グッチーのサーブにより流れが変わったのか、それとも烏野の集中力が増したのか、試合はかなりの接戦だった。青城も含め、全員がボールを落とすまいと走り回っている。目が離せない試合展開に観客たちも息をのみ、見つめた。
そしていよいよ、青城がマッチポイントを迎える。

「うう〜、お願いなんとかデュースに…!」
「野郎共ビビるなァー!!前のめりでいくぜ」
「!!!」

あと1点取られれば負け、こちらが取ればデュース。どうしても肩に力が入ってしまうこの場面で、またしても声を上げたのはノヤさんだった。
表情は明るく、自信に満ちていて、言葉には説得力がある。守護神の放った一言でみんなが笑顔を浮かべ、いつもの雰囲気に戻ったことを感じた。さすがだ!彼に寄せる信頼は絶対的であり、本当に味方で良かったと思う。
この場で彼は私の師匠です!と言って回りたい衝動に駆られ、ソワソワと落ち着きがなくなったことは自覚している。予め予想していたのか滝ノ上さんが私を見て「そうなると思った」と笑っていた。
しかし、そんなことは気にしない!私は、岩ちゃんに借りたタオルを掲げ「ノヤさんワイルド!」と声援を飛ばすと、気付いたノヤさんがニカッと輝かしい笑顔をくれた。やばい惚れそう!

「二号の目がハートに見える!」
「俺にもそう見えるよ、たっつぁん!」
「ほぎゃあああ、龍せんぱーい!」

ノヤさん効果が効いたのか、何とか青城の速攻を返した龍先輩。私のテンションも最高潮になっていた。
そしてダイレクトに相手コートへ入りそうなボールは影山の咄嗟のワンハンドトスにより何とか日向へ上がり、ついに日向のスパイクは徹ちゃんのブロックを抜き去った。そして同時に私のテンションも限界を突き破った。今なら空だって飛べそうな気がする!

「おっしゃ同点んんん!!!」
「やっ、やりましたよおお!!ウェーイ!このまま、勝利だ、ウェーイ!!ウェェーーイ!!」
「ごんべ子ちゃんの喜び方が尋常じゃない…!」

24-24のデュースにもつれ込み、ここから先は2点差がつくまで試合は続く。青城のタイムアウト中、滝ノ上さんと嶋田さんにしつこくハイタッチを求めた結果ちょっとだけ引かれた。でも気にしない!何故なら私は今とても気分がいいからである。
しかしこれから先は、体力と気力がモロに影響してくる。ここまできたら、絶対に勝ちたい。その想いはコート内にいるみんなの方が何倍も、何十倍も強かった。
日向の根性が、ついに烏野逆転に結びつく。あと1点で勝てる!興奮でドキドキと高鳴る胸が痛い。
でもやっぱり相手はあの青城だけあり、落ち着いていた。岩ちゃんに点を取り返され、再び25-25の同点。しかも、サーブは徹ちゃんに回ってきた。ここで取れなければ、リードされてしまう上に徹ちゃんのサーブが続く。緊張感が高まる中、放たれたボールはノヤさんの顔の横を通り過ぎ、コート外に落ちた。

「アウトだ…」
「及川が…サーブミスった!」
「徹ちゃんが…」

審判のジャッジはアウトだった。ギリギリで判断を下したノヤさんも凄いけれど、あの徹ちゃんがこの場面でミスをしたことに驚いていた。少なからずプレッシャーは感じているようだ。思わず呼んだ名前は、周囲の声にかき消され誰にも聞こえていなかった。
烏野に勝って欲しいという想いは変わらないけど、いざ幼馴染のそんな姿を見ると胸が痛む。去年までは徹ちゃんと岩ちゃんを全力で応援していたのに。
一瞬、ぼんやりしていた所為で滝ノ上さんに大丈夫か?と顔を覗きこまれ我に返る。何でもないです!と返事をして、それ以降は烏野の応援に集中した。
私が自分の意志で幼なじみとは違う高校を選んだのだ。ここで中途半端なことは出来ない。

「及川くんナイッサーブー!!」
「ゲッ、今のでローテ一周か!」

試合は続き、31-31。お互いがもう既に限界を超えているような気がする程、白熱していた。更にまた徹ちゃんのサーブが回ってきたことにより、空気が緊迫する。今日1番凄い威力のサーブが大地さん目掛けて飛んでいき、青城コートへ返っていった。そしてそのボールを叩いたのは、国見だ。影山が何とか繋いだレシーブがまた青城コートにダイレクトに返ると、誰よりも素早く構えたのはやっぱり国見だった。
今まで目立つ動きはなかったけれど、逆にそれが国見の作戦だったのかもしれない。フェイントで点を決められ、ここにきて青城に逆転されてしまった。

「国見め、体力温存してたのか…」

中学の頃、いつも試合中は無駄な動きはせずサボっていることが多かった国見。部活にはちゃんと来るし、練習だって真面目にこなしていた。でも、試合では明らかに自分に関係がないと分かるブロックには跳ばなかったり、取れないボールは早々に諦めて追うことも少なかった。それでよく影山と揉めていたし、実際今の青城でもコーチに怒鳴られているところを見たことがある。
今まで唯単にサボっているだけだと思っていたけど、実は体力温存の意図があったなんて知らなかった。私が「気付かなかったー!」と嘆くと嶋田さんが「やるな…青城」と呟く。
それにしても、その国見の思惑を汲み取って試合に活かせるのは徹ちゃんだからなんだろうか。軽く円陣を組む青城で、楽しそうな国見を見てふとそう思う。
そういえば影山と一緒に試合している時に、国見の笑顔を見た事があったかな。いつも険しい顔をしている二人しか思い出せなかった。普段からあまり感情を顔に出さない国見が、試合中に見せる自然な笑顔は本当に楽しそうだ。
そんな青城チームを呆然と見つめる影山が目に入り、一瞬何とも言い難い不安に駆られる。何を考えているのか分からないけど、今にも崩れおちそうに見えたのだ。
あの時、誰も影山のトスを打たなかったあの瞬間に似ている。一人、コートに佇む王様の姿が今の影山と重なった。

「影山…、」
「影山ァー!迷ってんじゃ無ぇぞーっ」

「お前の声は聞こえる」と言った昨日の影山の言葉を思い出し、「がんばれ」と伝えようと口を開く。

本当にそんな言葉でいい?影山は私の言葉を必要としている?

躊躇する私の声が届く前に、影山に言葉を届けたのはスガさんだった。振り返った影山の後ろには烏野の面々が居る。中学の頃と圧倒的に違うその光景は、私の見たかったものとは少し違うけれどずっと望んでいたものだった。
あの時、塞ぎこむような影山の姿を見て何も出来なかったことを後悔し、他人任せにした私が願うことはおかしいかもしれないけれど。
影山はもう孤独なんかじゃなくなった。信頼できるチームメイトも、相棒もいる。それが嬉しくて、羨ましくて、少しだけ寂しい。影山の隣に私は並んでいるのだろうか。
信頼を得た王様は、コートの中にいる誰よりも眩しく輝いてみえた。


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