イロドリミドリ

華やかな青、爽やかな黄色、穏やかな赤、並べ立てて彼女を思う。
どれが似合うだろう。どんな色を添えたなら、あのこの色が引き立つだろう。
彼女の恋は何色だろう。彼女の笑顔は何色だろう。
キャンパスの真ん中の彼女を思ってぐるぐるぐるぐる。わたしはパレットをかき回していく。

「これもいいな」
「これもすてき」
「あの子のコーデ、とっても似合う」
「あのバッグの色、すっごくかわいい」

日曜日の渋谷はカラフルだ。
街に行き交う女の子は自分というキャンパスに思い思いの色を敷き詰めて、それを見せつけながら歩いていく。そういう子たちはみんなどこか背筋がぴんとしていて、どこか行く足取りも軽く見えた。
その誰も彼もを見回しながら、わたしたちもまた、わたしたちの色を探す。
ハンガーに引っ掛けられた衣服を何度も見比べては戻し、この洋服ならあのネイルがいいとか、それならアイシャドウを変えてみたいだとか、雑誌で見たモデルがこんなコーディネイトをしていただとか。
似たような話ばかりなのにいつだって話題は尽きなくて、飽きることもなくわたしたちの両手は右に左にたくさんの色を探していく。

わたしたち女の子という生き物は、実はみんな生まれながらにして見えない魔法の絵筆を持っている。
その絵筆で絵の具を掬って、時に自分を、時に誰かを彩ることができるのだ。

この街はわたしたちのパレットだ。わたしたちを色とりどりに彩るためのありとあらゆる色が存在していて、魔法の絵筆を持っているわたしたちにはその色を好きに使うことができる権利がある。
かわいいフリルもひらめくフレアスカートもあっちにこっちに見比べて、つやつやイチゴが鮮やかなクレープをお腹に入れて、キラキラのジュースを飲んで、憧れの食器に自分の得意料理を盛り付ける妄想なんかして。
そこかしこに散りばめられた色をちょっとずつ掬って、拾って歩いて、身につけて、胸にしまって自分たちのものにしてしまう。
身につけた魔法の絵の具の彩りたちはいつだってわたしたちをステキに輝かせて、より魅力的にしてしまうのだ。

「ヒナの今日のワンピース、ステキね」
「そうなの! 見て、色がとってもかわいいでしょ?」
「似合ってる」
「ふふふ」

笑ってスカートを見せつける彼女に合わせて、柔らかい生地がふんわりと揺れる。彼女の嬉しさが宙を舞って、キラキラが彼女の周りを跳ねているようだった。
膝丈のワンピースの上で静かに目配せしてくるいつもより大人っぽい花柄は、きっと彼女の勇気のしるしだ。大好きな人に見せるために、きっと彼女は一所懸命ぐるぐるしながら悩んだのだろう。
ステキなあなた。ステキな恋をみつけたあなた。ステキなあなたに添えるなら、どんな色がいいだろう。

「次のデートに着てくの?」
「うん!」
「そっか、いいじゃん」
「タケミチくんも、ステキって思ってくれるかな」
「絶対思うよ。もし万が一花垣が弱虫毛虫が疼いて誉め言葉ひとつ言ってくれなくても、絶対」
「そうかな。そうだといいなあ」

ああ、そうだ、添えるのなら勇気の色にしよう。髪飾りなんていいかもしれない。彼女のやわらかい色の髪に添えたらパッと一層映えるようなものにしよう。
彼女のステキな彼が思わず勇気の一歩を踏み出したくなるような、一番眩しくて、一番ステキで、一番芳しい色がいい。
そしたらきっと、彼女の笑顔がそのキャンパスの真ん中で一番ステキに輝くはずだから。

「可愛いヒナを先に堪能しちゃって、花垣には悪いことしたかな」
「へへ、トクベツだよ」
「そうなの? 自慢しちゃおっかな。ヤキモチ妬かれるかもな〜」
「タケミチくん、妬いてくれるかな!?」
「ふふーん、任せなさあい」

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