プリーツスカートは夢を見る

初めて二人でスカートを短くした日、わたしたちはちょっとだけお姉さんになったのだ。

女の子っていう生き物はいつだって背伸びがトレンドだ。
テレビで目を引いた綺麗な女優さんに憧れてお母さんのとっておきの口紅をこっそり塗ってみたり、上級生のお姉さんについて回ってみたり、カッコよく見える角度を必死に鏡の前で探してみたり、履いたこともないヒールのサンダルを履いて転んでしまったり。
向上心はいつだって鰻登り、どこから湧いてくるのかいつでもやる気は満ち満ちていて、パワーだけがわたしたちの武器だった。
ファッション雑誌を端から端まで読み尽くして、関係ない広告のアオリ文句までもをすっかり覚えて、これがほしいって二人で指差したブラウスが二万円もして二人で目をまんまるにした。割り勘で一着買って二人で着回そうか、じゃあどっちが先に着ようかなんて、買うつもりもないのにマジメくさってじゃんけんをして五回アイコで笑い転げた。
休日になれば鞄いっぱいに服もメイク道具もみんなみんな詰め込んでお互いの部屋で鏡の前で着せ替えごっこ。観客はいつだってお互い同士のふたりぽっちのファッションショー。色とりどりを組み合わせて一番かわいいわたしたちを作り上げたら、そのまま出かけてあっちにこっちに安くて話題のお店を回り切って、憧れのティファニー・ブルーをガラス越しに眺めたりして、いつかきっとって笑うのだ。
おうちに行くとたまにマイキーくんが声をかけてくれたから、かわいいわたしたちを彼に見せつけてみたり、彼に会いに来たドラケンくんの前に最高にかわいいエマを突き出して、照れる彼女を眺めてみたりして。

かわいいエマ。かわいいわたしのお友達。
顔もとびきり可愛いけど、真っ直ぐで堂々しててでもちょっとシャイで、自分のいいところをちゃんと知ってる、ふわふわの髪が綺麗なわたしのかわいいお友達。

小学校からずっと二人で並んで歩いてきたから、お互いの一番似合うものは把握しきっている。
相手がどんなものが好きか、どうなりたいか、大好きな彼はどんな人が好きか、いまの流行りは一体何か、ずっとずっとふたりで議論してそのとき考え得る一番の最良を導き出してきたのだから。

進学してすぐの頃はちょっぴり迷っていた中学校の制服の膝丈のプリーツスカートは、二人でえいやって二回・三回って折ってみた。すうすうするちょっとこそばゆい心地に、二人で顔を見合わせてにやって笑った。かわいいね、かわいいねって、放課後の教室でくるっと回ってプリーツスカートの裾をひらめかせては言い合った。
クラスの誰も知らないわたしたちを、いつだってわたしたちだけが知っている。

わたしは今日も都合のいい夢をみる。
必死に折り曲げて短くしたプリーツスカートも足を細く見せたくて履いたルーズソックスも脱ぎ捨てて、綺麗なヒールや似合いのタイトスカートを履いてるのを見て、素敵だね、似合ってるよっていつもみたいに思いつく限りたっぷりの言葉を使って褒める夢を見る。
きっと大好きなあの人だって褒めてくれるよって二人で笑って、わたしはちょっぴり照れるエマの背をいつもみたいに押すのだ。

大人になったあなたに似合うだろう素敵な髪飾りを見つけたよ。ちょっぴり高かったけれど、きっとあなたのやわらかい色のふわふわの髪にピッタリの青いリボン。あの幸福の色のティファニー・ブルーにはちょっぴり足りないけど、あなたはきっと素敵な恋人から貰いたいだろうから譲ってあげるの。ねえ、いい友達でしょう?
だから。一番素敵なお友達になって見せるから、素敵な白いドレスを着たあなたを、あなたに用意してもらったとっておきの席で、今までのあなたの中で一番とびきり綺麗よって、あなたの大好きな人のその次に褒める権利をわたしにちょうだいよ。
大人になったあなたに会いたいの。本当だよ。本当にずっと、大人になった素敵なあなたに会いたかったの。
都合のいい夢をみる。今日もまた都合のいい夢をみる。覚めないことを何度も祈るのに、夢が夢である限り、いつか覚めてしまう。神様は人間の願いを叶えてくれる便利な道具じゃなかったのだ。

エマを置いて一人で脱いだスカートは折り皺だらけで、きっとどんなに頑張っても同じ形には戻らない。これを脱いだあと、明日どんな服を着て生きていけばいいのか、明日のわたしにはどんなものが似合うのか、わたしはもうわからなくなってしまった。
放課後の教室で翻った彼女の背伸びのあのプリーツスカートがわたしの胸の内で揺れるたび、彼女がどこまでも少女のままであるのだとわたしに証明し続けている。

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