「ちわーす!…あれ?龍先輩、3年生は来てないんですか?」
「おう、ななし野!大地さんたちはまだ来てねぇぞ」
「部活開始まで時間あるし、先に準備だけしとこうか」

放課後、ジャージに着替えて第二体育館へ向かうと既に先輩たちも1年生の皆も揃っていた。でもそこに3年生の姿はなく、どことなく寂しい雰囲気が漂う。3年生が居ないだけでこんなにも雰囲気が違うのかと思うと、存在感の大きさを実感せざるをえない。
旭さんは昨日残るとハッキリ言っていたし、少し遅れているだけだろう。縁下先輩の言うとおり部活開始までまだ時間はある。とりあえず、先輩たちが着たらすぐに練習出来るように私たちだけで準備を始めておくことにした。

「3年生来ねぇな…」

午後4時10分、まだ先輩たちの姿は見えない。いつもなら既に練習に取り掛かっている時間だ。やっぱり受験のこととか、今後のことを見据えて引退の道を選んだのだろうか。他の部活の先輩は、ほとんどの人が引退したと聞いた。大きな大会がなかったり、受験勉強に専念するといった理由らしい。もし先輩たちが大学受験するなら春高に向けての練習と同時進行になるだろう。それがどれ程大変なことなのか私にはまだ分からないけれど、部活を選んでくれたらな…なんて身勝手なことを思った。

「日向ソワソワしすぎ」
「いや、君もでしょ」
「ごもっともです」

妙な緊張感に包まれ、ソワソワと落ち着きのない日向に声を掛けると、すかさずツッキーにツッコまれた。一人余裕綽々なことが悔しくてツッキーにガンを飛ばしてみたけど、全く効果はない。「ぶさいくになってる」とニヤニヤ笑われ更に悔しさを募らせた。

「ツッキーをギャフンと言わせたい…」
「へー、頑張ってー。楽しみにしてる」
「くぅ〜、絶妙にムカつくぅ!」
「あっはっは!」

ツッキーめ、覚えてろ!今日一番楽しそうに笑っている彼に、そう思ったとき体育館の扉がガタガタと音を立てて開いた。
気付いた日向がいち早くかけよると、ジャージ姿の3年生たちが慌てて体育館へと入ってくる。そしてスガさんが私達に向かって言った。

「行くぞ春高」
「おっしゃああ!!」

ニッと笑うスガさんに私もツッキーへの悔しさなんて忘れて喜びに飛び上がる。よかった!3年生は全員残るんだ!また、このメンバーでバレーが出来る。今度こそ、青城に勝って白鳥沢を倒し、全国の舞台に行きたい!
みんなで先輩たちの周りに駆け寄った。

「潔子さんも残ってくれるんですね!!」
「うん、よろしくね」

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「優勝は白鳥沢。準優勝は青城だ」

コーチの言葉に全員が衝撃を受けた。昨日の試合であれだけ接戦を繰り広げ、私たちが勝てなかった青城でも、白鳥沢には及ばない。しかも1セットも取れなかったそうだ。
徹ちゃんと岩ちゃんが何度も何度も悔しい思いをしていたことを知っているだけに、私もショックだった。
でも、ここでウシワカの強さに尻込みしている場合ではない。

「とりあえず、ここは主将に一発気合い入れてもらおうか」
「…昔、烏野が一度だけ行った舞台だ。もう一度、あそこへ行く」

東京、オレンジコートだ。大地さんがそう宣言した。強い決意表明に、私たちも雄叫びをあげる。小さな巨人が行った舞台。いよいよ実感が沸いてきた!予選は8月。あっと言う間にやってくるだろう。

「龍〜、ごんべ子〜!行くぞー!全国〜!」
「私もっ、私も応援頑張ります!」
「ヨッシャァ、神輿じゃァ〜!」

そう言って龍先輩がノヤさんの体を持ち上げたので、私も後ろで足を掴んで頭上に掲げる。ノヤさんが両腕を真横に伸ばして人間飛行機みたいになった。なにこれ、楽しい!
しばらくノヤさんを掲げて走り回っていると、突然武ちゃん先生が体育館に飛び込んでくる。ビターンと倒れ込んだ姿は、私たちが入部した日を彷彿とさせた。あの時も転んでた。

「行きますよね!?」
「どこに!?」
「鼻血出てます!」
「何事ですか!?」

ガバッと顔を上げ、ずり落ちたメガネも気にせずに先生は問う。ノヤさんの足を掴んだまま龍先輩の後ろから顔を出すと、鼻血を出した武ちゃん先生が見えた。一体、そんなに慌ててどうしたというんだろう。

「東京!」

先生が嬉しそうに発した言葉に、一瞬みんなの動きが止まった。東京?東京ってあの大都会の?全員の頭にハテナマークが浮かんだ。東京と言われて思い浮かぶのは…テーマパーク?遊びに連れて行ってくれるのかな。
少しの沈黙の後、日向がハッとして口を開いた。

「東京ってもしかして、音駒ですか!?」
「練習試合っスか?」
「えっ、東京で試合ですか!?行くの初めてです!」
「ネズミーランド行きてぇな!」

影山がティッシュを取りだし武ちゃん先生に渡すと、それを詰めながらコクリと頷く。私たちもノヤさんを地面に下ろして、東京への思いを巡らせていた。ネズミーランドも東京タワーもスカイツリーも見てみたい!
それに音駒へ行くならクロ先輩にも会える!楽しみになってきた!キャッキャッウフフと師匠たちと東京コールをしていると武ちゃん先生が続きを話し出した。

「でも今回は音駒だけじゃないんだ」

音駒だけじゃない、ということは他の学校とも練習試合が組めたということ?先生は笑みを浮かべて私たちの疑問に答える。
梟谷学園グループという関東の数校で出来ているグループの練習試合に、今回烏野も参加させて貰えることになったそうだ。何だか本格的な合宿になりそうで、私の期待値は体育館の天井を突き破りそうだった。
東京!合宿!遠征!まさに部活してるって感じ!
頑張って合宿参加を取り付けてくれた武ちゃん先生にみんなでお礼を言うと、影山がニヤァと笑みを浮かべた。

「あのセットアップまた間近でみれんのか」
「今度は俺が護り勝ァァつ!」
「うぉおお!!シティボーイ連合に殴り込みじゃあああ!」
「師匠!まじカッケーっす!私もシティボーイ連合には負けないです!」

龍先輩たちの熱い決意に感化され、私も何だか熱くなってきた!もう昨日の試合を引きずっている場合ではない。次に向けて進まなければ。
そして新たな目標と、東京遠征というビッグイベントが決まり今日の部活が始まった。

「ごんべ子ちゃん。部活終わった後、ちょっといいかな?」
「?はい、もちろん!」

みんながランニングで外に行った後、体育館に残った私に潔子さんが声を掛けてくる。何の話だろう?私が元気に返事をすると、潔子さんは後でねと言ってボールを取りに用具室に姿を消した。



目指せ!春高
(新しくマネージャーを募集しようと思うんだ)(いいですね……って私クビですか!?)

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