「ウェーイ!ななし野ウェーイ!」
「勝ったぞ、ごんべ子!ウェーイ!」
「師匠、マジでカッコよかったです!ウェーイ!」
「あ、コラ!恥ずかしいからヤメロって!」

コートを出てきた烏野メンバーと合流すると、真っ先に龍先輩とノヤさんがハイタッチ!と駆け寄ってきた。さっきまでの試合の興奮も冷めやらぬこの状況でハイタッチを求められれば、喜んで返すに決まっている。
人目もはばからず三人で勝利の味を噛み締めていると、次第に注目を浴び始めた私たちに気付いたスガさんが一目散にこちらに走ってきた。その後ろから、大地さんたちが「元気だなぁ」と笑いながらやってくる。
後ろの方に居たツッキーがスガさんに襟を掴まれ引き剥がされている私と師匠たちを見て「プッ、珍獣捕獲」と笑っていた。珍獣ってなんだ、珍獣って!失礼だな!とツッキーに向かっていこうとしたもののスガさんが襟を掴んでいたのでそれは叶わなかった。

「澤村!」
「池尻?」

大地さんを呼ぶ大声にこの場に居たみんなが振り返る。何事?と思えば、先程対戦した常波高校の主将である池尻さんだった。そういえば試合前も親しげに話していたし、二人は知り合いなんだろうか。どうしたんだと尋ねようとした大地さんの声を遮り、池尻さんは「勝てよ!絶対勝てよ!」と力強く言う。まるで漫画みたいな展開!と密かに胸を熱くする私におかまいなく、池尻さんはぐっと口を結んだ。

「勝てよ…!俺たちの分まで!」
「ああ、受け取った!」

泣きそうになりながら、大地さんの服を掴み必死に訴えるその姿に目頭が熱くなる。スポーツ漫画でよく見かけるその台詞は、きっと発言した本人でなければ真意は分からない。私には池尻さんがどんな気持ちで言ったのかは分からないけど、真剣なのは理解できた。
大地さんは池尻さんの手を掴み強く握り締める。きっと、試合を通してしか見えない色んな想いがあるのだろう。悔しさ、情熱、苦しみ、達成感…他にも言葉に出来ないような感情が。
最後にニッと笑って見せた池尻さんは、泣いているようにも見えた。どれだけバレーが好きでどれだけ努力を重ねても、報われるとは限らない。勝ちがあれば負けもある。私たちが勝てば、相手のチームは負ける。それは仕方のないことだ。でも、そうして勝利を噛み締めるからこそ意味があるのかもしれない。そうやって色んなことを知って強くなるのかな。

「…」
「日向?」

立ち去る池尻さんの背中を日向が立ち止まり見つめていた。置いていかれるよ、と声を掛けようと思い肩に手を伸ばす。でも日向の横顔に、そうすることを躊躇った。同情しているようでもなく、見下しているわけでもない。何を考えているのか全く分からなかった。私が日向の名を呼ぶと、いつもの雰囲気に戻る。はっとして離れていく烏野メンバーを見た後、続いて私を見ると手招きをして駆け出した。

「ななし野さん、置いていかれるよ!早く行こう!」
「あ、うん!」

日向に急かされ私もみんなの後を慌てて追った。最後尾から烏野のジャージを見て、私は改めて思う。応援という形でしか一緒に戦えないけど、勝ちあがっていく皆を側で見ていたい。


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「次の試合は1時半からだ。身体冷やすなよ!それまでに軽く飯食っとけ!腹いっぱいにはすんなよ」
「はーい」
「君は別にいいデショ…」

コーチから次の試合時間とメンバーを告げられた私たちは、各々お昼ご飯の準備をしながら散っていった。日向と影山は目にも止まらぬ速さで胃袋に食べ物を押し込むと「練習だ!」とボールを持って駆け出して行く。
仲が良いな、あの二人。言ったら怒るから言わないけど。去年までは一人で練習していた影山を思い出して私はちょっと嬉しくなった。と同時にもう私が手伝ったりしなくてもいいのか…と寂しくも感じる。
大地さんたち3年組は買いに行くかーと財布を手に体育館を出ていった。2年の先輩たちも外へ向かうようだ。私は潔子さんと一緒に外の芝生にあったベンチで昼食をとることにした。

「潔子さんはお弁当なんですね!」
「うん、作ってもらったんだ」
「私はパンです!コンビニで買いました!」
「あ、それ新発売のだね。美味しそう」
「一口あげますよー!」
「ありがとう」

