幼なじみ襲来

「エッ!?ホントに烏野行くの!?青城行くって言ってたじゃん!ごんべ子のうそつき!どうしよ、岩ちゃん!」
「あーもう、ごめんって!そんなに怒らなくてもいいじゃん!岩ちゃんなんとかしてぇ!!」
「お前ら二人ともうるせぇ!クソ川、もう諦めろ!」
「いやだぁ!俺がどんだけごんべ子と一緒にスクールライフを送りたかったか、岩ちゃんなら分かるよねぇ!?」
「知らねぇよ」
「岩ちゃん冷たい!」

春休み。ついに…ついにこの日がやってきた。私が休みの間中、ガンガン鳴る電話を総無視し、出来るだけ友達の家に入り浸り、接触を避けていたというのに。とうとう顔を合わせてしまった。
朝からインターホン連打、近所迷惑にも程がある。新聞勧誘かな?と居留守を決め込んでいたものの、あまりにもしつこいので怒り浸透で思いきりドアを開ければ、この二人が立っていた。思わず開けたドアを閉めようとしたら全力で阻止され、今に至る。

「可笑しいと思ったんだよ!受験の時も迎えに行くって行ったのに断られたり、制服姿も全然見せてくんないし!?国見ちゃんも金田一もごんべ子のこと聞いてもはぐらかすし!本人は俺のこと避けてたし!」
「すぐ気付けよ…」

涙目で怒ってるのか悲しんでいるのかよく分からないことを言っている徹ちゃんと、哀れみに満ちた目をしている岩ちゃん。徹ちゃんこと及川徹と、岩ちゃんこと岩泉一は、二人とも青葉城西に通っている二歳上の幼なじみだ。
私が青城に行くと嘘をついていたことがバレたみたいで、こうしてわざわざ押し掛けてきた。

「とりあえず、中入る?」
「当たり前じゃん、オジャマシマス!」
「礼儀は忘れないんだな、お前」

近所の人たちの目もあるので中に招き入れると、徹ちゃんは頬を膨らませながら踏みいってくる。そしてすぐに、ガシッと肩を掴まれ揺さぶられた。やめろ、世界が揺れている。きもちわるい!

「何で青城来るなんて嘘をついたんだよ、ごんべ子のバカ!俺、凄い嬉しくてバレー部の皆に自慢してたんだぞ!?」
「だって烏野行くって行ったら徹ちゃん、怒るじゃん…」
「当たり前だろ!何で青城に来るべきところをわざわざ烏野に行くんだよ!俺とのラブラブスクールライフはどうなるの!?」
「うるせぇぞ、クソ川。もう烏野受かってんだろ、ごんべ子。どうしようもねぇよ」
「そうだよ、もう色々と準備は終わってて後は通うだけなの!こうなるから、入学まで黙ってようと思ったのに!」

背も高くて整った顔、モデルみたいにスラッと長い手足。黙っていればカッコいいのに、徹ちゃんは何がそんなに悲しいのか私の足元にしゃがみこみ、落ち込んでいる。
昔からそうだった。徹ちゃんは、私に過保護すぎるのだ。ことある毎に、心配して押し掛けてくるのは恒例になっている。
私が中学に入学した時も周りがドン引きするくらい溺愛されていたことは記憶に新しい。小さい頃から忙しい親の代わりに面倒を見てくれたのは徹ちゃんだし、感謝もしている。それに大切な幼なじみだ。
…でも、私だってもう来月から高校生だし、徹ちゃんが心配するようなことなんて何もない。"小さな巨人"を見たあの日から烏野に行くと宣言していたのだから今更曲げるわけがないことも分かってるだろうに。
受験が近づくにつれて徹ちゃんが烏野はやめろ、青城に来いとしつこいので途中から分かったと納得するフリをしていた。で、水面下では着々と烏野への受験準備を進めていたわけだ。こんな取って付けたような嘘、気付かないほうがどうかしてる。岩ちゃんは、薄々勘付いていただろう。
結局、うちの母親にでも聞いたらしくすぐにバレてこうやって更にめんどくさいことになってしまった。そこは、想定の範囲だったとしてもこうして直面すると、何でもっと上手いことやれなかったのかと自分を責めたくなる。

