王様の焦燥

「キャー!及川さーん!」
「かっこいい〜」
「やばいよやばいよ!」

お前はリアクション芸人か!と思わず徹ちゃんを応援している女子の一人にツッコミそうになった。何がやばいのか全く分からないけど、とにかく他に言葉が見つからないようだ。そういえば私も大興奮したときは同じような感じかもしれない。そう思うと人のことを言えないな…。
言葉をグッっとのみこみ、私はツッキーの隣の席に腰を下ろした。観客席の前の方では、烏野の皆が固まって明日対戦することになるであろう青葉城西の試合を観戦している。なのにツッキーとグッチーだけ何故か少し後ろの方に陣取っていた。
ツッキーは私を見て「何でこっちくんの」と言いたげな顔になる。そんなに嫌がることないじゃん!こうなったら意地でも隣に居てやろう!と妙な対抗心が芽生え、ツッキーに対してニヤリと口角を上げて表情で意思表示を試みた。

「何なの喧嘩売ってる?」
「うう、ツッキーのバカ…」
「はぁ?売られた喧嘩は買うけど?」
「ちょ、ツッキー落ち着いて…ななし野さんに悪気はないと思うし!」

結果、ツッキーを怒らせてしまったようだ。でも本当に嫌だったら自分から席を離れるよね?これは居てもいいってことだよね?と、勝手にそう解釈する。
ツッキーはいつになったら私に心を開いてくれるのだろう。友達だと思ってるのは私だけな気がする。最近は割と距離も縮まってきたけど、まだまだ道のりは長そうだ。

「…君は何で前行かないわけ?君の好きな大王様もよく見えるし、仲良しの王様も師匠もここじゃ遠いんじゃない?」
「何か色々ツッコミたいんだけど…。理由はツッキーと一緒だよ」
「へぇ、じゃあ前で騒いでるあの辺と一緒にされるのが恥ずかしいってことなんだ?」
「エッ、そんなこと思ってたの!?」

何だかツンとした言い方でツッキーが指を差す。その方向には、徹ちゃんたちの試合を見て騒ぐ日向とノヤさんが居た。高校生男子にしては背が低く、幼い印象を受ける二人は小学生と間違えられている。それを見た皆が吹き出して賑わっていた。私は別に一緒に騒いでも構わないけど、ツッキーにとったら恥ずかしいことらしい。

「私、恥ずかしいとか思ってないよ!」
「じゃああっち行けば?」
「寂しいこというなよ!私はツッキーの横に居たい気分なの!」
「……」
「ななし野さん、大胆!」

グッチーがビックリしつつ微妙にニヤニヤした顔で私を見てきたので、特に深い意味はないよ!と慌てて付け加える。捉え方によっては今のって、ツッキーにアピールしてるみたいになるよね!?仲良くなりたいのは事実だけど、また私がストーカーだと思われたら困るし…。うーんと眉間にシワを寄せる私に、ツッキーは「考えすぎでしょ」と言い放つ。その顔に少し呆れが滲んでいるものの、純粋な笑顔だった。

「ツッキー!今の笑顔いいよ!爽やか!友達っぽい!」
「はぁ!?何だよ友達っぽいって…」
「ツッキーの笑顔ってレアだよ!俺も付き合い長いけど…」
「うるさい山口」

一蹴されたグッチーは、ツッキーが照れていることを分かっているからか嬉しそうに「ごめん、ツッキー」と言ってコートに視線を戻した。ツッキーとグッチーも徹ちゃんと岩ちゃんみたいに信頼しあっているんだろうな。性格も正反対な二人が仲良しなのは、友情とは違う男の子同士の絆があるからだろう。いいなぁ、そういうの。
私もコートに目を向けると、ちょうど徹ちゃんがサーブを打っているところだった。何をしてもファンの黄色い声がとびかっていて、先程の伊達工の野太い声援とは真逆だった。徹ちゃんの試合では、最早これが普通になっているため特に何も思わないけど龍先輩なんかは後ろ姿を見ただけでもイラっとしているのが分かる。
明日、私はこの声援に負けないようにしなければならないのか…。ちら、と及川ファンの子たちを見れば皆可愛くてオシャレで私はちょっとだけ気分が憂鬱になった。本当に、モテモテなんだなあの人。

