08

私は今、朝食を食べ終え、みなさんがそれぞれの持ち場に解散したところ、暇を持て余している。

何もすることがないので、真っ白な手すりに肘杖をつきながら船の上から見える青い海を眺めていた。

ふと、今日の朝のことを思い出す。

朝、私は朝食を楽しみにしていたのにも関わらず寝坊してしまった。

昨日はハプニングの連続で体が相当疲れていたのかもしれない。ぐっすり眠り過ぎた。

声を掛けられて目を覚ますと、サンジさんに顔を覗かれていて私はギョッとして飛び起きた。

なかなか起きない私を起こしに来てくれたみたいで、その時のサンジさんは私と正反対の、にこやかな笑顔を浮かべていた。

「寝顔がかわいくてつい見入っちゃった」

なんて言ってくるものだから、朝からパニックだった。

勝手に部屋に入ってごめんね、と言っていたが、声を掛けられても起きなかった私が悪いと思う。

しかし、間抜けな姿を見られたと思い出すたび、とても恥ずかしくなった。

サンジさんには朝食を用意してもらって、さらに起こしに来てもらったのだ。

流石にお世話になりっぱなしはいけないと思い、朝食の後片付けをすると申し出たがサンジさんから笑顔でやんわりと断られてしまったのだ。

そして、今に至る。

こちらの世界に来て、今日で2日目。

衣食に困らない点ではとてもラッキーな展開であるが解決の道まで、たどり着けそうになさそうだ。

そんなことに思い巡らせていると、「おーい」と横から声を掛けられた。

声が聞こえた方へ振り向くと、ウソップさんが何やら工具を手に持ってそこに立っている。

「ウソップさんどうしました?」

肘杖をついていた手すりから少し離れて、ウソップさんにそう尋ねる。

すると、ウソップさんは甲板の芝生の上を歩きながらこちらに近づいてきた。

「なぁなまえ、今暇そうだよな?」
「とても暇です」
「じゃあ、ちょうどいいや!ちょっと手伝ってくれねェか?」

何を言われるかと思えば、ウソップさんからお手伝いを頼まれた。

何もすることがなかった私にとって、そのお願いはかなり救いである。

嬉しくて思わず前のめりになりながら「はいっ」と返事をすると、「元気だな」とウソップさんに苦笑された。




「うわぁ…!こんなところがあったんですね」

ウソップさんに案内され着いて行くと、そこには鉄板や木材と色んな工具が部屋中に広がっていた。

壁には「USOPP FACTORY」と書かれた布が貼り付けられていて一際目立っている。

「おうよ、ここでおれが色んなものを発明してるんだ」

工場もとい、色んなものがわんさか置いてある工房を見渡していると耳に入ってきたウソップさんの発言に驚いた。

「ウソップさんなんでも作れるんですか!?」

私の反応を見てウソップさんは満更でもなさそうな表情を浮かべる。

「いやなんでもってわけでもねェけど、かなり使えることは保証するぜ」

ウソップさんはそう言うと、近くにあった大きめのハンマーを手に取ってみせた。

「ウソップさんって実はすごい人だったんですね…!」
「ま、まあな!」

ウソップさんの自信ありようから、私は褒めたのだけれど、狼狽えた様子でなんだかタジタジである。

不思議に思いながらウソップさんを見ていると、部屋の奥から聞き覚えのある低い声が聞こえてきた。

「おー、嬢ちゃんじゃねェか。手伝いに来てくれたのか?」

奥の木材の間から顔を見せたのは、やはりフランキーさんだった。

「はい!私でよければお手伝いします」
「あぁ、そりゃあ大助かりだ。早速手伝ってくれ」

そう言われた私は、腕まくりをしてフランキーさんとウソップさんの間に入り、話を聞きながら手伝いを始めた。


*


「なあ、そういえばなまえって魔術師? なんだろ?」

作業がもう少しで終えそうだ、というときウソップさんがふと聞いてきた。私は手を止めて顔を上げて目をぱちくりする。

するとウソップさんが続けて、

「ほら、もし魔法が使えたらこういうのちゃちゃっとできるのかなって思ってよ!」

そういうウソップさんはちょっと期待のこもった眼差しで私を見てきた。持っていた金属のパーツをじゃらじゃらといじっている。

「嬢ちゃん魔法は使えねェのか?」

横でフランキーさんも聞いていたのか、たしかに、と頷きながら私に問いかけた。

「あの…私”魔術礼装”がないと魔法、というか魔術が使えないんです」
「”魔術礼装”?」

みんなが一端、作業を止めてシーンとした工房のなか、私の声と2人の疑問の声が響く。

「私が着ていた服のことです。あれのおかげで魔術が少し使えていました」

私が魔術礼装について説明をすると、2人は思い出したのかハッとした表情へ変わった。

「あー! 最初に着てたなんか変わった服か!」

ウソップさんが言ったことに、そうそれです!と私は頷く。

「今ちょうど乾かしてるな」
「そうだったんですね! 乾いたらお見せしましょうか?」
「おお、いいのか!?」

今日はいい天気だったから外に洗濯ものを干していたことを思い出す。

ついでとばかり、服が着れるようになったら魔術を披露しようと聞いてみると、ウソップさんは顔を輝かせた。

「いいですよ」

フランキーさんの周りまでキラキラが飛んでいるように見えて私は口元が緩んだ。

「おう話はついたか? ちゃっちゃと終わらせるぞ」
「はい!」

見計らってくれたフランキーさんがきりの良いところで口を開く。

ウソップさんとの約束を思いながら、私はフランキーさんに言われた通り作業を再開し始めた。


08. 技術士と魔術師

(手伝ってくれたお礼にこれやるよ)
(ありがとうございます! なんですかこれ?)
(ウソップ輪ゴームだ!)
((輪ゴム…))

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