「お、始まった」
コートから一斉に挨拶の声が上がり、金田一と並んでいる岩ちゃんの言葉で私もそちらに意識を向けた。それと同時に隣のコートからは「ゴーゴーレッツゴー伊達工!」と、まさに強豪を象徴するような応援の声があがる。気を抜けばこの空気にのまれそうだ。
すごいな、私も負けてられない!と「烏野ー!ファイッ!」と叫んでみたものの、伊達工エールにかき消され塵と消えた。やっぱり一人だと分が悪い。
今は張り合っても仕方ないけれど、応援隊長として負けるわけには行かない!悔しくて伊達工の応援席を一睨みしてみたけど、誰一人として私に気づくことはなかった。まあ、気付かれたら恐いんだけどね…!一人で悶々としていると、「応援隊長がんばれよ」と岩ちゃんから応援された。
「烏野がんばれー!…龍せんぱーい!ノヤさーん!」
何を言っているかは聞こえないけど、円陣を組む自チームに向かって声援を飛ばす。龍先輩とノヤさんが気づいてぶんぶんと手を振ってくれたので私は嬉しくなって振り返した。力こぶを作って叩きながら気合いを入れる二人。
さすが、師匠!この会場の誰よりもイカすぜ!そのパフォーマンスは大地さんに引き摺られる形で終了した…。そして、ぞろぞろとコートに並ぶスタメンに、日向が混じると少しざわめきが起こる。相変わらずチビだなーと岩ちゃんが呟くと同時に他の人たちからも身長についての会話が聞こえた。
確かに、ミドルブロッカーにしては日向は身長が低かった。リベロでもないし、控えにはもっと背の高い選手が居るのにどうして?と。でも、これこそが烏野の作戦であった。
実際に対戦したことのある金田一は、「ナメたら痛い目みます!」と岩ちゃんに言って笑われている。練習試合では日向の速攻に驚いていたし、結局攻略できず終いだった。あの時より日向は上手くなっているし、旭さんとノヤさんが戻ってきたことでチームの総合力は上がっている。次に対戦するときは徹ちゃんが最初から居てもきっと対等に戦えるはずだ。「次は捻じ伏せてみせます!」と決意表明をした金田一の言葉に、私は反応せざるおえなかった。
「ふふふ、やってみたまえ金田一よ」
「誰だよお前は」
それでこそライバルだ!とニヤニヤしながら金田一に伝えると、マトモなツッコミを頂いてしまった。そしてその向こう側に居た岩ちゃんが半笑いで私に告げる。
「おい、応援隊長。試合始まってるけど見なくていーのかよ」
「えっ、早く言ってよ岩ちゃん!」
何故、岩ちゃんは笑ってるの?気になりつつも試合を観ないわけにはいかずコートに目を向ける。
いつもとは景色が違った。間近で見ていた影山のトスを上から見るなんて新鮮だ。その精密なトスは龍先輩の頭上へと上げられた。
「わっせらァ!」
「わーー!ナイスアタック!!さすが!わー!」
「応援隊長うるさーい」
「こればかりは及川に同意だ」
「同じく」
「ここは敵しかいない!私は応援してるだけなのに!」
皆が注目する最初の攻撃。それを決めたのは我が師匠、田中龍之介!力強いスパイクでボールは相手のコートに叩きつけられ、会場を沸かせる。威嚇にもなるし、テンションの高い龍先輩だから出来るパフォーマンスにも見えた。
「ウオアア!」とコートで雄叫びをあげている龍先輩と、一緒に叫ぶノヤさんにつられて私のテンションもぐんぐん上昇する。そんな先輩たちに向けてエールを送っていると後ろから徹ちゃんのつまらなそうな声が聞こえ、更に隣からは同意の言葉が私に発せられた。
これが応援隊長の宿命なのか…!下で大地さんとスガさんに「ウルサイ、長い!」と怒られている師匠たちと一緒に私も縮こまるしかなかった。
「ねー、あの神業速攻まだー?」
「烏野はそれだけじゃないんだから!ほら、観て、今!」
