「うわー…すごい応援…」
続く第2試合目、選手たちのアップを手伝うべく私も潔子さんと共にコート内で準備をしていた。そこでまず思ったのは、伊達工の応援が凄まじいということだった。朝の試合では離れた場所だったけど、今回は対戦相手である。近いな…!私はこの洗練された伊達工応援団(私命名)に勝てるのだろうか…と、勝手にライバル認定して、一人落ち込む。不安になって口から漏れた言葉は潔子さんにも聞こえていたようだった。
「ごんべ子ちゃんなら負けないでしょう?」
「…はい!もちろんです、潔子さん」
ニコリと天使よりも可愛い笑みを向けられ一瞬ドキッとする。天使見たことないけども!師匠たちだったら嬉しすぎて失神するレベルだろう。
潔子さんの笑顔に勇気づけられ、嬉しいのと恥ずかしいのと緊張で、デヘヘと締まりのない顔を晒すことしか出来なかった。
もう一度、上の観覧席を見上げれば相変わらず伊達工応援団がズラリと並び、声を枯らす程の声援をぶつけてくる。でも潔子さん効果でスーパー無敵タイムに突入している私には何も恐いものなんてない。昔流行った詩吟を口ずさむくらいには無敵だ!
「今日なんだかいけそうなきがするー」
「ふふ、ごんべ子ちゃんはどこでも生きていけそうだね」
「潔子さん、それ誉め言葉ですよね?」
「…もちろん」
「今の謎の間は一体…」
今度は少しイタズラっぽい笑み見せた潔子さんは、ドリンクの準備を始める。私もアップのためにボールを準備していると、後ろから「うひぃ!」と日向の悲鳴が聞こえてきた。慣れとは恐いもので、日向の悲鳴を聞き分けられるようになりつつある。今のは萎縮した時のだな!そう予測を立てて振り返ってみると、伊達工のメンバーがぞろぞろとコートに入ってくるところだった。ビンゴじゃん!何だか嬉しい。
「…」
伊達工は平均身長が高いことに加え、青根さんの存在が相手を威嚇するには充分すぎる。背の低い日向を意図せずともビビらせた青根さんは、私の視線に気づいたようでペコリと頭を下げた。何て礼儀正しい人なのか!私も会釈を返すと、その後ろを歩いていた二口さんが気付いてちょっとだけ得意気に笑っていた。何だか余裕そうだ。
それに比べるとうちの切り札である"最強の囮"は龍先輩を盾に怯えている。今はビクビクしているけど試合になったら別人になるのだから不思議だ。
そんな日向はさっきの私と青根さんのやり取りを見て「ボ、ボスッ!?」と更に縮こまった。ボスか…中々いい響きだ、強そう…なんて。
久しぶりに悪戯心に火がついた私は、影山渾身の笑みを思い浮かべて同じように口角を上げて日向に笑いかける。よく影山の笑顔をコワイ!と言っていたし、今の日向なら中々いい反応をしてくれそうだ。そんなことを考えていると、「ひぃぃ!」と予想以上の悲鳴を上げられ、距離をとられた。ちょっと待って、そんなに!?そんなに怖かった!?逆に凹んだ私に全く気付かず今度は伊達工エールに「うおおお!」と顔を青くしていた。
「ビビるのに忙しい奴だな〜」
「そうだよ、日向。私にもビビりすぎだよ」
「ご、ごめん!でもななし野さんの顔怖かったし!」
「心外だなー」
「棒読みじゃねーか」
面白がってアワアワする日向をからかっていると、龍先輩が呆れたように笑う。自分ではさっきの笑顔が一体どれ程の威力だったのか分からないけど、日向には効果があったようだ。あんまり日向ビビらせすぎんなよ、と言われてハッとした。
そうだ!試合前、日向は非情にデリケートな状態になるんだった!リバースしたりお腹を下したり、壊れたロボットになったり、と数々の出来事を思い出して私は焦る。さすがに、2試合目ともなると普通レベルの緊張でとどまっているようだ。ちょっと安心して一人胸を撫で下ろした。あの練習試合の時と違って、勝たなければ道はないのだから。
「部員多いチームってそれだけで強そうだよなー。あんなにズラーっと並んで応援とか正直羨ましいわ」
「一人しか居なくてなんか申し訳ないですね、はい…」
龍先輩は相手の応援席の人数を見てしみじみとつぶやく。その言葉は若干胸に突き刺さった。確かに相手の人数とか諸々に対してうちは私一人。どう足掻いても対抗は出来ない。こればっかりはどうにもならない問題なので、私はちょっとだけしょんぼりとしながら龍先輩に謝罪しておいた。先輩は私と伊達工応援席を交互に見ると、真面目な顔で口を開く。
