今日は見事に月島・山口チームに勝利し無事にバレー部に入部できた。本当に良かったと思ったのも束の間で、来週青葉城西との練習試合が決定し、私の気分は早くも下降気味だ。青城といえば県ベスト4の強豪である。そんな格上の学校と試合が出来るのはとても有難いけど、私は憂鬱だ…。
「はぁ…」
一つため息をこぼし、学校を出る。そもそも何がそんなに気掛かりなのかといえば…幼なじみの存在だった。会うのが嫌なんじゃない。影山を正セッターで、フル出場させるなら試合を受けるなんて条件を提示されたことが気に入らないのだ。
絶対、徹ちゃんのわがままに決まっている。少し前に徹ちゃんに影山が烏野に居ることをポロっと言ってしまったせいだったらどうしよう…。
影山が試合に出るということは即ち、3年の正セッターであるスガさんが試合に出られない。
「はぁ…」
また一つ、ため息。
スガさんはそれで構わないと言っていたけど、入ったばかりの新入生にポジションを奪われるなんて私だったら耐えられない。影山は天才セッターと呼ばれる程の実力もあるし、チームの足を引っ張ることはないと思う。
スガさんにはお世話になっているし、もし私が余計なことをしてしまったんだとしたらやるせないな…。
まあ、私が一人で勝手に落ち込んでも仕方ないか。切り替え大事!とりあえず明日は同中のメンバーにも会えるし、少し楽しみになってきた。
「ななし野さん」
「はぅあっ、きよ…しみっ、しみっきよ先輩!」
「その呼ばれ方は初めてかも」
「すいません!噛みました」
「ふふ、分かってる。よかったら途中まで一緒に帰らない?」
「は、はい!!是非」
声を掛けてくれたのは清水潔子先輩だった。口許に手を宛てて上品に微笑む姿に少しドキッとする。試合後に改めて挨拶をして、マネージャー業務も教えてもらい、何とか会話をするレベルにはなれたけどまだ緊張してしまう。隣に並んだ先輩にガチガチになる私は、しばらく手と足が一緒に出ていたことに気付かなかった。
「もっと気楽にしてくれた方が嬉しいな、って思うんだけど…どうかな?」
「素晴らしい提案だと思います!ただ、ちょっと、まだ緊張します!」
「緊張?」
潔子さんの隣を歩きながら回らない頭をフル回転させる。潔子さんが笑うたびに嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気分だった。普通ってなんだっけ、潔子さん怒っちゃうやばいー!と一人であたふたしていると、落ち着いてと肩を叩かれる。
そもそも私が美人に対してビビりになるのは、幼なじみの及川徹の影響だった。
「そっか…。どうしたらななし野さんと仲良くなれるかな…」
「清水先輩…」
「じゃあ、ごんべ子ちゃんって呼ぶ。私のことも下の名前で呼んで。少しずつ仲良くなれるように頑張るね」
「きっ、潔子さん!!」
微笑む潔子さんの後ろに後光が見える。
部活中はとてもクールな印象だったけれど、本当はこんなに笑うんだと知ったら少しだけ親近感が沸いた。私も潔子さんと仲良くなりたい思いでいっぱいだ。
「あのっ、私、幼なじみが居るんですけど…」
「そうなんだ、うちの学校?」
「いえ、違う学校なんです。その幼なじみがとてもモテるんですね」
及川徹、私の幼なじみは本当にモテる。物心ついた頃には一緒に居たからそのモテッぷりはよく知っていた。徹ちゃんが優しく笑いかけたり手を振ったりするから、女の子たちはどんどん徹ちゃんを好きになる。中学に入ると一気に背が伸びて、バレー部でも活躍。あっという間に人気者になった。
私が入学した頃には既にファンクラブまで存在していて驚いた。
「で、その幼なじみが自他共に認めるくらい過保護でして…」
それはもう両親よりも。私のクラスにしょっちゅう遊びにきてはちょっかいをかけてくるものだから、当然周りの人は私たちが付き合っていると疑いだした。
更にバレー部のマネージャーもして、岩ちゃんと一緒に帰ったり遊んだりもしていたので、とても目立っていたらしい。
私は入学から3ヶ月足らずで及川徹の一部のファンを敵に回したのである。初めて呼び出された時、本当にこんなことがあるなんて…と信じられなかった。徹ちゃんのファンには美人が多くて、大体呼び出してくる程過激なファンは気の強そうな美人が多かったのだ。
「及川くんとは釣り合わない!」
が大体の文句で、言い返すことも出来ず。正直怖かったし、あからさまな敵意に怯んでいた。誰だって面と向かって悪口を言われると凹む。
そんな生活が約一年続いた結果、私は美人を見ると条件反射で緊張と警戒をしてしまう体質になったのである。烏野に徹ちゃんは居ないから、潔子さんは大丈夫。そう頭では分かっているけど緊張はしてしまう。
そのことを潔子さんに説明すると、優しい瞳で頭を撫でられた。潔子さん惚れる…。
「そっか、そんな幼なじみが居たら大変ね」
「そうなんです…壮絶な戦いでした…」
女の嫉妬は恐ろしい。身に染みた。
徹ちゃんは絶対に気付いていた。にも関わらず、必要以上にスキンシップを図ったり、周りを刺激したりするので激化する。絶対にわざとだった!あの男、実はとても性格が悪いのである。
「…潔子さんが怖いとかそういうのじゃないんです!」
「私は気にしないし、ごんべ子ちゃんのそういうところも含めて面白いと思う。無理に直さなくていいんじゃない?」
「うわああ!潔子さん、ステキすぎます!!ぎゅ、ぎゅってしていいですか!?」
「えっ?」
潔子さんの優しさに私の美人恐怖症(?)なんて一瞬で直った。早く仲良くなりたい一心で私が放った言葉に潔子さんは一瞬驚いた顔をする。でも頷いてくれたので遠慮なくぎゅっと抱きついてみた。やばい、いい匂いがする。
よしよしと頭を撫でられて満足した私は、潔子さんに「あざっしたァ!」と頭を下げた。とてもいい気分だった。明日も頑張れそうだ。
「ごんべ子ちゃん、これからよろしくね」
「はいっ!潔子さん、不束者ですがどうぞヨロシクお願いします」
余所余所しい態度をとったり、急に抱きついたりととんでもなく失礼なことをしてしまった私に対して、潔子さんは咎めるでもなく笑って許してくれた。心が広い。
美人に対する偏見を持っていたことが恥ずかしく思えた。
「あ、清水!ななし野ちゃん!大地が肉まん奢ってくれたんだけどいる?」
「いる」
「スガさんお疲れ様です!」
坂を下るとバレー部の面々が商店の前で肉まんをかじっていた。気づいたスガさんが手に持った袋を掲げて私たちを呼ぶ。輪に加わって急いで肉まんを頬張ると田中先輩に腹ペコか!と笑われた。
清水潔子さん
(憧れの先輩が出来た)
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