「奥入ってもいいか?ごんべ子」
「うん、そうしよう」
「さんきゅ、おらグズ川…とりあえず奥行くぞ」
「痛ッ、痛い!岩ちゃん痛い!」

落ち着いて話したいと岩ちゃんは徹ちゃんの首根っこを掴み、引きずりながら奥のリビングへと向かった。親は現在仕事中で不在なので問題ない。
私は岩ちゃんと徹ちゃんがソファに座ったのを確認して、とりあえずお茶を用意した。
岩ちゃんの顔が死んでる…。こうなることを分かってたうえで嘘をついていたので、岩ちゃんには本当に申し訳ないことをした。

「及川、ごんべ子は昔から烏野行くって言ってたろーが。お前が泣こうが喚こうが、この事実は変わらんだろ」
「そうだよ、なのに徹ちゃんがしつこいから…嘘ついたのは謝るよ、ごめん。でも、私どうしても烏野に行きたかったんだもん!」
「やだ!俺だって、ごんべ子にバレー部マネージャーをしてもらって、ウシワカ倒して全国優勝して、徹ちゃんが一番強くてカッコイイすてき!って言って貰うのが夢だったのに!今年が最後のチャンスだったのにぃ!」
「具体的だな…」

そう言って膝を抱えて頬を膨らます徹ちゃん。確かに昔から徹ちゃんは、ウシワカに勝つためにごんべ子が応援して!とか、そんなことを冗談で言っていた。
でも、私は私で烏野男バレマネージャーをするという夢がある。徹ちゃんのことは、応援しているけど別に同じ学校じゃなくてもいいじゃないか。何度かそう言ったけど全然納得してくれなかった。
それに、もう決まったことだし、どうしようもないのも事実。入学する前に編入するわけにもいかないし、私は誰が何と言おうと烏野に通うつもりである。

「俺は、ごんべ子と一緒に学校行きたかったんだよ!」
「休みの日に会えばいいじゃん」
「休み時間に教室に遊びに行ったり、お昼ご飯一緒に食べたり、部活後に肉まん食べたりしたかった」
「休みの日にすればいいじゃん」
「それに、ごんべ子に悪い虫が寄ってきたって追っ払えない」
「寄ってこないから大丈夫だよ」

じっと恨めしげに見つめてくる徹ちゃん。そんなこと言われても困る。岩ちゃん助けて、岩ちゃん!目で訴えてみた。すると岩ちゃんが、心底めんどくさそうにため息を吐く。

「なぁ、及川…お前がごんべ子大好きなのは分かった。でもな、ごんべ子にも選択権はあるし、俺たちがごんべ子の自由を奪うこともできないだろ?お前がわがまま言うなよ」
「そうだよ、別に一生会えないわけじゃないんだし、中学の時だって同じような感じだったじゃん!」

学年が違うから、学校が同じでも会える時間は限られている。中学のときだって、同じ校舎で過ごしたのは一年だけ。休み時間ごとに教室に押し掛けてきて、それはもうウザかった。おまけに及川ファンに目をつけられるし、いい思い出もない。部活を一緒に出来たのは楽しかったけど。
まだいじけている徹ちゃんを岩ちゃんと一緒に宥めるも、一度ヘソを曲げると中々機嫌が治らない。何か別の話題を…と考え、あることを思い出した。

「そうだ!入学祝いにケータイ買って貰ったんだ!だから、メールとかも出来るようになったよ、よかったらアドレス教えてくれないかな?」
「エッ!?ほんとに、ようやく?貸して、ごんべ子ケータイ貸して!俺のアドレス入れるから貸して!」
「急に元気になったな、及川」

よかった、機嫌直った!ホッとして新品同様のケータイを取り出す。すると、さっきまでの態度が嘘のように変わり、目を輝かせた徹ちゃんが光の速さで私のケータイを奪い去った。
まだ家族しか登録されていない私のケータイ。目では追えないスピードでアドレスを打ち込んでいる。

