NOTEBOOK

ジュンヒメ

2019.11.14

注がれるライト、色鮮やかなサイリウムの海。全てがステージの中心にいる自分達へ向けられていると思うと、高揚感を抑えられない。意外に思考は冷静で、客席へと視線を巡らせる、数多いる観客の中からただ一人の昔馴染みと視線が交わる。
嗚呼、その顔。親父さんの話をする度に浮かべていた表情。無意識かも知れないが、今は俺自身に向けている。思わず息を飲むと自然と口元に笑みが浮かんでいた。いつか、オレしか見えなくなるぐらい輝いてやりますから、目ぇ逸らさずに見てて下さいよぉ!

ジュンヒメ

2019.11.14

「ジュンくんだ」
驚きを隠せない声と共に伸びてきた両の手が頬を包む。ぺしぺしと叩いてみたり、少しつねってみたり。まるで存在を確かめるかの様に何度も繰り返される。
「本物?」
「本物じゃなかったら何なんですかねぇ」
そう簡単に偽物がいても困りますけどぉ、と付け足すと確かに、と納得した姫香の表情が物語る。相変わらず表情に出やすいこと。
「うん、私の知ってるジュンくんだ」
頬からゆっくり離れた手がぐるりと腰に回される。鍛えてるね、なんて呑気な発見をしているがこの現状、この距離の近さ。ぎゅう、と隙間なくくっつけられた体の女性特有の柔らかさは衣服越しに嫌でもわかる。
「…ヒメ」
「はいはい?」
あぁ、別に何も意識してない、と。寧ろ、含みのある行為じゃなくて子供時代の延長戦だ、と。これは途方もない時間を有する事になりそうだ。
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