15

「ナミさんとサンジさん大丈夫ですかね…」

幽霊船と出会ってから暫く経った頃、偵察へ行った3人の安否が心配になってくる。

事の始まりは「見に行く!」と言い出したルフィさん。言い出したらもう止まらない。好奇心旺盛な船長を筆頭にストッパー役としてナミさんとサンジさんが着いて行ったのだ。

ちなみについて行く人を決めるのに公平性を保つべく、くじ引きで決めた。私は運良く外れてこちらの船で待機しているところである。

「心配なら嬢ちゃんも着いていきゃあよかったんじゃねェか?」

そう言ってきたのはフランキーさん。私がぽそりと呟いたことを聞いていたみたい。フランキーさんの思い付きにちょっと顔をしかめる。

「うっ、それは嫌です…」
「だよなぁ。ま、アイツらなら心配ねェだろうよ」

露骨に嫌な顔を浮かべている私を見たフランキーさんは冗談ぽく笑った。心配ないと言うフランキーさんにどうしてそう思うのか少し気になる。

「なんで分かるんですか?」
「んァ、おれァ最近この一味に入ったばかりだったんだが、皆ツワモノ揃いよ」

聞いてみれば、この船の一味の皆さんはとても強いという。それが心配ないと言える理由みたいだ。私は「へぇ!」と感心の声をもらす。

「ま、おれのスーパーな攻撃に比べたら屁でもねェけどな」
「屁を出す変態はおめェだろ」
「屁?」
「やめろ褒めるんじゃねェやい。おっと話が逸れちまったな」

「褒めてねェよ」と渋い顔をしてつっこむゾロさん。どちらかと言うと罵倒に近い言葉を掛けられたのにフランキーさんは照れていた。

屁を出すとはどういうこと?いまいち話に着いていけない私は、頭の上にはてなマークを浮かべていた。

「みなさん強いんですか?」
「あぁ、めちゃくちゃ強ェぜ?」

そう言いながら自信に満ち溢れた表情を覗かせるフランキーさん。好戦的な顔が垣間見えて、ああ、この人は海賊なんだと思い知らされる。しかし、そんな時ーー…

「ギャァアアァッ!!」
「悪霊退散!ルフィ安らかに眠れ〜〜ッ!」

叫び声が聞こえたのは幽霊船の方からだった。目を凝らすも霧が濃くてルフィさんたちの身に一体何があったのか分からない。幽霊に襲われたのだろうか。ウソップさんは十字架を掲げてお祓いするようなポーズをとっている。

「………。」
「……だ、大丈夫だ。多分」

先ほどルフィさんたちは強いと話していた矢先だ。苦しそうに取り繕うフランキーさんにほんとうに大丈夫?と思いながらジロリと顔を覗く。しかし問いただしたくなる気持ちをグッと抑えてルフィさんたちが無事帰ってくることを祈り、私は海の向こうを見つめた。



*



あれから数分時が経ち、海上を眺めていると幽霊船の方から小舟が帰ってくるのが見えた。

「ルフィさんたち帰ってきました!」
「やっと帰ってきたか」
「呪われてないといいわね」
「縁起でもねェこと言うなよロビン!」

私の声に待機していた皆さんがわらわらと集まってきた。先ほどの叫び声にロビンさんが呪われていないか冗談っぽく言っていたけど、間に受けたチョッパーさんのように私もまさか、と身がすくむ。

「は〜!楽しかった!」
「た、ただいま…」

船に登ってきたみなさんの顔を見てホッと一安心した。ルフィさんは相変わらず元気そうで何より。ほかの3人はよっぽど怖かったのか、それとも船長に振り回されて疲れたのかゲッソリとした様子である。特にもう1人なんてガリガリすぎてもはや骨ではないか…あれ?4人…?

「私、この度この船にご厄介になることになりました。"死んで骨だけ"ブルックです!どうぞよろしく!」

「ふざけんな!!!なんだコイツは!!!」

一体なんなんだ。声は荒げなくとも私も皆さんと同じく戸惑う。"コイツ"と呼ばれていたのは先ほど幽霊船で見た骸骨ではないか。

しかし、私たちの反応に対してその骸骨は友好的な態度である。ブルックと言う名前らしい。あれ?というか骸骨が喋らなかっただろうか?

「が、骸骨が喋って…!」
「骸骨が喋って動いてアフロなわけねェ!」

もちろん、動いていることも驚いたけど私が今一番びっくりしていることが骸骨、というかエネミーが自らの意思を持っていることだ。その証拠に、

「おや、美しいお嬢さん。パンツ見せてもらってよろしいですか?」
「やめんか!!セクハラ骸骨!!」

その骸骨はロビンさんにパンツを見せて欲しいと要求した。ナミさんに殴られて未遂に終わったけど唐突なセクハラに私もびっくりだ。欲がありすぎる。操られているエネミーではないのだろうか。

「エネミーなのに自我を持ってるなんて…!魔力のリソースはどこからなんですか?」

そんな不思議な骸骨に疑問が湧いて近くに寄り穴が空くほど見入る。すると、その骸骨は私の視線に首を傾げた。

「エネミー?何のことでしょうか…?あっところでよく見れば可愛らしいお嬢さん、パンツ見せてもらってもよろしいですか?」

「あっ私パンツ見えないんですけど…」
「見せるかァッ!!!」
「おめェも見せようとすんなッ!!」
「はっ!あまりにも自然で流されました…!」

言われるがまま、ジーンズに手を掛けようとすると骸骨の頭にサンジさんの蹴りが炸裂する。その光景をぽかんとして見ているとゾロさんの鋭いツッコミを入れられた。

どこまで要望に忠実なエネミーなのだろう。スケベ心フルオープンだ。堂々としすぎていて危うくパンツを見せるところだった。

「おい、ルフィ!こいつはなんだ!!」
「面白ェだろ。仲間にした」
「したじゃねェよ認めるか!!」

なんと、物珍しさから仲間にしたらしいルフィさん。わりと簡単に仲間にするタイプなのだろうか。何ともいえない顔をしていると、ゾロさんがさらに声を荒げた。

「おめェらは一体なんのためについてったんだ!?こういうルフィの暴走を止めるためだろうが!」

そう怒りを露わにするゾロさん。「面目ねェ」とナミさんとサンジさんは申し訳なさそうな表情を浮かべて頭を下げている。なんだか居た堪れなさそうだ。

「ヨホホッ!まあ、そう熱くならずに!どうぞ船内へ、ディナーにしましょう!!」
「てめェが決めんな!!!」

2人を叱責しているゾロさんを宥めるように骸骨が我が物顔で喋った。とてもマイペースで全員から総ツッコミを入れられる。ゾロさんに至っては怒りが頂点に達して鬼みたいな顔をしていた。

なんやかんやで、骸骨の方と一緒に私たちはリビングへ足を運び始める。歩きながら、ふと疑問が思い浮かんだ。

「あれ…?骸骨なのに食べ物食べれるんですか!?」
「ツッコむとこそこかおまえ」


15. 愉快な骸骨

(とりあえず敵じゃないのなら一安心)

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