「よし、完了!俺の番号入れといたから!毎日メールしようね!あと、岩ちゃんのは入れなくていいから」
「おい、何でだよクソ川」
「だって岩ちゃんメールとか苦手だろ、だからごんべ子とメールすることもないだろ?ていうか、しなくていいし、ごんべ子への連絡は俺を通せばいいよね」
「はぁ?クソ川ふざけんなよ!…俺もメールくらいするわ!」
「えー!私、岩ちゃんとメールしたいよ!」
「はぐぅ…!」

私のケータイを右手に掲げ、ソファーの上から岩ちゃんにドヤ顔を向けている徹ちゃん。私は、岩ちゃんともメールしたい。どっちかっていうと、徹ちゃんより岩ちゃんの方が連絡とりたい。その言葉で徹ちゃんの顔が一瞬にして死んだ。おもしろいな!
そんな徹ちゃんをみて、今度は岩ちゃんがニヤリとほくそ笑んだ。悪い顔だ。

「ふんっ!ごんべ子のバーカバーカ!俺の気も知らないで!くらえ、及川さんの"スーパーダイレクトアタック"!」
「ブホッ!なにすんのよ、クソ川!そんなダサい必殺技なんか効かんわ!バーカバーカ!」
「フガッ」
「おい、ふたりとも落ち着け!」

大人しくなったと思ったらソファに置いてあったクッションを投げつけてきた。あまりにもテンションが下がっているからちょっとやり過ぎたかと心配したというのに…。
飛んできたクッションが私の顔面を直撃し、私の対抗心がメラメラと燃え上がる。やられたらやりかえす、倍返しだ!
私もすかさず投げ返すと徹ちゃんの顔面にヒットした。負けてなるものか、とお互いに睨みあっていると岩ちゃんの岩砕きチョップが炸裂した。ただのチョップじゃない。岩ちゃんの岩をも砕く岩砕きチョップ(私命名)だ!めっちゃ痛い。

「お前らアホなのか?小学生なのか?」
「「高校生です」」
「自覚があるなら慎め!」
「「すいません、以後気をつけます」」

とうとう岩ちゃんを怒らせてしまった私たちは床に正座しながら反省していた。昔から私と徹ちゃんが喧嘩して収拾がつかなくなると、こうやって怒られる。なんだか、岩ちゃんお母さんみたい。って言ったら、もう一発チョップを頂いた。痛い、しぬ。それを見て笑った徹ちゃんは頭突きを貰っていた、ざまあみろ。

「もう、俺は付き合いきれん。帰る。及川もいい加減諦めて現実を受け止めろよ!じゃあな!」

そう言って岩ちゃんは帰って行った。最後に私の頭(チョップされたとこ)を撫でて。
ほんと、岩ちゃんカッコいい。男前だ。良きお兄ちゃんを持った気分だ。撫でられた頭を擦り、うへへと笑うと徹ちゃんに「ごんべ子きもちわるい」と言われた。何か悔しかった。

「……」

残された私と徹ちゃんは正座したまま沈黙している。騒いでうやむやになってたけど、徹ちゃんが此処に来た目的は嘘をついていた私を咎めるためだ。何も解決してないじゃないか。
でも、私は謝ることしかできないわけで…また口論になったら今度こそどうすればいいですか、岩ちゃん。

「ごんべ子」
「…なに?」
「俺、ごんべ子に青城来てほしかった。ていうか、嘘つかれててすごい傷付いた」
「…ごめん」
「でも、いいや。許す!その代わり、いっぱいメールするし、電話する。月曜日はオフだからごんべ子の家に遊びにくる。そんで、休み合わせてデートしよう!」
「へ?」
「だから、覚悟しといてネ!」

徹ちゃんは、何やらそう捲し立てると笑顔を見せた。烏野行きはどうやら受け入れてくれたみたいだ。一先ず安心。
だけど、後半変なこと言ってなかった?私たち恋人じゃないよね、幼なじみだよね?嬉々として私とのデートプランを語る徹ちゃんには言えなかった。

「あとごんべ子、岩ちゃんとメールしないでね!ていうか、俺以外とメールしないでね!待ち受けは俺とのツーショット写真で、ストラップはおそろいのつけようよ!」
「それはやだ」
「即答!」



幼なじみ襲来
(愛が重い)

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