13

甲板へ行ってみると、芝生の上に一際目立つものがドンと置かれていた。麦わらの一味のみなさんも集まっている。

「この樽みたいなものは?」

樽みたいなものに薄汚れた旗が掲げられており、良くみると旗に『海神御宝前』と荒々しい文字で書かれていた。

「なまえ! これお宝かもしれねェんだ!」

そう目を輝かせて興奮気味に教えてくれたチョッパーさん。たしかに"宝"って書いてあるから財宝が入ってるのかもしれない。

「ほんとですか!」

何事もなく平穏だった船の生活で初めての出来事に私もワクワクする。

「残念、お酒と保存食よ」

けれどそれも束の間、二階のテラスから顔を覗かせていたナミさんにそうきっぱりと言われた。

「えっ、そんなー…」
「フフッ、惜しかったわね」

ちょっとお宝を見てみたかったな、としょんぼりすれば近くにいたロビンさんが慰めの声を掛けてくれる。期待していたルフィさんも「なんで見てねェのにわかんだよ!」と憤怒を表していた。

「『海神御宝前』って書いてあるでしょ」

と続けてナミさんが言うには、海の守護神にお供え物をして航海の無事を祈るためのものと説明してくれた。

それを聞いたルフィさんは「じゃ拾っても意味ねェじゃねェか」と項垂れる。しかし一方で、樽の中身にお酒が入ってることに喜んでいる人もいた。

「おう、せっかく酒だろ。飲もうぜ」
「バカ! お前バチが当たるぞ!」

フォアマストのベンチに座って、占めた顔をして飲もうと言うゾロさん。それに間髪入れずにウソップさんがつっこんだ。

たしかに神様のお供え物に手を出すのは如何なものかと私も首を傾げる。

「大丈夫なんですか?」
「お祈りすれば飲んでもいいのよ」
「おれは神には祈らねェ」

なんと、お祈りすればいただいていいそうだ。それを聞いたゾロさんは眉を寄せる。

ゾロさんの怖いもの無さに「わぁ…」と思わず声を漏らすとジロリと睨まれた。あまりの眼光の鋭さにぶるりと震え上がる。その目は怖すぎます…!

居たたまれなくなりゾロさんの視界から外れるように近くにいたロビンさんの背中にさっと隠れる。ちらりとロビンさんの顔を覗いてみると何も言わずに笑ってくれた。

ゾロさんはと言うと、波にもまれたお酒は格別に美味しいらしいと皆さんが満場一致で樽を開けることに目を向けている。

ルフィさんたちが樽を開けている様子を眺めているとチョッパーさんに質問された。

「なまえはお酒飲めるのか?」
「いえ!まだお酒飲めないんですよ」

こてん、という音が聞こえてきそうな仕草をするチョッパーさん。私はまだ未成年でお酒が飲めないので肩をすくめた。

「そうなのか!成人してるようには見えねェもんな」
「私そんなに子どもっぽく見えます?」
「うーん、大人には見えねェ!」

悪意のない笑顔でずばりと言い当てられた。返した答えに妙に納得されてしまって、私はなんとも言えない気持ちになる。成人はしていなくとも子どもという歳でもないので、やっぱり日本人は幼く見えるんたろうか?

あれこれと考えていると「魔術師さんはチョッパーと同じく食料の方ね」と、ロビンさんがくすりと笑って言った。

なんだ、チョッパーさんも私と同じじゃないか。というよりも今現在、居候状態の私にも取り分をくれることに少し驚いた。

樽に悪戦苦闘しているルフィさんをそわそわとしながら待っていると、カポッと蓋が開く音が聞こえた。私の中で宝箱を開ける時のような大きな期待が膨らむ。

「よし開いた!」

すると、ボシュ!っと大きな発泡音が響いて勢いよく何かが打ち上がった。追うように空を見上げると、上空に赤い閃光が走っている。

「何だ!?」

突然の眩しい光に包まれ、私も含め皆さんが目を細めながら唖然とする。

「酒が飛んで…光って消えた」と、こぼれ落ちそうなくらい目を見開いて驚いているチョッパーさんを見て私もようやく口を開いた。

「花火…ですか?」

樽の中を覗いてみると、目に入ったのは底板だけ。食料やお酒なんて入っていなかった。

「発光弾よ」

そう答えてくれたのは、いつも通りの冷静沈着なロビンさんだった。けれど、安堵するのも一瞬で、何やら考え込むように顎をさするロビンさんに不安を覚えた。

「…ただのイタズラならいいけど…もしかしたら、この船が誰かに狙われるかもしれないわ」
「まさか、そういう罠なのか!?」
「どこにも誰も見えないぞ!?」

ロビンさんの言葉にみんながどよめく。みんなが口々に言い合っている間、私はただひたすら聞くことしか出来ず、嫌な汗が背中を伝う。

「みんな持ち場に!南南東へ逃げるわよ!」

一番先に動き出したのはナミさん。緊迫した表情で指示を出した。一味の皆さんはぞろぞろと動き出す。

5分後に"大嵐"が来るとナミさんが言っており、周りの様子から只事ではないと感じられる。

(そういえば…)

持ち場に、と言われたが居候の私は決められた場所がないので手持ち無沙汰であり、その場であたふたする。

「ナ、ナミさん!」
「アンタは私のそばにいて!」

手伝いを申し出ようと声を掛けたけれど、素人に細かく指示を出している暇なんてないのだろう。ナミさんの対応は当然だと思ったが、自分の不甲斐なさを感じてキュッと唇を噛み締める。

先程の賑やかな雰囲気から一転、不穏な出来事が立て続けに起こるなか、私はただただ無事に切り抜けられることができるように祈ることしかできなかった。

13. 始まりは嵐のように

(ソルジャードックシステム!チャンネル0!)
(コーラエンジン!)
(進めーーーっ!!)
(なんでコーラで動いてるんですか!?)

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