10

「なまえ!どうだった?」

船の階段を上がると、ちょうど探していた人物がビーチチェアに腰掛けながらこちらに手を振っていた。

ナミさんは期待を寄せた表情をしておりやはり確信犯だったのだな、と苦笑いする。

「ちゃんとお礼言えました!びっくりしましたけどありがとうございます」

そうわたしはナミさんへお礼の言葉を口にしてぺこりと頭を下げた。

そして顔を上げればナミさんはニンマリとした顔をしている。

なんだかまた突拍子もなことを言われそうな気がする、とちょっと身構えた。

「いいのよ〜、お礼はこれで」

語尾にハートマークがついているのが想像つくくらい愉快そうに笑う彼女。

指で丸く形取られたジェスチャーはおそらくお金のことを指しているのだろうか。

「お金持ってないです…!」
「冗談よ」

私が素っ頓狂な声を上げるとナミさんはクスリと笑いながらさらりと流した。

そんなナミさんに私は力なく笑う。

ナミさんは冗談と言っていたけれど、結構目が本気だったのは気のせいでしょうか…。

気のせいだといいな、と1人思い巡らせる。

すると、ナミさんが手招きするようにちょいちょいと手を振ってきた。

「船の上の生活はどう?」

私が近くにあった椅子に座ると、ナミさんがそう問いかけてきた。

「はいっ、今日は朝食も賑やかでウソップさんとフランキーさんのお手伝いをしたり、楽しかったです!」

みなさん優しくしてくださってありがたい気持ちが溢れ出そうになる。

船長のルフィさんは私を快く受け入れてくれて、チョッパーさんは体調を気にかけてくれる。

ウソップさん、フランキーさんやロビンさんも声をかけてくれたり、とても温かい。

サンジさんに至っては一番優しく迎え入れてくれて、嬉しい反面恥ずかしい気持ちである。

ゾロさんは怖かったイメージがあったけれど、今日のお陰でちょっとだけ平気になった。

「ふーん…」

今日までの出来事を思い返しながら伝えてみたけれど、ナミさんの反応はイマイチ薄い。

なにか気に触ることでも言ってしまったか、おそるおそるナミさんの顔を覗く。

「ナミさん?」

そっとナミさんの手がこちらに近づく。

「ならもっと楽にしなさいよ」

むにっと頬が引っ張られる感覚がして視線を横に動かすとナミさんの手が見えた。

「へっ、ふぁにを」
「ちょっと堅苦しいのよ、もっと力抜いたら?」

少し眉を寄せて不満げな表情を浮かべているナミさん。

さきほどのジョークも私の緊張をほぐしてくれるためだったのかもしれない。

目が合い、ナミさんは私の頬から手を離す。

「へへ…すみません」
「あー…そういうとこなんだけど、まぁいいわ」

気を遣ってくれたから何か言わなきゃと口にしたけれど、ナミさんは別な意味で捉えたみたい。

日本人の特有の謝り癖を直すのがこんなに大変だとは…!

目の前の彼女は、額に手を当てながらふーっとため息を吐いて苦笑していた。

「女の子同士仲良くしましょうよ」

そういうナミさんは満面の笑みを浮かべてる。

元気な女の子という感じでナミさんの新しい一面を見れた気がした。

「あっそうだ!今日お風呂一緒に入らない?」
「一緒にですか!」

そうしたのも束の間、ナミさんの発言に私は動揺してしまった。

女同士だから入るのは平気だけれど、ちょっと気になってナミさんの胸元をチラッと見る。

「勝手に見て落ち込んでんじゃないわよ」

自分の寂しい胸を撫でながら暗い気持ちになり、ナミさんがつかさず厳しいツッコミを入れた。

とてもキレキレなツッコミに感心してしまう。

落ち込んでいた気持ちも忘れて感心していると、階段の方から足音が聞こえてきた。

「なんだかずいぶん楽しそうね」

そう言って現れたのは、この船の中のもう1人の女性のロビンさんだった。

ロビンさんともじっくり話せていなかったのでこれはとても嬉しい。

私はひとつ返事で答えて頷いた。

「ねぇロビンも一緒にお風呂入らない?なまえも誘ってたんだけど」

何を話そうか考えていたら、なんとナミさんはロビンさんにまでお誘いするではないか。

「いいわね女性みんなで入るのも」
「ちょ、ナミさんロビンさんまで一緒に入ったら私…!」
「大丈夫よ、死にはしないんだから」
「ナミさん私は意見は無視ですか!」

ナミさんの提案にロビンさんは、にこやかな笑顔で答えるので私は慌てて止めようとする。

けれど、ロビンさんまで乗り気になっているのでナミさんにもう手がつけられなかった。

とっくに私のライフは0よ…とあるフレーズが私の頭に思い浮かぶ。

「今日だけならご一緒に…」
「よし!約束ね!」

しかし楽しそうであることは間違いないので、一緒に入らせてもらうことにした。

かなり強引だったけれど、嬉しそうにしている様子のナミさんを見てホッとひと息つく。

女の子同士お風呂に一緒に入るのはいつぶりだろう。いやいやと受け入れた割にはウキウキしている自分がいて、じんわりと口角が上がった。


10.  船の上の女子会

(私もいつかナイスバディに…!! …ムリかな)

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