いよいよ壮行式が始まった。講堂の中心には各運動部が整列している。その団体を囲むようにして、文化部や帰宅部、教員の方々が並んでいた。私はクラスの列から離れ、講堂の隅っこで教員の列に並び男子バレー部の出番を待っている。もちろん事情を知らない先生方たちには、何をしているんだ?と訝しげな目でみられた。隣に立つ担任は私に大人しくするように、と念を押してくる。なんで私は問題児扱いされてるんだろう、と少しムッとした。何か言い返しておこうかなとそちらを見ると、ひょこりと担任の向こう側から顔を覗かせた武ちゃん先生と目が合う。事情を知っているのか知らないのかは不明だけど、とりあえずニコニコしている先生を見てすっかり毒気を抜かれた私は笑顔を返しておいた。武ちゃん先生は癒し系だな。
「野球部一同、校歌斉唱!」
「オッス!!」
早速一番目の野球部が校歌を歌い出したので、みんなの視線は壇上へと向いた。ズラリと並んだ坊主頭が野太い声で歌う姿は圧巻。なんだか龍先輩が混ざっても違和感なさそうだな…!そう考えたら急に龍先輩も混じってるんじゃ?という気がして思わず端から端までじっくり見渡してしまった。同じクラスの野球部を見つけて妙に嬉しい気持ちになった。
そんな感じで順調に壮行式は進んでいく。5番目は女子バレー部だ。主将の道宮先輩が見ている方も分かるくらいガチガチで壇上に上がってきて、意味もなく私まで緊張してしまった。
ショートカットがとても似合っていて、目もパッチリ、潔子さんはクールビューティーだけど道宮先輩はキュートって言った方が似合う。何度か大地さんと話しているところを見掛けていた私は一方的に知っていた。そんな道宮先輩は、挨拶でペコリと頭を下げた時にマイクに頭をぶつけて講堂に笑いを誘った。可愛いな、先輩!
そして真っ赤になりながら恥ずかしそうに下を向いた所で、結がんばれー!と壇上に声援が飛ぶ。恐らく同じ女子バレー部の仲間だろう。道宮先輩は声のした方に顔を向けると照れ笑いをして話始めた。
――女子バレー部はあまり強くない。でも、みんな努力を惜しまず練習し、今では大事な戦力だ。相手が強豪だろうと自分たちが弱小だろうと、緒戦は一回きり。負けたら、そこで終わり。
道宮先輩は、自分たちの練習風景を思いだしながら話しているようで時折凄く懐かしむような瞳をしていた。私は入部してまだ1ヶ月ちょっとしか経っていないけど、思い出はたくさんある。3年生にはもっともっと私たちが知らない思い出があるだろう。二年後引退を迎える時のことを思うと急に切なくなって、道宮先輩の気持ちがほんの少しだけ分かった気がした。先輩のスピーチに、講堂はしんと静まりかえっている。
「1試合、1試合大切に、必死にボールを追いかけて、繋いで、次の試合にも出られるように、勝ちたいです!勝つために、頑張ってきたから!ね、みんな!」
「ハイ!」
「ふぐっ…ハイ!」
道宮先輩の呼び掛けに女子バレー部のメンバーが力強い返事をする。その瞬間、講堂には溢れんばかりの拍手が沸き起こった。私もすっかり気分は女子バレー部になっていたため、つい反射で返事をしてしまった。女子バレー部とは体育館が違うから、普段どんな練習をしているのかは知らない。でも、道宮先輩の心の籠ったスピーチからは、とてもバレー部が好きで大切なんだなという想いが伝わってきた。女子バレー部がんばれ!