「ななし野が影分身の術とか使えりゃ、ちょっとは対抗できそうなんだけどなー。お前、忍術とか使えそうなのになー」
「そうですね、私が百人もいれば互角なんですけどね。龍先輩は体術しか使えなさそうですよね」
「百人で互角か、お前結構弱ェーな…あとナチュラルに筋肉バカと言ったのか」
「何の話してるんですか?」
私も先輩の冗談に付き合って会話を続けていると、日向がハテナマークを浮かべながら私達に尋ねてきた。特に意味のある話をしていたわけでもないし、影分身とかできないし。とりあえず伊達工応援団に対抗するのに忍術を使いたいな。私がかいつまんでそんな妄想をしていたよ、と教えると日向は聞いてきたくせにふーんと興味なさそうな反応を見せた。ただの冗談話なのに、ちょっと恥ずかしくなった。
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今の私は、例えるなら狼の前に一人投げ出されたヤギの如く萎縮していた。やはり、どう頑張って声を出しても伊達工の野太い応援にかき消されるのだ。相手はメガホンを持ってバンバン手すりを叩き盛り上げているというのに、私は手ぶらである。
まじかよ、さっそく乗り越えられない壁が現れたよ…!二階から皆の練習風景を見ながらどうやって応援しようか考えてみたものの、大声で対抗する以外に思いつかなかった。この戦いに勝つことは旭さん、ノヤさんにとってとても大きな進歩になるというのに…一マネージャーとして私が役に立てることと言えば、応援しかないというのに…。ずーん、と勝手に落ち込んでいると下の階から伊達工エールを押し退けて聞きなれた声が耳に届く。
「んローリングサンダァァアゲインッ」
一瞬会場中がシーンと静まり返り、一斉に声の主に視線が集中する。今、この中で誰よりも目立っているのは前転しながらレシーブを受けたノヤさんだった。練習の時、よくあの必殺技を繰り広げているけれどまさかこんな公衆の面前でも披露するとは…やっぱり我が師匠であるノヤさんはワイルドだった。私も見習わなければ!と、気合いを入れなおす。
烏野の面々はノヤさんの周りに集まっていて、何だかいつもみたいな雰囲気に戻ったように感じた。日向なんかはさっきのローリングサンダーアゲイン?に興味深々である。前に見たのとあまり違いは分からないけど、ノヤさんがやるとカッコよく見えるのは何故なんだ。ただの前転なのに。
観客席にはなんだ今の?というざわめきが小波のように広がっていく。伊達工の二口さん、青根さんたちがキョトンとしているのはちょっと面白かった。
「よっしゃあ!!心配することなんか何も無ぇ!皆、前だけ見てけよォ!背中は俺が護ってやるぜ」
「うわああ、ノヤさーん!!かっこいいー!流石です、うわあああ!」
「おう、弟子よ!お前も中々いい声援だぜ!」
ノヤさんの台詞は不思議と綺麗に聞こえていた。あまりにも頼もしく、男前すぎる発言にみんなが声を発することを忘れて打ちひしがれている。私も例に漏れず、師匠の言葉に大興奮ではしゃいでしまった。
タイミングがいいのか悪いのか声援が途切れた瞬間だったようで、静まっていたコートにもバッチリ届いたようだ。ノヤさんがニカッと笑いながら私に放った言葉まで周囲に響き渡った。近くに居た人たちからは、「弟子?」「修行でもしてるのかな」とヒソヒソ噂されている。恥ずかしい…!でも、朝から失態を晒しまくってきた私は開き直りのスキルが格段にアップしていた。
私がノヤさんに向かって敬礼ポーズを取ると、龍先輩とツッキーが盛大に吹き出し、あんなに睨んでも全くこっちを見なかった伊達工応援団の視線まで掻っ攫った。何かが吹っ切れた気がした。
「お願いしァース!」
すっかり緊張も解けた烏野。審判の笛の音に、メンバーがコートに並ぶ。三ヶ月前のリベンジも兼ねた第2試合目が、今始まる。
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