07

「そういえば、チョッパーさんってなんで喋れるんですか?」

使えるベッドがここしかないということで再び船医室へ案内されベッドでくつろいでいた私はチョッパーさんにそう問いかけた。

机に向かっていたチョッパーさんは椅子をくるりと回してこちらに視線を向ける。

そして、手を顎につけてうーんと唸った。

「おれは悪魔の実を食べて喋れるようになったんだ」
「悪魔の実?」

初めて聞く物騒な名前に、こちらの世界には摩訶不思議なものがあるのだと少し興味を抱く。

「もしかして知らないのか?」

悪魔の実が一体何なのか分からないでいると、チョッパーさんは珍しいものを見たように目を丸くした。

「あっ、あんまり物知りじゃなくて…えへ…すみません」

チョッパーさんの様子に私の質問はかなり常識的なものだったんじゃないかと焦る私。

「いや、悪魔の実は珍しいものだから知らなくても無理はねェよ!」

チョッパーさん曰く悪魔の実は、なかなかお目にかかれないものだという。

知らなくても大丈夫だったのでほっと一息を吐き、私はベッドの背もたれに寄っかかった。

「そうだったんですね…!通りで聞いたことないと思ってました」
「ああ、悪魔の実は色んな種類があって食べると超能力を手に入れることが出来るんだ」
「じゃあチョッパーさんはその超能力のお陰で喋れるようになったんですか?」
「そうだ!おれはヒトヒトの実を食べたから人の言葉を喋れるようになったんだ」

食べると不思議な力を手に入れられる実がこの世界にあることを知ってとても興奮する。

「すごいですね、悪魔の実って」

ずっと疑問に思っていたことが晴れてスッキリした気持ちでいると、チョッパーさんが不安げな表情を浮かべた。

「なあ、なまえはおれを見て怖いって思わなかったのか?」

書き物をしていた手を止めて、くるりとこちらに体を向けるチョッパーさん。

弱々しい声音で問いかけられ、私は不思議に思う。

何度か怖いと差別されてきたのだろうか、分からないけれどかなり気にしているようだった。

帽子からぴょこんと出ている耳が垂れている。

「…驚きはしましたけど、怖いとは思いませんでしたよ」
「本当か?」
「はい!」

正直に思ったことを口にすれば、チョッパーさんは顔を上げて、ぱあっと頬を綻ばせた。

「へ、へへ…そっかぁ…!」

椅子に座りながら、足をぷらぷらと揺らすチョッパーさん。

周りにふわふわお花が飛んでるように見えて、私の顔がにへらと緩んでしまう。

ついつい勢いで「かわいいなぁ」と口から溢れた。

「か、可愛いなんて言うな!オスだぞおれは!」
「ふふ、すみません」

かわいいと以前も言われたことがあるのか、複雑そうな顔でプンプンと怒るチョッパーさん。

「まぁ兎も角、体調もよくなったみたいだし安心したよ」
「はい、今日はほんとにありがとうございました!」

ひと段落したところで、チョッパーさんが私の体を気遣った言葉を掛けてくれた。

ご飯や服、お風呂からなんでも不自由なく今日一日過ごせたのはチョッパーさんが診てくれたおかげだとほんとに感謝している。

お礼を言えばチョッパーさんは「へへへ…」と鼻を高くした。

「医者として当然のことをしたまでだ」
「チョッパーさんは優しくて、医療の腕もあってすごいですね」
「そ、そんなこと、言われたって嬉しくねーぞ!コノヤロがっ!」

私が思ったことを口にすると、怒った口調でチョッパーさんは嬉しそうに体をもじもじさせている。

感情が隠せないタイプなのか、いろんな表情を見せてくれるチョッパーさんはかなり面白い人?動物だ。

「そうだ、おれは男部屋で寝るけど、何かあったら言ってくれよな!」

そう言うチョッパーさんは先程までペンを走らせていた書類を書き終えていた。

「朝はみんなでご飯を食べるから、それまでには起きててくれ」
「はい、分かりました」

チョッパーさんが言うことに私は返事を返す。

朝ご飯もサンジさんが作ってくれるのだろうか。

明日も、麦わらのみなさんとご飯を食べることができるらしく朝がとっても楽しみになった。

「それじゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」

チョッパーさんは机の上のランプを消して、ぴょんと椅子から降りた。

そして、部屋の扉を開き私の方を振り向く。

私もおやすみと挨拶を返せば、チョッパーさんはほんわりと笑って扉を閉めた。

部屋には、ほのかに磯の香りが漂っている。

私は、見慣れない天井を見つめながら明日に期待を寄せて、そっと目を閉じた。


07. 不思議な実としゃべる動物

(明日、ご飯食べ終わったら何をしようか)

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