「え、ななし野さん女バレじゃないよね?!」
「うっ、ハイ…!思わず…」
熱いな、青春だな!と感動にうちひしがれていた私に武ちゃん先生の思わずといったツッコミが入る。先生も感動したのか涙目だ。半泣きでやり取りする私と武ちゃん先生の間に挟まれた担任は、ガン無視で女子バレー部に拍手を送っていた。
「きたー!武ちゃん先生、男子バレー部ですよ!」
「澤村くん、貫禄がありますね!流石、主将です」
「ちょっと、落ち着いてお二方」
「「すいません…」」
女子バレー部の次は、いよいよ男子バレー部の出番だった。ついにこの時がやってきたのだ!私が武ちゃん先生に話しかけると、先生も少し興奮気味に声を上げる。声量を抑えているとはいえ、他に喋っている人もあまり居ないので近くに居た生徒たちには注目された。大地さんの声が聞こえたので私は持っていたデジカメを取りだし、その少し緊張気味の主将を画面に納めた。
「僕たち男子バレーボール部は、かつては全国大会への出場経験もありました」
かっちりとした文章を読み上げる大地さんに、思わず笑みが溢れる。龍先輩がくそ真面目なスピーチをすると予想していたけど、その通りだった。でも、ここからですよ大地さん!事情を知っている私は、ニヤニヤしながらデジカメのシャッターを切る。
担任に心底不安そうな顔をされ、撮った写真悪用するなよと言われた。つまり、私がそんなことしそうに見えると?決して私用で使うわけではありません、ご安心を!
「…何か変な音がするな」
大地さんが喋りだしてすぐ、キュルキュルという雑音が聞こえ、大地さんを始め講堂の人間が何の音だ?と首を傾げる。そして少しパンク系の音楽が流れ、講堂内は一気に騒がしくなった。英語の歌詞だから何を言っているかわからないけど、とにかく盛り上がるには十分だ。
大地さんはワケも分からずキョロキョロとしていたけど、とりあえず今は自分のスピーチを再開することに決めたらしい。戸惑いつつ口を開いた時、一気に大地さんは光に包まれた。正確には、照らし出された。
講堂の隅から滝ノ上さんに手配してもらったスポットライトを操るグッチー。私のところからはバッチリ見えるから記念に撮っておこう。グッチー、緊張してる!その証拠に唇をぎゅっと結んでいる。がんばれー!と心の中で応援した。
舞台上では、大地さんが頭にハテナマークを浮かべていた。逆光で誰が自分にライトを当てているのかわからないようだ。少し訝しげな表情もデジカメに納めておいた。
「ヨッシャー!待たせたなーッ!」
「うわあああ、龍先輩ー!ノヤさーん!」
「ななし野、静かにしなさい!」
「すいません、で、でも、師匠が!師匠たちが!」
「師匠?お前は一体何部なんだ」
ラジカセを担ぎながら舞台に飛び出してきた龍先輩たち。パンクミュージックに合わせてノリノリである。すっかりライブにでも来ているような気分になって、私はぎゃあぎゃあ言いながらデジカメのシャッターを切りまくった。かっこいい、師匠たちかっこいい!サイコー!とテンションが上がりまくる私。
パー子か!と担任に訳の分からないことを言われて、首を傾げると武ちゃん先生がハイテンションで写真を撮りまくるピンクのおばさんが居たんですよ、と丁寧に説明してくれた。
「いいぞー、田中もっとやれー!」
「ノヤー、バック転しろー!」
「力ー!木下、成田、いいぞー!」
「坊主ー!ぼーずー!」
「うおおお、師匠たちサイコー!」
講堂内はさながら文化祭の有志を見ているような雰囲気だった。特に龍先輩には色んな声援が飛んでいる。龍先輩は学年でも人気者なんだな、流石師匠だ!舞台上では2年の先輩たちが肩を組みながらフレフレ大地!とエールを送っていた。
ノヤさんのコサックダンスに拍手が起きたのはちょっと面白かった。
「いいぞー、バレー部!」
「田中脱げー!」
びっくりするくらい真剣な龍先輩たちに、見ている方も楽しくなる。どこからか脱げ!という声が飛び、龍先輩が制服に手を掛けた。そういえば、入部を賭けた試合でも龍先輩が脱いでいたことを思い出す。
でも、あの時は部員しかいなかったけど今舞台上で脱ぐのは非常にまずい。うら若き乙女だっているし、何より教頭が目を光らせている。たとえ上半身といえど、裸はダメだ!きっとそう思って焦った大地さんが止めようとしたけど遅かった。
しかも、龍先輩だけではなくノヤさんも縁下先輩も木下先輩、成田先輩まで一緒になってブチブチとカ制服のボタンを外していた。そして、学ランを天高く放り投げるとバンと胸を張る。
何だ!?かっこよすぎか!と私はふるふると震える手でシャッターボタンを連打した。
「俺たちの熱い思い、とくと胸に焼き付けろー!」
龍先輩の言葉に、先輩たちも同じように制服を投げ捨てる。焼き付いてもうハートが燃え盛ってるよ!
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