「大王様、練習試合の時よりサーブの威力増してるんじゃない?」
「確かに!うわ、痛そう〜」

ツッキーがポツリと呟いた言葉に、グッチーがちょっとだけ眉間にシワを寄せて答える。丁度レシーバーが派手な音をさせてボールを受けたところを見ていたせいか、それとも練習試合の時のツッキーが受けたサーブを思い出したのか。顔を青くさせて腕をさすっていた。実際に私は徹ちゃんのサーブを受けたことはないけど、痛いんだろうなということは分かる。ここから見ても強烈だ。

「徹ちゃん、ああ見えて凄い努力家だからいっぱい練習したんだろうな…」
「…」

ツッキーが感じたような威力の増加は分からないけど、徹ちゃんがいつもどれだけ練習しているか知っている。だから、短期間で腕を上げていてもおかしくないだろう。
私が今までの徹ちゃんの努力を思い出してそう言うと、ツッキーはまたしても何か言いかけてやめた。何だろう、ツッキーといい影山といい、私に何か思うことがあるのだろうか。言ってくれないと不安になるんだけど…!私が「どうかした?」と聞くと「別に」とそっけない言葉が返ってきて、それ以上追求することは出来なかった。

「撤収ー!」

青葉城西は大岬に圧勝。いよいよ明日の対戦相手に決まった。今日はもう試合もないし、帰ったらまた練習と今日の反省、明日の作戦会議だ。大地さんの言葉に私たちも従って試合会場を後にした。


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「ナイス!ななし野!」
「キャー、ななし野さんステキー!」

掌にじんじんとした痛みと熱を感じてぎゅっと拳を握る。額に滲む汗を拭えば女の子たちの黄色い声援があがり、龍先輩が恨めしげに私の頭を叩いた。バチッと派手な音がしたけど不思議と痛みや重さはない。これはもしや…私の身体能力が発達したのかもしれない。いつもならツッキーにニヤニヤしすぎと言われそうなものだけど、ツッキーはにこやかに微笑みながら私を見ていた。何か、変だな。何で私を見てあんなに笑顔なんだろう。逆に恐い…。

「ちょっと、ごんべ子余裕ぶってるけど次は絶対止めるからね!」
「お前に点を取られる日がくるとはな」

ネットを挟んで対峙するのは幼なじみの及川徹と岩泉一。普段見上げていた二人と目線が同じ高さになり、何だか新鮮だった。私、身長が急激に伸びたみたいで、あのツッキーや旭さんよりも高い。まじかよ、成長しすぎ!いっぱい寝たからかな?
更に今気付いたけど、試合中のようで私はコートにいるみたいだ。よく見れば烏野のユニフォームを身に纏っている。番号だけぼやけて見えないのは何故か分からない。
そして徐々に掌の熱を思い出してきた。少しジャンプしただけで誰よりも高く飛んで、一番上からボールを叩きつけた。岩ちゃんと徹ちゃんの手にあたったそれは大きな音を立ててコートの外に飛んでいった。

「くっそ…!」

二人の悔しげな顔に思わず笑みを浮かべていると、徹ちゃんにべーっと舌を出される。やっぱり色々と違和感があるけど、きっとこれが本来の私の姿に違いない!

「ななし野、今のトスどうだった?」
「うん、完璧!さすが影山!」
「褒めても何も出ねぇぞ、ボゲェ」
「何で怒るの!」
「怒ってねぇよ、ボゲェ!」

影山が私を見上げて照れ臭そうに顔を背ける。まったく、素直じゃないんだから。と微笑ましい気持ちで思わず影山の頭を撫でた。うわ、髪の毛サラサラだ!シャンプーどこの使ってるんだろう。私が恍惚の表情で影山の頭をわしゃわしゃしていると、ふいに影山が私の手首を掴む。

「ふ、フザケンナ、ななし野!」
「影山ったら照れちゃって、…ん?」
「何言ってんだボゲェ」

目を開ければ、私が伸ばした手は影山の頭にしっかりと乗っていた。ああ、この感触はさっきと同じだ。でも何か違う。影山が真っ赤な顔で、私の手を掴んでいるのに、やっぱり違和感がある。
どういうこと?とボーっとする頭で考えてみてもここがバスの中で今は私と影山しか居ないということしか分からなかった。ユニフォームは?青城との試合は?私、縮んでない?ハテナマークを浮かべて影山を質問責めにしていると、はあ…と大きなため息を吐かれた。


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