ファーと欠伸をしながら長い脚を投げ出して椅子に座る徹ちゃんに、私はもどかしくなって観戦を促す。だってノヤさんのスーパーレシーブとか旭さんの強烈スパイクとか他にもたくさん見所のある試合なのに、見ないなんてもったいない。
すっかりいつもの調子で徹ちゃんと話している自分に驚きながらも、この興奮を伝えることは止められなかった。
「うおっ、スゲー威力」
「岩ちゃん流石!旭さんはうちのエースなんだよ!だから、アクビしてないでちゃんと観てよ徹ちゃんも!」
「えー」
旭さんを見て感心したように声を漏らす岩ちゃんに私は嬉しくなる。会場からも感嘆の声があがるものの、流石成人だ!という褒めているのか貶しているのか分からない発言だった。密かにショックを受けている旭さんの姿は上からバッチリ目撃した。
「あの人が旭さんって言ってね、エーススパイカーなんだ。で、あのワイルドなリベロが…」
「応援隊長はただのミーハーだな」
ふん!と顔を背けてしまった徹ちゃんの興味を惹くのは難しいと悟った私は、真剣に観戦していた金田一に話し相手を変えた。だって徹ちゃんは私が一生懸命見所を説明しても「やだ!聞かない!」と耳を塞ぐのだ。だったら聞いてくれそうな人の方がいい。
まるでアイドルのコンサートを見ているような私に、金田一から本日二度目のツッコミを頂いた。
そして、ついにその時がやってくる。
ふわっとしなやかに伸ばされる両腕はまるで烏が飛び立つ前の羽のように。小さな身体は黒を身に纏い、ボールも見ずにネットに向かって飛び立った。大地さんや旭さん、龍先輩よりも速く、高くジャンプする。その跳躍力に、会場の視線がくぎ付けになった。
相手チームも、青城も、伊達工も、観客も、みんな。
何度見ても鳥肌の立つそのプレイに、思わず息をのむ。先程まであんなに退屈そうだった徹ちゃんが、目を輝かせ身を乗り出して食い入るように見つめている。
「飛んだ…」
どこかで誰かがそう呟く。影山のトスは正確に日向の掌の位置に放たれ、目にも止まらぬ速さで相手コートに叩きつけられた。このワンプレイが、烏野復活の合図。もう誰にも堕ちた強豪、飛べない烏なんて言わせない。
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「ありがとうございましたー!」
烏野の初戦は難なく勝ちを得た。セットカウント2-0のストレート勝ちである。日向と影山の変人速攻は試合が終った今も人々の関心を惹いていた。いつの間にか隣で一緒に観戦していた徹ちゃんも、あの速攻には興味津々だ。
私も勝ったという事実に興奮が抑えきれずニヤニヤするのを止められなかった。そんな私を見て岩ちゃんは「だらしない顔してるなー」と呆れ気味に笑った。
「じゃあ俺らも試合の準備とかあるから行くわ、またな応援隊長」
「及川さんの応援もヨロシクね!応援隊長!」
「色々頑張れよ、応援隊長」
「次はあの速攻、絶対攻略するからな!応援隊長!」
「分かったけど、そんなに隊長連呼されると恥ずかしいから!何なのみんな打ち合わせでもしたの?」
コートでは第一試合を終えた烏野メンバーがぞろぞろと引き上げ始めていたので、私も合流するために荷物を持つ。青城メンバーも試合前の準備のためにこの場を離れるようだ。わざわざ私に一声くれたものの、どこか面白がっている面々に思わず声を荒げてしまう。岩ちゃんはどうやら応援隊長が気に入ったらしい。この試合中もずっと私のことを隊長って呼んでたもんな…。そんな岩ちゃんに便乗して、徹ちゃんを始め国見も金田一も私をそう呼ぶ。やめろ、私が言わせているみたいじゃないか!
そして終いには様子を見ていたマッキーさんと松っつんさん(徹ちゃんの話によく出てくる)にまで「応援隊長さん、またな」と半笑いで手を振られてしまった。青城の団結力やばいな!
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