「ごんべ子、ナイッサー」
近くの公園にやってきた私たちは、さっそくバレーの練習を始めていた。遊びだけど。
最初のチーム分けは私と岩ちゃん、徹ちゃんとマッキーさんで審判はまっつんさんだ。早速、私のサーブ!ということで、脳内で徹ちゃんのサーブをイメージして、ボールを投げた。のは良かったものの、手を振り上げた時に思い切り目を瞑ったことにより、顔面にボールが着地し見事にからぶったのだった。むなしく転がるバレーボールをただ茫然と見つめる。あれ?私、サーブ打てなかったっけ?
「隊長!ナイス顔面サーブ!ぶふっ」
「ごんべ子、ダサッ!」
「サーブの時に目を瞑るんじゃねぇ!しっかりボール見ろ!」
「及川・花巻チームに1点」
「私に味方は居ないのか…」
痛む鼻をさすると、半笑いの先輩たちが私を見ていた。イメトレでは徹ちゃん並みのサーブを打てたんだけどな…実際にプレイすると全然思い通りに出来ない!
ネットがないので地面に引かれたセンターラインの向こうにボールを入れるだけなのに、まさかそれすら失敗するとは…。
岩ちゃんの「ドンマイ!」という声で気持ちを切り替えた私は、レシーブのために構えた。
「ごんべ子、正しいサーブを及川さんが見せてあげよう」
「ちょっと待て及川、」
「うそでしょ…!」
いつか試合でツッキーに向かって宣戦布告したように、私を指さした徹ちゃん。嫌な予感がした私は口元のひくつきを抑えられず、思わず後ずさった。岩ちゃんも若干焦っているけど、徹ちゃんは全く気にしていない。こんなところで本気のサーブをしたら危ないし、何より私があの殺人サーブを取れるとは思えなかった。これは死人がでるぞ…!
「ごんべ子、さがってろ。俺がとる」
「い、岩ちゃん…!」
思わず、惚れる…と言ってしまいそうになって慌てて口を抑えた。私、守られている!と岩ちゃんの後ろでニヤニヤしていると、徹ちゃんの威力控えめの殺人サーブが飛んできた。それでも私にとっては強烈なサーブだった。
外から見ているだけでは分からなかったけど、烏野メンバーは試合でこれより凄いサーブを受けていたのかと思うと、私は改めて尊敬の念を抱かざるを得ない。
バシンと乾いた音が響き、岩ちゃんのくぐもった声が聞こえる。それと同時に真上に上がったボールを眺めていると、「ごんべ子、トス!」と指示された。
「と、トス…!えっと、手を三角にして…」
いざトスをするとなると少し緊張する。教科書に書いてあったオーバーハンドのやり方と、影山のフォームを思い出して手を伸ばした。西日が眩しく目を細めながらも何とかボールの落下位置を探る。ここだ!と思った瞬間にボールが手に当たった。そして、岩ちゃんの頭上を意識してボールを押し返す。
やった!ちゃんと上がった!弱弱しく飛んでいくボールでも、岩ちゃんは気にせず跳んだ。
「お返しだ、及川ぁ!!」
「ちょ、本気のナシだって!」
自分のことを棚にあげておいて慌てる徹ちゃんは、至近距離で自分に向かって飛んでくるであろうボールをレシーブすべく構えた。マッキーさんはフォローする気がないのか半笑いで眺めている。
「岩ちゃん、がんばれー!」
岩ちゃんと徹ちゃんの間には妙な緊張感が漂っていた。バシッとボールを叩く音が聞こえ、気づけば同じような音を立てて徹ちゃんの腕に当たり、そして跳ね返って顔面にぶつかった。超至近距離でのスパイクの威力は、想像以上だったようだ。痛そう…。自分の鼻を抑えると、またしても同じ動作をしていたマッキーさんと目が合ったのでお互い噴き出してしまった。
「岩泉・隊長チームに1点」
「ナイス、岩泉!」
「マッキー、俺のチームでしょ!あッ、また鼻血でた!」
「よく似合ってるな」
「鼻血も滴るいい男?」
「えッ、そう?って、嬉しくないから!ごんべ子、ティッシュ!」
淡々とカウントするまっつんさんと、何故か岩ちゃんを褒めるマッキーさん。そして、微塵も謝る気のない岩ちゃんに便乗してみると、すかさず徹ちゃんがノリツッコミをする。すっかりイジられ役が板についているようだ。
鼻を抑えながら、一瞬嬉しそうな表情になった徹ちゃんにポケットティッシュを手渡すと、慣れた手つきで詰めていた。よく鼻血出すなぁ。
「みんなもっと及川さんを労わるべきだよね!」
「え?痛めつける?」
「違うし!」
「ご要望にお応えしますか」
「だから違うって、松っつん!」
「どこにボール当てて欲しいんだ?」
「岩ちゃん、それただのイジメ!」
ぷんすか怒りながらティッシュを詰め終えると、徹ちゃんは他のメンバーに向かって若干嫌味っぽく言う。
この数時間しか一緒に居ないけれど、四人はいつもこんな感じなんだろうなと感じ取れた。何だかんだで愛されていることが本人もわかっているのか、さほど扱いを気にしていないようだ。まあ、ポジティブな性格もあるだろうけど。
「仲良いんだなぁ」
ぽつり、と呟いた言葉に徹ちゃん以外が「別に」と答えたけれど、結果として私には仲良しに見えたのだった。
「あー疲れたー」
辺りが暗くなるまでバレーで遊び倒した私たちは、ベンチや遊具に腰掛け汗を拭っていた。夢中になると時間が経つのはあっと言う間だ。