憧れの潔子さんとこんな風に楽しくランチだなんて嬉しくて仕方ない。そこに師匠たちが現れ「是非、ご一緒に!」と声を掛けてきたので、一気に騒がしくなった。二人とも何故か私たちの正面に正座をして、ほわほわと花を飛ばしながらパンを食べている。ちなみに龍先輩は今日もメロンパンを頬張っていた。
一応二人にもベンチを勧めたものの何故か断るので、通りかかる人たちがどういう状況?と驚きながら私たちを見ていく。さっきの男子、二度見したよ!そして潔子さんを見てカワイイ!と目をハートにするものだから、その度に師匠たちが威嚇するのに忙しそうだった。この光景も見慣れたものである。潔子さんは居心地悪そうにしていたけど、途中から吹っ切れたのか平然とお弁当の中身を口に運んでいた。

「ひよほはん、」
「ごんべ子ちゃん、食べ終わってから喋りなさい」
「ふみまへん」
「そうだぞ、ごんべ子!ギョーギが悪いぞ!そうですよね、潔子さん!」
「西谷も落ち着きなさい」
「潔子さんに叱られた…!!」
「いーなー!ノヤ!潔子さん、俺も叱ってください!」
「…」
「ガン無視最高っス!」

龍先輩が潔子さんに無視されたことで、恍惚とした表情に変わる。無視されて嬉しいという感情はまだ私には理解できないけど、いつかそんな鋼のハートを手に入れることが出来るんだろうか。
じーっと龍先輩を観察していると気付いた先輩に「何だ、まだ食い足りねぇのか?」とメロンパンをひと千切りもらってしまった。いつから食いしん坊キャラになったの、私は。まあ、美味しく頂くけどね!
その後も4人でわいわいと楽しくランチタイムを過ごし、あっと言う間に時間は過ぎていった。ノヤさんは食べ終わると、ちょっと旭さんの様子を見てくると走り去る。何ていったって次の対戦校は伊達工業だ。潔子さんも、先生と話したいことがあるからとこの場を離れ、残された私と龍先輩は顔を見合わせると皆忙しそうだなと笑いあった。

「なあ、ななし野。俺は思ったんだ」
「何をですか?」

ベンチに腰掛けると空を見上げてしみじみと呟く先輩。倣って私も顔を上げ空を見上げる。真上にある太陽が眩しくて直視できなかったので流れる雲を見つめた。魚みたいな形だ、とぼんやり思う。

「女からの声援っていいもんだな、例えそれがお前だとしても」
「先輩、それ結構な悪口ですからね?」

何を言い出すかと思えば、ただの私に対する暴言じゃないか。まあ、一応私を女の子として扱ってくれているのは嬉しいかもしれないけど…。
私の言葉を華麗にスルーし、龍先輩は話し続ける。自分がどんな風に女の子に応援されたいか。呼び方は、龍ちゃんがいい。スパイクを決めたら笑顔で手を振って欲しい。などなど…結構具体的だった。目をパチパチさせて私を見つめ「先輩、カッコ良かったですぅ!」とノリノリだ。やけに女の子役が板に着いていて、ちょっと複雑だった。

「まあ男っていうのは結局、女に褒められると無条件でやる気が出るもんなんだよ」
「そんなもんなんですか?」
「そんなもんだ。だから次の伊達工戦も応援頼むぞ、弟子よ」
「任せてください!」

わはは、と私の背中を叩く先輩。途中、妄想を一人で実演し始めた時は流石に困惑したけど…こうして話していると私もヤル気が溢れてくる。龍先輩のいいところは、持ち前の明るさと元気でみんなを鼓舞してくれるところだ。あと、男気たっぷりなところも!ノヤさんとは違うタイプだけど、龍先輩もワイルドだと私は思う。さっきの妄想力もすごかったけど、あれはちょっと私の許容範囲をオーバーしていた。慣れが必要だ…。

「よっしゃ、そろそろ行くか!」
「オース!」

全国出場まであと4試合。伊達工に勝てば、徹ちゃんたちの居る青葉城西と当たる。更に決勝戦では恐らくあの王者白鳥沢が相手になるだろう。徹ちゃんと岩ちゃんのライバルであるウシワカも居るし、(関係ないけど)影山も受験失敗したし、厳しい試合になる。私も出来ることは精一杯やろうと再度気合いを入れなおした。



VS常波
(まずは一勝)

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