「安心してくださィ!!着てますよ!!」
「わっはっは!いいぞ、田中ー」
「とにかくあかるいバレー部サイコーだぞー!!」
「ブフッ」
龍先輩たちは決して肌を露出させたりはしていなかった。きちんとTシャツという名の布を身に纏っている。講堂中の視線が先輩たちのTシャツに集まり、ようやく意味を理解した時感嘆の声があちこちから聞こえた。
先輩たちのTシャツには、一文字ずつ"烏""野""排""球""部"と力強くプリントされている。
単体で見ると意味は分からないけど、繋げて読むと烏野排球部になった。あのTシャツいつ作ったんだろう。龍先輩たちも色々大変だったんだろうな、と思ったら感動が止まらない。
そして観客たちの声に応え、龍先輩たちはクルリと背中を向ける。背中にも一人ずつ、"I""H""仏""血""斬"と文字が描かれていた。アイエイチぶつちざん?なんて読むんだろう?力強く雰囲気はなんか、こう、熱い感じなのはわかるけど、どういう意味かまでは分かりかねる。講堂の生徒たちも読み方が分からず、一瞬静まり返った。
「インハイぶっちぎり!これで予選もブッチギリだ!いくぞ、烏野…スパーキンッ!!」
あれは、当て字でぶっちぎりだったのか!意味が分かると途端にテンションがあがって壇上でガッツポーズをしている先輩たちを連写しまくった。さっきから微妙にピンぼけしているのが気になるけど、今はそれどころではない!先輩たちの有志を目とカメラに焼き付けないと。
カメラ越しに舞台上を見ていると大地さんがハッと我に返り、龍先輩たちに声を張り上げるのが窺えた。これも撮っておこう。カシャッという音の後、突然のコールが講堂に響き渡る。
何事かと思えば、舞台下に男子バレー部の面々がズラッとならび「烏野、ファイ!」と部活でお馴染みの掛け声を掛けていた。そもそもこの作戦は、3年には内緒だった。にも拘らず、スガさんと旭さんが率先して盛り上げている。スガさんの粋な計らいなのかもしれない!グッチーはスポットライトを固定して、駆け付けたようで少しそっちも気にしていた。
「武ちゃん先生、私男子バレー部に入って本当によかったです!」
「ええ、僕も顧問で良かった!」
今や講堂中が龍先輩たちの熱い思いにつられ、手を叩き烏野コールをしている。私は胸が熱くなって武ちゃん先生に訴えると、先生も涙を浮かべて頷いた。
一生懸命にファイッ!と皆を先導して舞台上を駆け回る龍先輩、ローリングサンダーの合間に謎のコサックダンスを入れて笑いを取るノヤさん。縁下先輩、木下先輩、成田先輩はメガホンとポンポンを持って盛り上げている。
舞台下では、楽しそうに旭さんとスガさんが壇上にコールを送っていた。その横には、目をキラキラさせている日向と部活中みたいに真面目な顔をした影山、呆れながらもコールをしているツッキーと、少し照れ臭そうに控えめに声を出すグッチーが居る。
潔子さんは、と3年生のクラスの方を探して見ると生徒の合間からバレー部を見て呆れた顔をしている姿が見えた。あんなに人が居ても目立っている潔子さんはやっぱり美人だな。
「潔子さんも記念に…!」
こうして予想外に盛り上がったバレー部の番はたくさんの応援の声と拍手を頂き、無事に終わった。
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「先輩たち、すっごいカッコよかったです!」
「…スポットライト、ど、どうでしたか!?」
「わた、私、感動しすぎて、カメラのデータが凄いことになりました!」
壮行会が終わり、影山たちと合流した私は先輩たちのかっこよさについて語り合った。一つずつ上げていけばキリがない。ツッキーも途中から面倒そうな顔をしたけど、何も言わない所を見ると多少は何か響くものがあったんだと思う。とりあえずこの感想を本人たちに直接言おうと探し、ようやく校舎裏に居る所を見つけた。
「おう、お前ら!俺たちカッコよかっただろー?!」
「はい!もう最高にかっこよかったです!」
「わっはっは!そうだろう、そうだろう!山口のライト捌きも中々のもんだったぜ!」
「…!あ、ありがとうございます!」
「田中、ノヤ、あんまり調子に乗るなよ?」
得意気に胸を張る師匠たちに、尊敬の眼差しを送るとますます得意気になった。それを見た大地さんが苦笑いでそう言うと、師匠たちはあまり気にしていない様子で、すんませんと謝る。それを見て皆で笑っていると、後ろからやってきたスガさんと旭さんが加わり2年生の頭を小突いて楽しそうに笑った。本当に、みんな仲が良いから見ている私も楽しくなってくる。
「やっぱりバカだったなー、お前ら!」
「あれ、いつ用意してたんだ?全然気付かなかったよ」
「ふっふっふ!俺たちの緻密な計算により、秘密裏に動いていたんですよ!なっ、みんな!」