みんな優しくて、下手くそな私にも丁寧に教えてくれたおかげで、なんと、まともにサーブが打てるようになった!威力は別として。ほぼ初対面に近かったマッキーさんとまっつんさんともすっかり打ち解けられたし、バレーも上手くなった上にテスト勉強まで完了した。何て充実した休日だったんだろう。
「そろそろ帰っか〜」
「だな」
「ていうか、明日からテ…」
「みなまで言うな、及川」
徹ちゃんが言いかけた言葉をマッキーさんが制する。私も期末テストの存在を思い出し、つい口から零れ落ちた。
「そうだ、明日からテストだ…!」
「隊長よ…」
マッキーさんががっくりと項垂れながら、私の肩に手を置いて静かに首を振っていた。現実逃避したいのはみんな同じなんだな…そう思うと心強い。一刻も早く、この地獄のようなテスト期間を終わらせ、楽しく部活動に参加していることを切に願った。
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「相変わらずヘッタクソだったよね〜、ごんべ子」
「確かに顔面でサーブ打つ奴は初めて見たな」
「わざとじゃないし!それに、もうトスもあげられるようになったもん!」
「あんなの小学生でも出来るから!」
マッキーさんたちと別れ、徹ちゃんと岩ちゃんに挟まれながら帰路につく。久々に三人で歩いていることが少し嬉しかった。話題は私にとって嬉しいものではないけど。
「そうだ、今度東京遠征に行くんだけどお土産何がいい?」
「何でもいい」
「それが一番困るよ、岩ちゃん。とりあえずバナナでいいよね。徹ちゃんは?」
「俺は……って、ちょっと待って、いつ!?聞いてないんだけど」
岩ちゃんには、あの有名なバナナのお菓子でいいか、と脳内で決定していると徹ちゃんが突然私の肩を掴み揺さ振りだした。やめろ、世界が揺れている…!
とりあえず聞かれたことに答えようと口を開くも、間髪入れずに言葉を被せられ回答できなかった。
「どこの学校!?」
「梟――」
「東京のどこでやるの!?」
「色々――」
「マネちゃんお前以外にもいるの!?」
「落ち着けよ、及川」
聞いてくれ!と私が爆発する前に、岩ちゃんの冷静な声が徹ちゃんを制止する。頬を膨らませながらしぶしぶ私の肩を離した徹ちゃんは、大きなため息を吐いた。
「烏野、合宿多くない?しかも東京て!俺たち青城を差し置いて!」
「そこかよ」
「最近気づいたんだけど、ごんべ子のこと狙ってる物好きなんか居ないじゃん。まあ、何人か警戒すべき奴は居るけど本人がこの調子だし、そこはもう心配しなくていいと思ってさ」
「確かに。お前以外で見たことないしな」
「それ私の目の前で言うんだ…」
さりげなく私のことをディスってきている徹ちゃんと岩ちゃんに、今度は私がむくれる番だった。確かに私に好意を寄せてくれる人は居ないかもしれないけど、これでも立派な乙女だぞ!私だって、そのうち恋のひとつやふたつくらいするもん!そう言って反論してみても、軽く鼻で笑われただけだった。
悔しいけれど、これ以上は何も言い返せない。実は、これまで”小さな巨人”に憧憬の念を抱いたことしかないので、世間一般の恋愛感情はよく分からないのだ。
「でも、やっぱり心配は心配だからちゃんと電話出てよね!出なかったらイタ電するからね!」
「大丈夫だよ、今回他に女子も居るし」
「そういう問題じゃないし!俺がごんべ子の声聞きたいんだよ、気づけよバーカバーカ!」
「は、そ、そんなこと言われてもわかんないし…!」
怒ったり貶したり、でもやっぱり心配したりと忙しい徹ちゃん。私も言われっぱなしは悔しいので、言い返そうと思った矢先に恥ずかしいセリフを言われて思わず照れてしまった。不意打ちはやめてほしい!
「お前ら気持ち悪いな…」
私と徹ちゃんのやりとりを静かに見守っていた岩ちゃんの一言に、ハッと正気に戻った。徹ちゃんから告白されてからというもの、今まで気にも留めなかった言葉に意識が向いてしまって大変だ。きっと変わったのは私の方で、徹ちゃんはいつも通りなのだろう。
高校生になってからまだ数ヶ月しか経っていないのに、こんなに色んなことが変化するなんて思いもしなかった。
「とりあえず早く帰ろうぜ。ごんべ子も、明日からテストなんだろ?」
「あー…そうだった。赤点取ったら合宿行けなくなっちゃうんだよね」
「へー、じゃあごんべ子が赤点取りますように!」
「やめてよ、シャレにならないから!」
「マネが赤点ってマヌケにも程があるな」
「耳が痛いー!」
二人の言葉に耳を塞ぎ、聞こえないように「わーわー」と声を上げながら歩き出す。もしかして、私を鼓舞するためにわざと煽ってくれているのかも!ポジティブに捉えよう。そう思って二人の顔を見ると、絶対面白がっているだけだと悟った。特に及川徹。
「応援してよ!」
「痛ッ!なんで俺だけ!?」
最近、筋力が上がってきた腕でわき腹をパンチすると思ったより強烈な一撃を放ってしまった。
お勉強の時間
(あとは全力でテストに挑むのみ!)
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