない疎外感を感じることはなかったのだろうか?日向と合流して男子バレー部の輪に混じる影山の背中を見つめて少しだけ寂しさを感じた。
でも、それは考えても仕方ないことだ。私はブンブンと頭を振って無理矢理思考を変えた。
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今日の龍先輩の作戦は、至ってシンプルなものである。まず、大地さんが舞台上で話し始めると同時に日向たちが用意したラジカセで音楽を鳴らす。そして、2年生たち5人が大地さんの後ろでスピーチを盛り上げるというものだ。ちなみにグッチーは、スポットライト係として大地さんを照らす役割だ。
こんなに楽しそうなことに、私もじっとしてなんていられない!私だって烏野バレー部の一員なんだから、何か貢献したいと思うのは当然のことだと思う。
というわけで、みんなには内緒でこっそりと作戦を練っていたりする。壮行式まで後10分。講堂へと集まってくる生徒の中を一人逆走し、私はある人物に会うために校門へと向かった。下駄箱を出ると生徒の姿はほとんど見えなかった。
「おー、来たか、ごんべ子チャン!」
「滝ノ上さんこんにちはー!すみません、待たせてしまったみたいで…」
「いや、今来たとこだから気にすんな」
「ありがとうございます!」
校門の前で腕を組み、私に気付くと手を振ってくれるのは滝ノ上さん。背も高く爽やかな大人の男性だ。烏野バレー部のOBで、今も嶋田さんと共に男バレに協力してくれている。ちなみに、今回の壮行式で使うスポットライトも滝ノ上さんが用意してくれたものだ。それに、今日も私のお願いのためにこうして学校まで来てくれて本当にいい人だと思う。今も仕事の合間だろうけど、嫌な顔一つ見せない。学生に戻りてーなー、と呟いた滝ノ上さんにお礼を言うと、だから気にするなってと笑われた。
「これ、頼まれてたデジカメな。昔、店で売ってたやつなんだけど傷つけちまって自分で買い取ったんだ。結構古いけど使用する分には問題ないと思う」
「充分です、全然問題ないです!でも本当に貰っちゃっていいんですか!?こんな高価なもの」
「いいよ、もう使わないし。高価っつっても4、5年くらい前のだから機能は全然良くないぞ。逆に引き取ってもらって申し訳ないくらいだよ」
申し訳なさそうに言いながら私は差し出されたそれを受けとる。昨日スポットライトを持ってきた滝ノ上さんにこっそりとお願いしていたものだ。みんなの有志を見える形で残したいから、高校生でも買える価格のカメラがないか尋ねていた。無理だったらインスタントカメラか、安くでカメラを貸して欲しいと頼んだところ、使ってないのがあるからあげると言われた次第である。もちろん貰うつもりなんてなかったけど、滝ノ上さんに古いからとか傷物だからとか色々言われてありがたく頂くことになった。
今後、家電とか電化製品は滝ノ上さんの所で買いますと約束し、私はデジタルカメラを手に入れた。
「じゃあ、俺は仕事に戻るわ。撮れたやつ今度見せてくれよ」
「もちろんです!お仕事中なのに本当にありがとうございました!滝ノ上さんに早く素敵な彼女さんが出来るように心から祈っておきますね!」
「や、やかましいわ!」
「いてっ」
本当に感謝してもしきれなくて、深々と頭を下げる。こんなにいい人なのにフリーなのはもったいない!そう思って心からの思いを伝えると、少し動揺しながら軽く頭を小突かれた。そして本人は昔はモテモテだったんだよ!とまるで捨て台詞のように言い残し商店街へ戻って行った。歳上なのに友達みたいだな、と思わず一人で笑った。
「こらー、そこの生徒!さっさと講堂に行きなさい!」
「ごごごごめんなさい、すぐ戻ります!」
校舎からチャイムの音が聞こえてきたと同時に先生の声も聞こえる。決してサボりとかではないんです!と言いながら、私は急いで講堂へ駆け込んだ。
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