「田中はすぐ覚えたての難しい言葉使おうとするなー」
「なっ!?どういう意味すか、スガさん!」
スガさんがからかうように言った隣で、影山もボソッとどういう意味だ?と首を傾げている。影山はそもそも龍先輩の言った言葉の意味が分かっていないんだろう。毎度のことながら、頭が良さそうなのにアホというギャップに笑ってしまった。何か可愛いな、影山よ。言うと怒るから言わないでおこう。
「そういえば、ごんべ子。カメラって何のことだ?」
わいわいと盛り上がっているなか、ノヤさんが思い出したように尋ねる。私もすっかり忘れていたデジカメを制服のポケットから取り出すと、おお!と龍先輩が驚きの声を上げた。いっぱい撮ったんですよ、と言いながらカメラを手渡すと皆がのぞきこむ。大地さんのビックリ顔から潔子さんの呆れ顔までバッチリ。龍先輩とノヤさんに、でかした!と頭をワシャワシャとなで回されて私はニヤニヤが止まらなかった。
「あっ、いつの間にこんな所を…!」
「ななし野ちゃん、半分以上ブレブレじゃん」
「手ブレ補正効かないとかどんだけ手震えてんの…?プッ」
「あー!潔子さんの、潔子さんのお写真が!」
「何?!くれ、ななし野、この写真を俺にくれ!」
潔子さんの隠し撮りを見つけた師匠たちが鼻息荒く詰め寄ってくる。ぶれまくりな写真の中、潔子さんのだけ神憑ったようにキレイに撮れていた。
潔子さんに許可を貰わなければあげることはできないと言うと二人は少し考えた後、そうだな!と諦めたようだった。きっと本人が知らないところで、こんなやり取りをすることはフェアじゃないと思ったんだろう。もちろん私も悪用はしません、絶対に。
「あ、これ!この写真いい感じじゃん!」
「え、どれですか?」
デジカメのメモリを見ていたスガさんが弾んだ声を上げる。私にとったら全部ベストショットだけどね!それでもスガさんが言う写真が気になって皆で覗き込んだ。小さな画面には、楽しそうなバレー部の皆が映っていた。
最後の方に諦めた大地さんが、スピーチを再開し「烏野排球部、行くぞ全国!」と拳を突き上げている瞬間だ。その後ろでは、2年の先輩たちも力強く大地さんと同じように拳を掲げている。舞台下ではスガさんが指示したのだろう、残りの皆も私たち観客の方に向き直り、舞台上に倣って同じポーズをとっていた。丁度、私の興奮もピークに達して出来る限り真正面に飛び出していたため、写真も綺麗に正面から撮れている。もちろん、担任に連れ戻された。でも、担任も少しだけ涙目になっていたのを私は見逃さなかった。
「よくやった、ななし野!」
「ごんべ子!今日帰りにガリガリ君梨味奢ってやるからな!」
「やったー!ありがとうございますノヤさん!」
龍先輩とノヤさんがニッと笑いながら私の肩と頭をポンポンと叩きながら、そう言った。よかった、私も少しは作戦に貢献出来たみたいだ!そう思うと嬉しくてちょっとだけ涙が出て、今度は3年の先輩たちが泣くなよー!と心配してくれた。優しい!と思うともう完全に涙が溢れて、最終的に日向とグッチーがつられて泣き出し、影山とツッキーが動揺。
いつのまにか縁下先輩が潔子さんを連れてきてくれて、皆で記念に撮ろう!と提案してくれた。近くを通り掛かった生徒にシャッターをお願いすることにして、整列する。
「ほら、日向、山口、ななし野!写真は笑顔で!」
「ふ、ファイっ!キャプテン!」
「す、すいません!」
「潔子さん、俺と龍の間にどーぞ!」
「…」
「ガン無視最高っス!」
「プッ、君。泣き顔ブサイクだけど、大丈夫?」
「う、うるさい!ツッキー!自分はイケメンだからって!」
「はは、ななし野ちゃん、それ褒めてるし!」
「おい、ななし野ティッシュ使うか?」
「影山ってティッシュ常備してるんだな」
校舎裏で整列してからも尚騒がしい。カメラを構えた生徒が生暖かい視線でこちらを見守ってくれている。3分くらいはそうやって待ってくれたけど、流石に痺れを切らして無理矢理ハイチーズ!と言われて慌てて前を向いた。フラッシュと共に小さなシャッター音が聞こえる。あ、やばい何か目を瞑った気がする。
その生徒にお礼を言ってカメラを返して貰い写真を確認すると、本日何度目かの爆笑が巻き起こった。
「ブフォーーッ!おま、お前ら!天才か!」
「あはは、流石王様と召使いにそのお供!」
「ぶふっ、こら、月島、煽るな…ふふっ」
「ちょっと、スガさんも笑ってるじゃないですか!」
日向、影山、私。三人揃って半目だった。半目で中途半端に笑ってる。何で撮り直してくれなかったんだよ、あの人!しばらくツッキーと龍先輩に顔を見るたびに笑われたのは言うまでもない。
部活動壮行式"後編"
(予選まで全力で練習するぞ、お前ら!)(オーッス!!)
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